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〖97〗宝石

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「放して…っおねが…」


不思議で仕方ない。
何としてでも後を着いてこようとした頑固さや、奪い取ってドリンクを飲もうとしていたふてぶてしさが、すっかり息を潜めている。

ずり落ちたドレスから、驚くほど細い上半身があらわになる。
胸部で主張する突起は、無視するにはあまりにも可哀想だった。

少し強引に、掴んだ脚を引っ張る。
シオンの顔は真っ赤で、とても辛そうだ。部屋から出してやろうと、自分の方へと近づけた。
たったそれだけだった。


「あっ·····~~~っ♡」


間延びした甘い鳴き声が、ロミオの鼓膜を揺らす。
くったりと力をなくした身体と、荒く繰り返される呼吸。
そして、じんわりと染みの出来たシーツ。
指ほどしかない陰茎から、とろりとしたものが伝った。


「はぁ·····はぁ·····う···っ····」


ロミオはシオンの全身を凝視した。そして、薄暗がりで光ったものに、釘付けになる。
シオンは泣いていた。

ぽろぽろと宝石を散らしながら、眉は切なげに歪む。
どくり、と、心臓の脈打つ音がした。


「ふ、う·····っ」


人の表情が苦渋に歪むのを、幾度となく目にしてきた。
苦しみ悶える声、絶望に滲む瞳。全て、自分にとってはなんの意味もなさなかった。
それなのに、シオンは、何故こんなにも──。

少年の裸足がビクビクと震える。
ロミオは胸元を抑えた。
呼吸が苦しくなる。
正常ではない。

悲しげな表情に胸が苦しくなるのに、視線が離せない。

もっと、見たい。


「·····んっ·····ふ·····っ♡」


理性の中で、何かが崩れ落ちてゆく。
これ以上触れたら、この少年は、どうなってしまうのだろうか。
優しく、壊れないように。しかし、その先が見たい。
その感情は、破壊したいような思いに似て非なるものだった。

















無言のまま近づいてきた気配に、シオンは涙を拭うことも忘れ、相手を見上げた。
割れた腹筋から水滴が滴る。血色のない裸の上半身が近づいてくると、謎の恐怖を感じた。

ロミオの目の前で、それも足を引っ張られて、達してしまった。
身体は彼の影にすっぽりと隠れる。脳内はパニック状態に陥っていた。


「ごめんなさ·····っ」


伸びてきた長い指に、強く瞼を閉じる。


「ひぅ·····っ·····」


冷たい手は、意外にも優しくシオンの背に回った。
リボンが解かれる。続いて彼は、器用にドレスを崩していった。


「?…??」


息苦しさが多少マシになった。シオンは息をつき、ギクリと体を強ばらせた。








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