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第51話

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《RDside》

 シルヴェストル魔法学院から急いで皇宮へと帰って来た頃には、既に日付を回っていた。
 薄暗い明かりが着いているだけの廊下を足早にかける。
 とりあえず第二皇子を見つけないといけないのだけど、もしかしたらもう既に殺されているかもしれない。
 早く止めないと…!!!

「リダ」
「え、?」

 突如背後から呼び止められ、振り返る。ネイビーグレージュの髪が風に揺れ、アウイナイトの瞳が月夜に輝いていた。口元には煙草が咥えられており、煙が緩やかに白を描きながら宙に消える。皇太子殿下だ。
 謹慎は無事に解けたようだね。相変わらずイケメンだ。色気ムンムンだ。好きだ。って、今はそんなことを言ってる場合じゃない!!!

「皇太子殿下っ!!!」
「そんな大きい声で呼ばなくても聞こえてんよ」
「第二皇子がどこにいらっしゃるか御存知でしょうか!?!?!?」
「久々に会ったのに、俺じゃなくてフレイをお望みとはな…」

 皇太子殿下は呆れ気味に溜息をついて、ポリポリと首の後ろを掻く。窓際に背を預け、廊下にかけられた時計を見つめる。

「この時間なら《濡鴉》の城だろ」
「城?」
「皇宮の近くにある。ほら、連れてってやる」

 皇太子殿下はこちらへと近寄って来ると、軽くパチンと指を鳴らす。その音が聞こえたと同時に、足が地面から浮き上がる。そして、一瞬で目の前の景色が変わった。
 暗い森の中。一見廃墟かと思ってしまうような黒い城。間違いない。暗殺組織《濡鴉》の城だ。

「おーい。フレーイ」

 おれはギョッとして隣の皇太子殿下を見上げる。
 この人正気?そんなんで第二皇子が来るわけないじゃん。ちゃんと正面から入って自分の名を名乗らないと、問答無用で殺されちゃうよ?

「そんな大声で呼ぶなよ…。兄貴」

 目の前にストンッと降り立ったのは、何と第二皇子だった。
 嘘、ちゃんと来た…。ていうか今どこから来た?え?空から降ってきたよね?さすがは暗殺者様だ…。じゃぱにーずにんじゃと良い勝負なんじゃないか?

「リダがおまえに用があるんだってよ」
「…………何?」

 不機嫌そうに尋ねられ、思わずビクッとしてしまう。が、こんなところでじっとしているわけにはいかない…!

「第二皇子!ユージンとアリアーナ嬢に猶予を与えてあげてください!」
「猶予?別に殺さねぇよ…」
「え!?!?」
「いちいち声がでかいな、おまえ…」

 皇太子殿下だけでなく第二皇子にも同じことを指摘され、恥ずかしくなったおれは、口元を両手で隠す。
 ここは、かの《濡鴉》の本部でもあるんだから、こんな大きな声で喋っちゃダメなんだよね。はぁっ!印象最悪じゃん!イケメンに嫌われたら生きていけない!!!
 第二皇子は、小さく溜息をつく。

「《アルムグリスト》と繋がっていたとは言え、王国の王女と王太子だぞ?さすがの俺にもそんな権限はない」
「なるほど…」
「既にヘドゥーシャとロッタリエには手紙を出した。明後日には返事が届くだろ」

 第二皇子の言葉に、深々と頷く。
 恐らくその手紙は、脅しの手紙だろう。
 “そちらの娘、または息子が《アルムグリスト》と繋がっており、シルヴェストル皇族であるおれを誘拐し危険な状態に晒した。国際問題に発展する問題のため、そちらの娘、または息子の処遇の判断を求める。さっさと返事寄越せよこの野郎。”
 みたいな感じだ。
 一国の姫や王太子が《アルムグリスト》と繋がっていたことが、国民や世界に望まぬ形で知られてしまえば、国の存続さえも怪しまれる。自らの子か、民たち。聡明な主ならば、姫と王太子はシルヴェストル大帝国にて殺してくれて構わないと言うだろうね…。
 どうしたものか、と考えていると、第二皇子が問うてくる。

「ところで、おまえはそんなことを言うためにわざわざここまで来たのか?」
「………アリアーナ嬢、そしてユージンと、話をさせて欲しいのです」

 そっちが本題か、と第二皇子は納得の表情を浮かべる。
 既に《濡鴉》の預かりとなった二人に干渉することは、皇族の一人と言えどもあまり宜しくないこと。もちろん長である第二皇子が了承してくれるのであれば、大丈夫だけど…。
 自分の顔面偏差値を屈指して、きゅるんとした瞳で第二皇子を見上げる。すると、第二皇子はコホンと咳払いをする。

「分かった」
「本当ですか…!?」
「だが、日を改めろ。今日はもう疲れているだろうし。皇宮に戻って休め」

 第二皇子は、おれの頭に手を乗せて優しく撫でてくれる。
 イケメンお兄ちゃんかっけ~…!!!
 小っ恥ずかしくなったのか、第二皇子の手が離れていく。引き止めなければ!と思ったおれは、手を挙げながら思わず叫んでいた。

「もう一丁!!!!!」
「…………………」
「…………………」

 静まり返る空間に、いたたまれなくなったおれは、静かに手を下げる。遠くから聞こえる鳥の鳴き声が、やけに大きく響いている。
 恥ずかし過ぎて消えたいよ!!!
 そう思っていると、再びポンと頭の上に手を乗せられる。

「え、」
「フレイじゃねぇけど、俺ので我慢してくれ」

 フッ、と笑う皇太子殿下。あまりの顔面の迫力に、「ゔっ…」と死にかけの声を出してその場に膝を着いてしまった。またも変な目で見られているとも知らずに…。
 この兄弟マジでどうにかしてよね!?!?!?





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