上 下
72 / 120

第72話

しおりを挟む
《RDside》

 シルヴェストル大帝国の視察団が役目を終え、大帝国に帰る日がやって来た。
 《アルムグリスト》の一人で、《テリオン教》の幹部であったイリリア・ラナタールを捕らえたことにより、ユージンは正真正銘安全な自由の身となった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!帰りたくないよ~!!!」

 地に膝をつき、ユージンの腰に抱き着きながら、大粒の涙をボロボロと流す。ユージンは少しだけ困った顔をしながら、おれの頭を優しく撫でてくれる。

「また、お会いできますよ。しばらくは無理かもしれませんが…国が落ち着いたらすぐにリダ様に会いに行きます」
「……………………」
「本当ですよ?」

 太陽が花々を照らすような導きの微笑みを浮かべるユージン。
 神様だってしないよそんな顔…。もしかして、ユージンが神様?知ってたし。
 口ではいくらでも言えるでしょう?とか、思っちゃう。おれに会いに行くとか言っておいて、きっとすぐに忘れちゃうんだ。好きだと言っておきながら、周りに勧められるがまま貴族の女性と結婚しちゃうんでしょ…。 

「リダ様。どれだけ遠く離れていても、リダ様を想う僕の気持ちは変わりません。どうか、信じてください」
「……………………」
「あなただけを愛してます」

 ユージンはおれをそっと離し、諭すように話す。すると、おれの手の甲にチュッと可愛らしい音を立ててキスを落とした。おれを見つめるエメラルドグリーンの瞳。その奥に揺れるのは、おれへの熱い気持ち。
 疑ってごめん、ユージン。おれのこと、ちゃんと好きでいてくれるんだね?
 おれはユージンの手を掴みぐっと引き寄せて、初めて会ったときよりも随分と逞しくなった体に抱き着いた。

「絶対また会おうね」
「はい、リダ様」

 明るく返事をしたユージンは、おれの唇にキスをした。あまりにも不意打ちのキスに、おれは小さく息を呑む。
 ユージンの唇、相変わらずやわやわだ~!!!!!
 イケメンからのキスにドキドキしていると、後ろからやけに無愛想な皇太子殿下の声が聞こえてきた。

「お楽しみ中のとこ悪ぃが、もう時間だ」

 その声と同時に離れていくユージンの唇。
 あぁ…お餅みたいにやわやわだったのに…。
 ユージンはおれの耳元にそっと顔を近づけて、甘ったるい声で囁いた。

「キスの続きはまた今度」

 ずっきゅゅゅゅゅゅん!!!♡♡♡からのドッカーン!!!と騒がしい音が心の中から聞こえてくる。ハートの矢に心臓を撃ち抜かれたと思ったら、あまりの矢の太さに心が耐え切れず爆発してしまった。
 コクコク、と真っ赤な顔で頷いて、ユージンにバイバイをする。

「ま、またね?」
「はい、また」

 ユージンの方をジッと見つめながら後退りをすると、ドンッと何か硬いものに当たる。え?と思って見上げるとおれを見下ろす皇太子殿下の顔が…。吸い込まれそうなほどに青く、頭上に広がる青空よりも美しい瞳。ムンムンに漂う色気。ふわりと香ったのは、独特な煙草の香りだ。

「ロッタリエ国王陛下との愛の時間は楽しかったか?リダ」
「こ、こここここ皇太子殿下…」
「どうした、そんなに動揺して。悪いことをした自覚でもあんのか?」

 口角を吊り上げて、目を細めながら笑う皇太子殿下は、まるで魔王のように恐ろしい。おれの顎をするりと撫でて、強めに肩を組まれる。肘まで捲られた服から覗く腕には、たくさんの血管が浮き出ており、ギョッとしながらそれを見つめる。
 お、おおおおお…。素晴らしい腕だ!イケメンの腕だ!
 興奮気味に腕を見つめ、ちょっとくらい触れてもいいよね!とか思っていると、皇太子殿下の纏う空気がガラリと変わった。

「俺の従兄弟が世話になりました」
「いいえ。シルヴェストル皇太子殿下。リダ様をよろしくお願い致しますね」

 ニコニコと笑いながらバチバチ視線を送り合う皇太子殿下とユージン。今にも殺り合いそうな二人の雰囲気に、おれはガタガタと震える。
 な、仲悪いの?え?皇太子殿下からすればユージンは、将来自分の後ろ盾となる人なのに、そんな仲悪くて大丈夫なの!?

「皇太子殿下だけではなく、には他にも逞しい味方がおられますので、大丈夫ですよ。ロッタリエ国王陛下」

 背後から聞こえてきた声が、やけに状況を悪化させる。
 お、おおおおおおおい!!!ノル!!!バカ!!!そんなこと言わなくていいんだよ!!!もっと面倒なことになるだろ!?!?!?

「ハーベルダ大公。あんたからすればリダは、仕えるべき皇族にあたる。は付けろよ?」
「その必要はありません、第二皇子殿下。リダに直々に許可をいただきましたので」

 おいおいおいおい!!!次はそっちでバチバチすんの!?もう!面倒なことになりすぎてわけ分からないじゃん!フレイの言うことももちろん正しいけど、それだとイルちゃんもおれのこと様付けで呼ばなきゃいけないよ!?フレイの後ろで、自分は関係ないとでも断言しているような顔で、ヒラヒラと飛ぶ蝶を観察しているイルちゃん。あなたも関係あるからね!?!?!?
 事態の収集がつかなくなってきたところで、おれは苛立ちを覚えるほどに晴れ渡った空へ向かって叫んだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!帰りたいよ~!!!」





‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~逆ハーなんて狙ってないのに攻略対象達が僕を溺愛してきます

syouki
BL
学校の階段から落ちていく瞬間、走馬灯のように僕の知らない記憶が流れ込んできた。そして、ここが乙女ゲーム「ハイスクールメモリー~あなたと過ごすスクールライフ」通称「ハイメモ」の世界だということに気が付いた。前世の僕は、色々なゲームの攻略を紹介する会社に勤めていてこの「ハイメモ」を攻略中だったが、帰宅途中で事故に遇い、はやりの異世界転生をしてしまったようだ。と言っても、僕は攻略対象でもなければ、対象者とは何の接点も無い一般人。いわゆるモブキャラだ。なので、ヒロインと攻略対象の恋愛を見届けようとしていたのだが、何故か攻略対象が僕に絡んでくる。待って!ここって乙女ゲームの世界ですよね??? ※設定はゆるゆるです。 ※主人公は流されやすいです。 ※R15は念のため ※不定期更新です。 ※BL小説大賞エントリーしてます。よろしくお願いしますm(_ _)m

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良
BL
主人公――子爵家三男ノエル・フィニアンは、不慮の事故をきっかけに生前大好きだったBLゲームの世界に転生してしまう。 舞台は、高等学園。夢だった、美男子らの恋愛模様を壁となって見つめる日々。 そんなある日、推し――エヴァン第二王子の破局シーンに立ち会う。 次々に展開される名シーンに感極まっていたノエルだったが、偶然推しの裏の顔を知ってしまい――? 「さて。知ってしまったからには、俺に協力してもらおう」 ずっと壁(モブ)でいたかったノエルは、突然ゲーム内で勃発する色恋沙汰に巻き込まれてしまう!? □ ・感想があると作者が喜びやすいです ・お気に入り登録お願いします!

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

処理中です...