上 下
115 / 120

第115話

しおりを挟む
《RDside》

「げほっ…」

 咄嗟に口に手を当てると、少量とは言えない血がべちょっと付着していた。
 膨大な魔力が込み上げてくる。体が負担を感じているのだ。
 たぶんだけどおれじゃなかったら死んでるからね!?これ!!!
 心の声は師匠たちには届かない。叫びたいのに叫べない。無理に声を荒げれてしまえば、もっと血を吐きそうだから。
 黄金に光り輝く大魔法陣が展開される。《テリオン教》の魔法使いや魔女たちは、喜びに溢れたような表情を浮かべながらひたすらに詠唱を唱える。

「う、そ…」

 か細い声が漏れる。
 黄金の大魔法陣の中心。爆音と共に天井が崩れ落ち、天空を割るようにして一筋の太陽柱が現れる。突風に飛ばされそうになりながらも、何とか地面にしがみつき耐える。
 眩しいほどのゴールドの長い髪に、バイオレットサファイアの瞳。明らかに人ではないものが、降臨するようにして地面に降り立った。

「久々の地上だ」

 淡い色の唇から発せられた声は、身震いするほどの威圧感が込められていた。
 最高神スクルオ。太陽神にて、神々の頂きに君臨するこの世ならざるものだ。悪しきものの頂きが魔神オルクスなら、その対極に位置する神だ。
 場違いで本当にごめんなんだけど、めちゃめちゃイケメン…。絶句するくらいにイケメン…。雰囲気がオルクスに似ている気がするし。

「このときを待っていた…。実に待ちくたびれたよ」
「時間がかかり申し訳ない。最高神よ」

 師匠が頭を下げながら謝罪をする。
 老いぼれめっ!最強の大魔法使いであるおれを差し置いて、先にイケメンと会話するとかっ!許せん!!!
 そんなおれの胸の内も知らずに、師匠と最高神スクルオは話し続ける。
 それにしても、どういうことだ…?悪しきものではない最高神スクルオが何故、《アルムグリスト》と《テリオン教》の世界征服の手助けをするんだ?しかも生贄まで…。待って。さっき、師匠が「時間がかかり申し訳ない」って言ったよね。もしかして、前にも一度、最高神スクルオを召喚したことがあるの…?まさか、既におれ以外の生贄を捧げたのか?だとしたら、さすがの最高神スクルオも悪しきものへと堕ちるんじゃ…。
 最高神であるイケメンが悪へと堕ちる姿を想像して、密かにニヤつく。
 今は興奮してる場合じゃないのに!

「二人目の生贄は、あの魔女の息子だね」
「あの魔女…?」

 皇帝陛下が問いかける。
 二人目の生贄は、あの魔女の息子。つまり、最高神スクルオは、おれのことを言っている。しかもあの魔女って、おれの母親のことじゃん!師匠…。自分の弟子で、しかもおれの母でもあるシャルロディーテ皇女の遺体を生贄にしたのか!?マジで許せんな!!!どうしてやろうか!?
 抑えきれない怒りが込み上げてくる。魔法は使えないはずなのに、感情に伴い体内で魔力が暴走し始めているのが分かる。淡い桃色の光が魔法陣を徐々に包み込んでいく。
 一体どうしたらいい。皇帝陛下は、動きを封じられて動けない。最高神スクルオに、そしてこの量の魔法使いや魔女たち、野蛮人たちに勝つためには_______。
 頭をフル稼働させたその瞬間、背後で扉をぶち開ける音が聞こえた。

「リダ!!!」

 フェルの声が聞こえた。咄嗟に振り返ると、そこには待ち焦がれた六人の男の姿があった。

「みんな…」

 感極まって、涙が溢れる。

「二人とも、怪我はねぇな…」
「絶賛生贄に捧げられそうになってるけど」
「とりあえず皇帝陛下もリダも生きてるし良いんじゃない?」
「死なれていたら困りますよ」
「あの連中をどうするかを考えましょう」

 ルウくん、フレイ、イルちゃん、ノル、ユージンまで…。
 六人の夫が来てくれたんだ。何とかなりそうな気がする。いや、何とかなんでしょ!!!

「どうしてここが分かったんじゃ!?」

 師匠が鬼の形相で叫ぶ。
 あの優しいおじいちゃんだった師匠がそんな顔をするなんて。人って本当に見かけによらないな。ていうか、逆に何で分からないとでも思ってたわけ?おれの旦那様たち、なめないで欲しいんだけど。
 
「まぁ怒らないでよ。魔法が使えないなら、僕からしたらゴミクズだ」

 最高神スクルオが余裕そうに微笑んだ。
 最高神もゴミクズとか言うんだ…。まぁいけめんだから許すけどねっ!

「魔法だけが全てだと思うなよ!」

 フェルが聖魔法を使おうと手をかざした瞬間、眩い光線が宙を駆け壁を焼いた。最高神スクルオの仕業だ。咄嗟にそれに反応を示した暗殺者のフレイとイルちゃんが動こうとする。しかし…。
 
「少しでも動いたら今すぐにその生贄の首をはねるよ」

 最高神スクルオは、嘲笑うように脅した。
 おれを人質に取られてしまえば、簡単には動けなくなる。あぁ、最悪。本当に最悪。魔法陣のせいで意識が朦朧としてきたし、挙句の果てに魔力まで暴走しようとしてるし。イケメンの顔を拝んで死ぬのもいいかもしれないけど、せっかくイケメンの旦那様が六人もできたんだから、まだ死にたくない…………………………。うん?六人?違う。おれには、もう一人、旦那様がいるじゃんか。

「ははははははは!!!!!!」
「何だ…ついに狂ったか?」

 大笑いをするおれを見て、ボスが冷静にそう言った。

「残念♡おれは最初から狂ってるよ。

 ニヤッと口角を吊り上げる。裏世界を牛耳る《アルムグリスト》の野蛮人でさえしないような極悪人の表情だ。
 師匠と最高神スクルオは、眉を顰める。「あの人とは誰だ?」と。
 契約を締結した者のみ、綴ることができる禁断の名。おれは、最後の旦那様である愛しのイケメンを呼び出した。


「オルクス」





‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
第10回BL大賞奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 2023.12.11~アンダルシュノベルズ様より書籍化されます。 ◇◇◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

処理中です...