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第54話

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《RDside》

 アリアーナ嬢が亡くなった翌日のこと。
 悲しさを紛らわすために自室でひたすらに慣れない読書に没頭していると______。

『リダ殿下。カタリナでございます』
「………何?」

 扉の向こうから聞こえた声に、不機嫌を露にして返答する。
 今日は何があってもおれのことは呼ばないで!ってあれだけ言ったのに…。

「第二皇子殿下がリダ殿下をお訪ねにございます」
「は、はぁ!?」

 思わず大きな声を出してしまう。しまった、と思い、コホンと咳払いをして、自室の扉を開けに向かう。ガチャッと恐る恐る扉を開けると、そこには目も瞑ってしまうほどに輝いた第二皇子が…。
 おれを押しやるように中へと入って、バタンと扉を閉める第二皇子。あっという間に二人っきりだ。

「急に訪ねて悪い」
「い、いえ…」

 第二皇子の謝罪に、首を横に振る。
 一体おれに何の用だろうか、と思いながら第二皇子を見上げると、澄み渡った空を映したようなアウイナイトの瞳と視線がかち合う。ドキッと胸が高鳴ったのも束の間のこと、第二皇子の手には二枚の手紙が握られていた。その手紙を見た瞬間に、ヒュッと喉が鳴る。

「これを、おまえにもと思ってな」

 第二皇子から手渡された手紙を受け取る。そして、丁重に開く。
 ヘドゥーシャ王国からの手紙。アリアーナ第一王女殿下を処刑して欲しいとの内容だった。
 手紙を持つ手が震える。アリアーナ嬢は、もうこの世にはいないのに。アリアーナ嬢を心から愛していたヘドゥーシャ国王夫妻は、一体どんな気持ちでこんな手紙を書いたのだろうか。考えただけでも、苦しくて息ができない。
 近いうち、アリアーナ嬢の遺骨と共に、伝言を伝えに行かなければ…。

「ヘドゥーシャの姫の最期はリダが看取ったと聞いた…。辛い思いをさせたな」
「いいえ…。第二皇子が悪いわけではありません…」

 静かに否定すると、第二皇子は気まずさを覚えたように目線を逸らした。おれは、ヘドゥーシャ王国の手紙を閉じ、二枚目の手紙を開く。
 ロッタリエ王国の手紙もヘドゥーシャ王国の手紙と同じように、ユージン王太子を処刑するとの内容だった。しかし、ユージンが《アルムグリスト》の手下だった、と大々的に国民に公表した上でロッタリエ王国で処刑を執り行うとのことだった。

「どういう、こと…」

 口に出してしまった疑問に対して、第二皇子が口を開く。

「皇帝陛下は、ヘドゥーシャ王国第一王女並びにロッタリエ王国王太子の件に関して、公表せず内密にすることを決定された」
「こっちが黙っててやるよ、って言ってんのに、ロッタリエ王国はわざわざ公表をすると…?」

 問いかけると、第二皇子は頷いた。
 公表するよりも黙っていた方が、ヘドゥーシャ王国並びにロッタリエ王国、二国の弱みを握れるため、シルヴェストル大帝国としては都合がいい。だけど、ロッタリエ王国は、ユージン王太子が《アルムグリスト》と繋がっていたとわざわざ国民に大々的に公表をして、公開処刑を執り行うと言っているのだ。シルヴェストル大帝国に弱みを握らせないためとは言っても、シルヴェストル皇族であるおれが危険な状態に晒された事実は何ら変わらないため、どっちみちおれたちに弱みは握られている状態だ。

「何故…そこまでして…」

 正義感から?《アルムグリスト》と繋がっていたらこうなるんだぞ、という見せしめをしたいから?
 どっちみち、このままではユージンをロッタリエ王国に引き渡すことが決定してしまう。これでは、ユージンを助けられなくなってしまう。何とかしなくちゃ…!
 ユージンを助けたい一心で、必死に考えようとするが良い案がなかなか浮かばない。明らかに焦っているおれの表情を見た第二皇子は、残酷な一言を投げかけてきた。


「ロッタリエ王太子を助けたい気持ちは分からんくもないが、諦めろ」

 
 まるで鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。
 何故、何故そんな残酷な言葉が言えるのか。可愛い可愛い教え子を助けたいと思うのは、そんなに悪いこと?諦めなきゃいけないこと?
 第二皇子は、おれの気も知らずに更に残酷な一言を重々しく吐いた。

「ロッタリエ王族が《アルムグリスト》と繋がっていた」「………………………は、」
「昨晩、ロッタリエ王国の王族を徹底的に調べ上げてきた。《アルムグリスト》と繋がっていたのは、王太子だけではない。王族自体が繋がっていたんだ」

 ユージン単体だけではなく、ロッタリエ王族自体が《アルムグリスト》と…。
 手に汗が滲み、体が震える。
 そんなの、そんなの言えるわけがない。何か理由があるはずだって思っていたけど、想像していたよりもずっと重い理由だ…。《アルムグリスト》と繋がっていたのは、ユージンの意思ではない。

「今の国王の、何世代か前からずっと、な」

 彼の、生まれながらの、宿命だったんだ__________。
 おれは手紙を第二皇子に押し付け、急いで部屋を出る。そして、とにかく走る。行き交う人々に変な目で見られていたとしても、今はそんなこと、どうでもよかった。





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