上 下
37 / 120

第37話

しおりを挟む
《RDside》

 時計の針は、十二の数字を指す。なかなか眠る気になれなかったおれは、ベッドの上で魔法書を読んで時間を持て余していた。ここはもっとこうした方が効率がいいだとか、威力が上がるだとか、魔法書にあれこれと文句をつけているところ、大窓がコンコンとノックをされたのに気づいた。

「…………?」

 気のせいだと結論づけたおれは、再び視線を魔法書へと戻す。しかし、数秒してまたコンコンとノック音が聞こえる。
 もしかして、また変な輩がおれを攫いに来たわけ?いやいや、そもそもここは皇宮だ。そんじゃそこらの下っ端共では侵入できるわけがない。じゃあ、一体誰が…?
 おれは恐る恐るベッドから下りて、足音を魔法で完全に消し、大窓の傍まで寄る。カーテンの隙間から覗くように外を見ると、月光に輝くプラチナブロンドの髪が風に靡いた。

「第二皇子ーっ!?!?!?」

 大声で叫びながら、バッとカーテンを思いっきり開いたおれ。何と、大窓の向こう側にいたのは、第二皇子だったのだ。第二皇子はギョッとした顔をしたが、すぐに呆れたように溜息をついた。ここを開けろ、と手で合図を出した第二皇子に向かって、おれは首が取れそうになるくらいに頷いた。すぐに解錠して、重々しい大窓をガシャンッと開く。

「ほんもn…んんッ!?」

 本物ですよね!?という言葉は、第二皇子の手に吸い込まれる。口を塞がれたおれは、何が起きているんだと目を見開くことしかできなかった。
 もしや、第二皇子がおれを攫いに来たの?《アルムグリスト》と手を組んでるの!?イケメンだからって騙されちゃったわけおれは!!!
 パニックになって、バタバタと手足を振り回して暴れるおれ。

「ちょっ、バカッ…おまえっ、」

 急に暴れ始めたことに驚いたのか、第二皇子は焦ったように声を上げておれの暴走を止めようと力を駆使した。ドタバタッという音の中、バランスを崩したおれはベッドに背中からダイブする。ドサッという衝撃と共に、口から離された手。解放された!と思ったが、その代わり手足がピクリとも動かなかった。そっと目を開くと、目の前には思わず「うぇっ!?」と声を上げてしまうほどの美貌が。両手はシーツに縫い付けられ、足は見事に絡め取られている。

「暴れんな」
「っ…」

 全身で感じる殺気。薄暗い中で光るアウイナイトの瞳が酷く恐ろしく、おれは呼吸をすることさえも忘れてしまっていた。

「話をしに来た。《アルムグリスト》についてだ」
「へ…」

 淡々とそう言った第二皇子。
 おれの部屋を訪ねたのは、どうやらおれを連れ去るためではなかったらしい。勘違いも甚だしいな…。
 頬がほんのり赤くなっていくのが分かる。

「《アルムグリスト》の目的はおまえだ。何のために、とまでは分かっていねぇけど、裏で大きな何かが動いてるのは間違いねぇ。手始めに、シルヴェストル魔法学院にいる裏切り者の口を割る」

 その言葉に、モルガナイトの双眸を大きく見開く。
 シルヴェストル魔法学院に裏切り者がいるかもしれないという、おれの読みは当たっていたんだ…!
 《濡鴉》の長が動き出した。それがどれだけ大きなことなのか。《アルムグリスト》はそれだけ危険な存在というわけだ。

「おまえはシルヴェストル魔法学院の教師だったよな?」
「は、はい」
「おれが送る部下と一緒に《アルムグリスト》と繋がっている裏切り者を割り出せ」
「っ…」

 ドクン、ドクン、と第二皇子が言葉を発する度に心臓が跳ねる。
 イケメン過ぎだし、この体勢は何かとまずい…!だけど今はそんなこと言っている場合じゃない!
 おれは覚悟を決めたように頷いた。

「分かりました」
「…頼んだぞ」

 第二皇子の言葉に、更にもう二回頷いて見せた。
 断じて、断じて!第二皇子の部下のイケメン顔が見たいとかいう理由ではない!!!
 ふんすふんす、と鼻息を荒くしているおれを不安そうに見つめる第二皇子がいたとは知らず…。

「じゃあ俺はこれで、」
「あぁっ…」
「!?」

 おれの上から退こうとするためかモゾッと動いた第二皇子。その足が、イケナイ場所に当たってしまい、思わずおれは声を出してしまった。口を塞ぎたくとも塞げない。第二皇子に拘束されてしまっているから。

「な、なんつー声出すんだよっ…」
「ふ、不可抗力です!」

 そう訴えた後、雪のように白い頬がほんのりと赤く染まっているのを見て、ドキッと胸が高鳴る。
 そ、そっちこそ何て顔をしてるんですか!?堪んねぇな!!!と叫んでやりたい。
 第二皇子の照れ顔に、おれの中の小さな小さな加虐心がこんちはー、と顔を覗かせる。辛うじて自由になった右足の膝辺りで、第二皇子の股をクイッと刺激してみた。

「んくっ…!」
「お、おぉ…」

 可愛らしい声を上げて、ビクッと体を跳ね上がらせた第二皇子。数秒した後、更に顔を真っ赤にさせた第二皇子がおれを睨みつけた。

「おまえ…」
「第二皇子は敏感なんですね~」

 ニタァ、と気色の悪い笑みを浮かべる。おれの腕を拘束する力が強まり、イラついているのが感じて取れた。これ以上はまずいか?と思いつつも、さっきのエッチな顔と声が忘れられない。もう一回だけ…と魔が差したおれは、第二皇子の股にそっと足を伸ばした。





‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
第10回BL大賞奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 2023.12.11~アンダルシュノベルズ様より書籍化されます。 ◇◇◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

処理中です...