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第78話

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《RDside》

 アレル王太子殿下が転校してきてから、約一週間が経った。
 おれが助言した通り、何とかクラスメイトとも最低限の交流を交わしているらしいアレル王太子殿下。
 よかった~!!!まるで、子の成長を見守る親の気持ちだ…。

「おい」
「は~…可愛いわ~。アレル王太子殿下…」
「おい!」
「え?」
「さっきから呼んでいるではないかっ!」

 隣にいたフェルディナント第一王子殿下にずっと呼ばれていたことに今々気がついたおれ。透き通るようなアクアマリンの瞳が、若干だが潤んでいる。

「あ、すんません」
「誠意が感じられん…」
「そんなもんいるんですか?」

 フェルディナント第一王子殿下が可愛くて、思わず揶揄ってしまう。目を大きく見開いてから、諦めたようにプイッと顔を背ける。
 え!?拗ねちゃったの!?今ので!?可愛すぎ~!♡

「まぁいい…。今生徒たちは何をやっているのだ?」

 別に拗ねたわけではなかったらしい。おれは、「なんだ…」と、あからさまにがっかりした態度を見せる。フェルディナント第一王子殿下は、キョトンとした表情を浮かべている。何をがっかりする必要があるのか?とでも聞きたい顔だ。
 魔法と聖魔法。似ているようで、全くの別物。言うなれば、対極の力。 魔法使いや魔女には、一生、聖魔法使いや聖魔女のことを理解できないし、逆もまた然り。赤子もいいところだ。

「簡単な魔法陣を描く授業です。魔法は、魔法陣なしには発動しませんし、効力を持ちません。体の中の魔力を上手くコントロールし、意のままに操りながら思い通りの魔法陣を描いていく。その能力が、魔法を使う上での大前提なのです」

 特定の魔法は発動させずに、魔法陣のみを描く授業。一年生たちは初歩の初歩をやっているということだ。何度も失敗してしまう生徒もいれば、簡単にやってのけてしまう生徒もいる。
 フェルディナント第一王子殿下は、納得したように頷いた。

「精霊の力を借りる聖魔法とは全く違うな」
「そう、ですね」

 聖魔法は、常に、この世ならざるものである精霊の力を必要とする。つまり、こちらの世界で言うところの召喚魔法的な契約魔法を常に前提に置いているということだ。そして、その精霊の力を借りながら、聖魔力をコントロールし、聖魔法を発動させる。
 精霊の力を借りるとかおとぎ話かよ!とも思う。少しだけ羨ましいし、使ってみたい。

「リダも魔法陣を描けるのか?」
「はぁ?おれは教師ですよ?世界最強の魔法使いですよ?描けて当たり前です」

 胸を張って答えながら、魔力をコントロールし、簡単な魔法陣を描く。しかし、いつまで経っても見えない桃色の魔法陣。
 フェルディナント第一王子殿下は、呆れ混じりに鼻で笑った。

「フン、見えないではないか!」
「見えるでしょう?
「外…だと?」

 フェルディナント第一王子殿下は、壊れかけの機械人形のようにギコギコと首を回して、窓から外を眺めた。そして、「あれは…!」と声を発する。
 窓の外。空中に浮かび上がる美しい桃色の魔法陣。半径は軽く十メートルほどはあるだろうか。
 あまりの出来事に、何も言えなくなったフェルディナント第一王子殿下。おれは、ドヤ顔を浮かべながら教室内へと視線を戻した。すると、アレル王太子殿下が、ぼーっと宙を眺めていることに気がついた。

「……………」

 アレル王太子殿下の魔法陣は、美しい紫色。
 未だに窓の外の魔法陣を興味深そうに見つめているフェルディナント第一王子殿下をその場に置いて、おれはアレル王太子殿下に近づいた。

「アレル王太子殿下」
「………リダ先生」
「心ここに在らず、ですね」
「…申し訳ございません」

 我に戻ったアレル王太子殿下は、小さな声で謝罪をした。
 完璧にできていると思っていたから、ぼーっと宙を眺めていたんだろう。だけど、教師のおれからしたら、まだまだだよ。
 おれは、アレル王太子殿下の魔法陣に桃色の線を加えていく。その光景をジッと見つめる、アレル王太子殿下。

「もっと単純にできますよ。魔法陣が単純であればあるほど、魔法発動の速度も上昇します。基本の基本。現状に満足せず、常に向上心を忘れないでくださいね」

 どの口が言うとるんじゃ!!!と脳内で師匠の声が聞こえるけど、無視だ。リダ・セヴェール・レヴィス・シルヴェストルは、正真正銘生まれながらの天才だからね。マジのガチンコ天才だったから、あんまり努力とかは必要なかったんだ。
 アレル王太子殿下は、驚いたような表情をしながら、ぽつりと呟いた。

「すごい…」

 嬉しそうな色を滲ませたロードクロサイトの瞳は、キラキラと光り輝く。そして、手解きされた魔法陣をまじまじと見つめている。
 説教じみたことをしてしまったけれど、アレル王太子殿下のこんな可愛い顔が見られるなら、まぁいいか!





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