上 下
110 / 217

〖108〗怪しい店

しおりを挟む






「!?」


見上げるより先に首根っこを掴まれる。


「ったく····こんな所まで、どうやって逃げてきたんだ」

「早く戻るぞ」


ガタイの大きな中年の2人組だった。
片方がシオンを担ぎ上げ、丘を下り始める。


「放──むぐっ」


開きかけた口に、何かを咥え込ませられる。
直径3センチくらいの球体だ。吐き出そうとするが、両側には細い革ベルトが付けられていて、後頭部で固定されると、自分で取ることは出来なくなってしまった。

シオンは両手両足を拘束され、馬車の荷台に放り込まれた。

一体、どういうことだ?
この世のユートピアであるオルトンの内側は、全住民が何の不自由もなく暮らしているのでは?

しかし彼らはシオンをどこかの逃亡者と勘違いして、無理矢理馬車に押し込んだのだ。


車輪は間もなくして停止した。
シオンは荷台から下ろされ、城門の中へと連れ去られる。

やけに派手な外観の建物だ。
うさぎの形に光った大きなパラペットには、よく分からない文字とハートが散りばめられていた。


「次、くだらないことを考えてみろ」

「っ!」


地下に引きずられたシオンは、背中を押され、冷たい床に倒れ込んだ。


「鞭打ち100回だ」


中年の男はそう吐き捨て、次にピンクの布を投げて寄こした。


「早く着替えろ」

「·····?」


広げると、それは変な服だった。
すけた短パンと、妙にぴっちりした丈の短い上着。胸元は細い切れ目があって、うさぎの耳みたいなカチューシャまでセットだ。

ビー、と、耳をつんざくような音が響く。
地下の奥には、シオンが渡されたのと似たような服を着た少年が沢山いた。
























同時刻、リアムはオルトンの街でシオンを探していた。

探せどシオンは見つからない。
しかし、コアは反応している。彼がこの島のどこかにいることは確かだった。

とすると───残りは壁の内側。

呆れを通り越していっそ不思議な心境だ。
臆病で能力もないくせに、なぜじっとしていられないのだろう。


   コロシアムにいたバイモンの末裔と双子は、パンドラの人間だ。
そのうちバイモンの末裔は、エドワードの監視を巻き、昨日から姿を消しているという。

嫌な予感がする。
リアムは舌打ちを落とした。


時計台を見上げると、時刻は正午を過ぎたところだった。
準決勝のトーナメント戦が終わった頃だろうか。

町はいつにも増して賑やかだった。
今夜零時から、ついに市民権獲得者決定戦が行われる為だ。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

異世界に迷い込んだ俺は異世界召喚された幼馴染と再会した

たたたかし
ファンタジー
俺〈中森ゆうた〉が8歳の頃ある日突然異世界へ迷い込んだ。 そんな俺が8年後に異世界召喚された幼馴染〈八条夏目〉に再会する話 あぁ、なんかこんな話しあったらいいなと思って見切り発車で作った話しかも初めて書いた小説。誤字も脱字も意味もわからないと思います。そこは何とか説明修正させていただきます。

転生料理人の異世界探求記(旧 転生料理人の異世界グルメ旅)

しゃむしぇる
ファンタジー
 こちらの作品はカクヨム様にて先行公開中です。外部URLを連携しておきましたので、気になる方はそちらから……。  職場の上司に毎日暴力を振るわれていた主人公が、ある日危険なパワハラでお失くなりに!?  そして気付いたら異世界に!?転生した主人公は異世界のまだ見ぬ食材を求め世界中を旅します。  異世界を巡りながらそのついでに世界の危機も救う。  そんなお話です。  普段の料理に使えるような小技やもっと美味しくなる方法等も紹介できたらなと思ってます。  この作品は「小説家になろう」様及び「カクヨム」様、「pixiv」様でも掲載しています。  ご感想はこちらでは受け付けません。他サイトにてお願いいたします。

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯
ファンタジー
 VRMMO『無題』をプレイしていた雪乃の前に表示された謎の選択肢、『この世界から出る』か『魔王になる』。  魔王を拒否して『この世界から出る』を選択した雪乃は、魔物である樹人の姿で異世界へと放り出されてしまう。  人間に見つかれば討伐されてしまう状況でありながら、薬草コンプリートを目指して旅に出る雪乃。  自由気ままなマンドラゴラ達や規格外なおっさん魔法使いに助けられ、振り回されながら、小さな樹人は魔王化を回避して薬草を集めることができるのか?!    天然樹人少女と暴走魔法使いが巻き起こす、ほのぼの珍道中の物語。 ※なろうさんにも掲載しています。

病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
ヤンデレゲームが好きな平凡男子高校生、田山直也。 幼馴染の一条翔に呆れられながらも、今日もゲームに勤しんでいた。 席替えで隣になった大人しい目隠れ生徒との交流を始め、周りの生徒たちから重い愛を現実でも向けられるようになってしまう。 田山の明日はどっちだ!! ヤンデレ大好き普通の男子高校生、田山直也がなんやかんやあってヤンデレ男子たちに執着される話です。 BL大賞参加作品です。よろしくお願いします。

処理中です...