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第114話

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《RDside》

 目覚めると、そこはとてつもなく広い部屋だった。シルヴェストル大帝国の皇宮の玉座の間と同じくらいの広さだ。
 おれは、その空間に一人きりではないことを瞬時に理解した。おれを取り囲む大勢の魔法使いと魔女。鴉のように真っ黒なローブには、禍々しい紋章のようなものが描かれている。どこかで見た記憶がある印だ。
 魔法使いや魔女だけでなく、物騒な格好をしている男たちもいるではないか。
 おれは、それを見て何となく察する。《テリオン教》と《アルムグリスト》じゃん…と。
 正面の中心。おれを連れ去ったと思われる師匠がそこにいた。
 フレイたちが居場所を特定するよりも早く、おれが連れ去られてしまった…。師匠は何で、おれを連れ去ったのだろう。

「くっ…」

 そこまで考えたところで、後ろから小さな呻き声が聞こえた。振り向くと、そこには頭を押えながら上体を起こす皇帝陛下の姿が。おれは即座に駆け寄る。

「大丈夫ですか?」
「ここは…どこなんだ…。あいつらは…一体…」

 皇帝陛下は、師匠の姿を目に入れるなり、物凄い殺気を出す。
 師匠の隣、たった一人椅子に座る男が口を開いた。

「よう。シルヴェストルの君主。大魔法使い」

 凛とした声。プラチナブロンドの髪は眩く、美しいルビーの瞳は輝きを放つ。少し皺はあるが十分にイケメンだ。
 《アルムグリスト》にこんなイケおじがいるだなんて!絶対あの人が《アルムグリスト》のボスでしょ!!!

「ベリルナ…?」

 皇帝陛下がポツリと漏らした言葉に、おれは思考を停止する。
 ベリルナ。ベリルナ・アイーダ・レヴィス・シルヴェストル。シルヴェストル大帝国皇后であり、皇帝陛下の奥方。肖像画でしか見たことはないが、確かに肖像画に描かれたベリルナ皇后とそっくりだ。
 嫌な予感を感じていると、男が再び口を開いた。

「俺はリカルド・アルムグリスト。お察しの通り《アルムグリスト》のボスだ。そして、シルヴェストル皇帝の亡き妻、ベリルナの実兄だ」

 隣で皇帝陛下が息を呑んだのが分かった。
 信じられない話だ。ベリルナ皇后は、《アルムグリスト》のボスの妹君だって?選ばれし者しかなることができない、シルヴェストル大帝国の皇后陛下が…。

「ベリルナは…ロッタリエ王国のデルブリュク公爵令嬢だった…はずだ…」
「はっ、馬鹿め。ロッタリエは元は俺たちの犬ぞ」

 ハッと気がつく。
 ロッタリエ王家は、《アルムグリスト》と繋がっていた。ベリルナ皇后は、ロッタリエ王国のデルブリュク公爵令嬢ではなく、元は《アルムグリスト》ボスの妹だったのだ。王家を通じて、無理に公爵家の養子にしたのか。
 皇帝陛下は、あまりの衝撃に言葉を失ってしまった。
 信じられない話だけど、ボスの顔を見れば嫌でも認めざるを得ない。皇帝陛下が一番よく分かっていることだろう。

「表世界まで牛耳るがために、わざわざ妹を送り込んだのに死にやがった…。あの出来損ないが」

 ボスは、そう吐き捨てる。
 こ、こんな仕打ちありなん?さすがに酷すぎる。義理の妹ならまだしも、自分と血を分けた兄妹なのに。ていうか待って。今、表世界まで牛耳るって言った…?

「どういう、こと…」
「リダ。まだ分からんか。わしたちはおまえを生贄とするのじゃ」
「師匠…。生贄って…」

 何故、前回何者かによって連れ去られたとき、魔法が使えなかったのか。師匠がわざと、魔法を使えないようにしていたからだ。師匠はあのとき、魔法を使えない空間を作り出し、おれを転送した。フェルディナント第一王子殿下が駆けつけたのは、師匠にとって想定外だったわけだ。
 そして、生贄。集団儀式による召喚魔法を執り行う。おれを生贄に捧げることによって、この世ならざるものと契約を結ぶ。そして、裏世界だけでなく表世界までをも牛耳るつもりなんだ。
 恐らく、今この瞬間も魔法は使えない。《テリオン教》のヤツらを除いては、の話だが。
 師匠が言っていた友とは、《アルムグリスト》ボスのこと。つまり師匠は、《テリオン教》の教祖だった………。
 ずっと、ずっとずっと、おれを騙して…。

「………………」

 最早かける言葉すら何もない。打ちひしがれたおれは、静かに下を向いた。
 そのとき、魔法使いと魔女たちの召喚魔法の詠唱が始まる。集団儀式のため、詠唱は膨大だ。大魔法陣が完成し、詠唱が終わるまでの間、俺は絶望に塗れながら胸が焼けるような苦しさを覚えたのだった。





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