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第21話

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《TBside》

 昨晩は、楽しみ過ぎて夜も眠れなかった。今日のお茶会を一体どれほど待ち侘びたことか。ランスよりも、べリザード大公令嬢よりも何倍も楽しみにしていた自信がある。
 従者を連れランスと共に馬に乗り、べリザード大公家邸宅を目指す。馬車ではなく馬に乗って行くと言ったおれに酷くランスは驚いていた。べリザード大公令嬢を嫉妬させなければね。

「あなたも一人で馬に乗れるのに、どうして俺と一緒に乗ったのですか?」
「べリザード大公令嬢がどんな顔をするのか見てみな」

 そう言ってニヤリと笑ったおれの顔を見て、ランスは何故かポッと頬を赤らめた。見た目はこんなに良い男なのに可愛いところは相変わらず。最近はよく表情も変化するようになったし、可愛いところしかない。
 そうこうしているうちに、べリザード大公家邸宅へと到着した。門辺りでべリザード大公家の軍人たちに、招待状の有無を求められる。ランスは顔パスらしく軍人たちは恭しく挨拶をした。

「兄も共に招待されている。通せ」
「し、しかしオルドガルド元帥。お嬢様からオルドガルド元帥以外の方々は皆招待状を確認すように、と仰せつかっております」

 軍人の言葉に、ランスの目付きが険しくなる。明らかな不機嫌さに軍人たちは身を震わせた。ランスは今にも腰の剣を抜きそうな勢いだ。

「招待状は燃やしました」
「え、?」
「ビリビリに破いた後に炎に投じましたよ」

 さも当たり前かのように悪びれる様子もなく答えるおれの様子に軍人たちは戸惑いを隠せないでいた。すると、そこへ遠くの方からパタパタと駆けて来る女性の姿が。

「ランス!」

 口紅の塗られた美しい唇が、ランスの名を告げる。長い金髪を緩く結い、上品に溢れたドレスを翻しながら走って来る。オレンジ色の瞳は最早ランスしか映していない。今回おれたちをお茶会へと呼んだ張本人、べリザード大公令嬢だ。おれと同じ呼び方でランスのことを呼んでいる。酷く腹立たしい事実に、おれはせめてもの抵抗として気づかれないようにランスの太腿を思いっきり摘んだ。「くっ、」と声を上げて痛がるランス。良い気味だ。
 べリザード大公令嬢は、ふと足を止めておれの姿をその瞳に映した。同じ馬に乗り、更にランスの腕がおれを支えるようにして巻き付いている。べリザード大公令嬢は、その美貌を僅かに歪ませて嫉妬に満ちた目でおれを見上げた。あぁ、その顔が見たかった。しかし、すぐにべリザード大公令嬢はニッコリと笑ってランスを見つめた。

「ランス。今日は来てくれてありがとう。いつも忙しいあなたが来てくれるなんて嬉しいわ」
「………御招待いただきありがとうございます。今日は、たまたま休みが重なっただけですのでお気になさらず」
「もう…。いつもは敬語じゃないのにこういうときだけ…。兄君によく見られたいのかしら」

 あー、この人。今あからさまにおれのことを敵視した。いつもは敬語じゃないと言われたことに対してランスは必死におれに向かって弁解を始めた。何でおれに弁解してるの…。
 ランスの言葉を聞き流しながら、おれは豪快に馬から降りる。驚いた顔をしているべリザード大公令嬢に形式ばった挨拶をする。
 これまで直接的には言っていなかったし自分で言うのも何だけど、おれは顔が良い。母の美貌のおかげだ。正直ぶっちゃけると、べリザード大公令嬢よりも良い顔を持っている自信がある。実際、先程まで俺を止めて居た軍人たちも顔を赤らめているし。べリザード大公令嬢が上品さを売りにするなら、おれは可憐さと妖艶さだ。お子ちゃまのような色気には負けてられない。

「お招きいただきありがとうございます。べリザード大公令嬢」
「………お越しくださりありがとうございます。ティファニベル様」
「今日を楽しみにしていたんです。あなたに会うのが本当に本当に待ち遠しくて。早くあなたの紅茶が飲みたいです」

 そう言って微笑んだおれに、ピクリと体を動かし僅かな動揺を見せるべリザード大公令嬢。
 お茶会と言えば、紅茶とお菓子だ。当たり前に使われる紅茶という言葉に動揺を示した。今感じている不吉な予感は、きっと命中するだろう。
 べリザード大公令嬢は動揺したことを誤魔化すように、おれとランスをお茶会の場へと案内した。既に全員が揃っている様子だ。多くの御令嬢方に加えて、御子息方も参加している。この光景は、お茶会と言う名のお見合いの場と言った方が正しいかもしれない。中には噂好きのガラクシア公爵令嬢、カーデリアン伯爵令嬢、更にはウラルデッタ次期公爵もいる。おれはべリザード大公令嬢にウラルデッタ次期公爵の隣に座るよう促され、大人しくそれに従った。一際豪華な二つの空席にすわるのは、間違いなくべリザード大公令嬢とランスだろう。

「皆様、本日は私、アテネシアナ・オービヌ・ルシュー・べリザードのお茶会に御参加くださったこと、心より御礼申し上げます。ぜひ楽しんでください」

 薔薇が咲き誇るように笑うべリザード大公令嬢の姿に、おれは再び不吉な予感を感じたのだった。





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