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第25話

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《RDside》

 皇太子殿下にキスをされてから数日後。あの日以来皇太子殿下とは会えていない。
 心のモヤモヤが残ったまま、おれはシルヴェストル魔法学院へとやって来ていた。もちろん、正式な教師として。今回受け持つクラスは、ユージンがいる三年生のクラスだった。最初は慣れているクラスの方がやりやすいだろうという師匠の謎の計らいだった。

「リダ様!」
「ユージン!久しぶりですね~!」

 おれの姿を見るなり駆け寄ってきたユージン。あまりの可愛さに胸がキュンと締め付けられる。

「というか、ここでは、ですよね?」
「は、はい…。リダ先生」
「ぐはっ…!!!」

 ユージンの先生呼びいただきました!と示すために、震える右手を上げる。年下イケメンの先生呼びとか、何か変な気分になる。
 そんなことを思っていると、授業の開始を告げる鐘が鳴り響いた。おれは気を取り直して、生徒たちに向き合う。

「本日、召喚魔法の授業を担当させていただくリダ・セヴェール・レヴィス・シルヴェストルです。よろしくお願いします」

 美しく見えるよう一礼をする。拍手が起こったところでおれは早速授業を始めた。
 今日の授業は、先程も言った通り、召喚魔法についてだ。授業の会場は、地下にある大きな競技場。ここならば万が一のことがあっても、何とかなる場所だ。ざっくりしてるけど…。前の教師から召喚魔法の授業を引き継いだところ、どうやら既に三回ほど召喚魔法の授業を行っているらしい。そのときは説明だけで終わったため、実践するのは今日が初めてだと言っていた。説明したところで頭に入るとは言い難いし、何なら実践して流れを覚えた方が早いよね。
 そう思いつつも、「はいどーぞー!」というわけにはいかないから、軽い説明はしなければならない。

「召喚魔法は御存知の通り、他の魔法よりも格段に難易度が跳ね上がります。シルヴェストル魔法学院を卒業して更に何年か魔法を極めて、やっと使えるようになるほどの高難易度魔法です。
 この世ならざるものを魔法陣という扉を通してこちらに御迎えする危険な魔法です。中には、この世ならざるものや悪しきものと危険な契約を締結するという禁忌魔法もあります。実際、召喚魔法事態も非常にグレーな魔法なので、使うにしても細心の注意が必要なのです」

 一通りの軽い説明を終えると、生徒たちの瞳がキラキラと輝いているのが見えた。どうやら召喚魔法を実践できるのが嬉しいらしい。とりあえず見本は見せた方がいいか、と思ったおれは、深く深呼吸を繰り返す。

「見本を見せます。よく見ているように」

 そう言うと、生徒たちの瞳は更に輝きを放つ。
 おれ自身も召喚魔法を使うのは本当に久々だ。学生以来使ったことはない。
 見本だから無詠唱は、さすがにダメだよな…。そう思ったおれは、静かに体内に魔力を巡らす。

「《我、魔法を使いし者。汝、神聖なる者。光に照らされし一筋の道に従いて、万丈の扉より解き放たん》」

 詠唱を終えた瞬間、美しく描かれた桃色の魔法陣から巨大な白毛の狼が現れた。あまりの美しさに、そして気高さに、生徒たちは声も出せず圧倒された。
 これが、この世ならざるもの。つまり《神々》か、と息を漏らした。

「このように召喚できるこの世ならざるものは、ランダムです。ですが、魔法陣の完成度が高いほど、高位の神々が召喚できます」

 狼は甘えん坊なのか、おれに擦り寄ってくる。そのふわふわの白毛を撫でて、扉から帰るように促す。すると狼は、おれに深々と一礼して背を向けて走り去って行った。そしておれは二度目の魔法の準備を始める。

「こんなふうに」

 今度は、無詠唱で魔法を発動。桃色の魔法陣は描かれない。その場の全員が「…失敗か?」と感じたそのとき。物凄い轟音が地下に響き渡る。人工の光ではない、天の光が地下に届く。あまりの眩しさに全員が上を見上げると…。何と、ぽっかりと頭上に穴が空いている。地上まで筒抜けになっているのだ。少しして、天性の美声が聴こえてくる。その場で誰もが、固唾を飲んだ。まさか、と。

「主よ、私をお呼びですか?」

 天の光が届くその場所に桃色の魔法陣が浮かび上がる。そこから現れたのは、《天聖の歌姫ヴィリアーデ》。間違いなく最高位の女神だった。

「リダ先生…」
「あれは規格外だろうがよ…」 
「美し過ぎて何て言ったらいいのか…」

 最高位の女神を見るのは、誰もが初めてのようだった。全員が《天聖の歌姫ヴィリアーデ》に目を向ける中、ユージンだけはおれを見ている。…何でかは知らない。
 おれは、女神に恭しく頭を下げた。

「わざわざ召喚して申し訳ございません。《天聖の歌姫ヴィリアーデ》」
「良いのですよ、若き偉大な大魔法使い」

 こちらの意図を察したのか、すぐに扉から向こうの世界へと帰って行った。おれはパチンと手を叩いて、最上級の笑顔を生徒たちへと向ける。

「さぁ、皆さんもやってみましょう!」

 おれの一言に、全員が強く頷いて次々と詠唱を唱え始める。最初から上手くいく生徒もいれば、失敗する生徒もいる。

「この世ならざるものの神々は皆、人間如きに従わされることを許しません。自身よりも上だと判断した人間には、敬意を込めて“主”と呼びますが、決してこちらも敬意の感情を忘れてはなりません」

 注意を呼びかけながら、競技場を歩く。
 この世ならざるものの扱い方は、非常に難しい。人間と同じように彼らにも性格があるからだ。
 生徒たちそれぞれが、この世ならざるものを召喚して喜んでいると、遠くで二度目の轟音が聞こえた。薄い緑色の大魔法陣に、おれは頭を抱える。
 あんな大魔法陣を初っ端から描くなんてさすがはイケメンだけど、まずいな。

「たまに、本当のたまにですけど、自身よりも圧倒的に上の存在を召喚してしまうこともあります」

 そう言って、薄い緑色の大魔法陣に近づく。この大魔法陣を描いたのは、ユージンだった。
 この現象は、一人の手馴れの魔法使いや魔女でも、一生を通して起こるか起きないかという割合だ。それを一発で起こしてしまうとは。
 大魔法陣から現れたのは、《魔神オルクス》。漆黒の衣装に身を包んだ邪神。禍々しい玉座へと座っている。

「嘘…」

 誰かが漏らした声におれも「嘘…」と口にして便乗する。
 それから、《魔神オルクス》の顔を見て、おれは再び声を出した。

「イケメン…」





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