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〖85〗豪華な料理

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テーブルに並ぶのは、夢の中にさえ出てこなかった豪華な料理だ。

ワイン片手に談笑する貴族たちを眺め、シオンはリヒトを振り返った。


「これ、食べていいの?」 
 
「オーケストラの演奏は耳に入らなかったか」


リヒトの笑い声がシャンデリアに響く。

黄金を溶かしたような瞳は、優しく綻んだ。


「教えた通りのマナーが出来ていれば、好きなだけ」


「う·····」


ここへ来る前の約2時間をかけて、リヒトから食事の際のマナーを教えこまれた。

スパルタも良いところだ。間違えれば服からギリギリ見えないくらいのところに吸いつかれて、合格しなければ夕飯は一切無しだと言われた。

おかげで粗相をする心配なくこの場にいるが、最早空腹で力が出ない。


「あまり夢中になりすぎないように」


付け足したリヒトが少し意地悪に笑う。シオンはハッとして下唇を噛んだ。

食い意地を張っていることをからかわれたのだ。


「どうした?」


長い指が、優しく髪を梳く。
ウィッグなのが残念だ。彼の大きな手に頭を撫でられるのは、安心する。


「冗談だ。お前はもう少し太った方がいい」


「…。」


身長が伸びないのも、筋肉がないのも、すべて貧しい生活のせいだ。

少しくらい細いのは仕方ない。
けれど、見上げた男は、自分とは比べ物にならないほど屈強な身体を持っている。
まるで、ライオンとヤギ。同じ人間とは思えない。

どちらにせよからかわれている気がする。

反抗するように顔を背ける。そうすると、彼は目線が合うくらいまで屈んできた。


「…こんな風にごねてみせるのは」


今度は、どんな揶揄いの言葉にもなびくものか。見つめ返すと、魅力的な瞳がこちらを覗き込んでいた。

間近でしっかり見ると、本当に美しい男だ。
やはり同じ人間とは思えない。


「俺にだけだろう?」


「·····へ?」


いつもの自信ありげな声音に混じったのは、確かめるような語尾。
今までとは何かが違う。思わず目を逸らすと、セクシーな首筋が視界に入った。
鼓動は変に跳ね上がった。


(また、からかわれた)


新手の揶揄い技に違いない。
けれど、こうして甘やかすような声で話しかけるのは、4人の中で彼だけだ。
そんなリヒトだからこそ、シオンは変に恥ずかしくなってしまう。


「どうなんだ?」

「あ、う…」


もうどうにでもなれ。慌てて頷くと、リヒトは口元に弧を描いた。


「受付を済ませてくる」


その間待てなければ、先に食べててもいいと言われる。
やっぱりからかわれていたのだ。シオンは頬をふくらませた。
素直になるのが癪で反抗してみたが、彼はそれさえ愉快なようだ。






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