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〖73〗ミオ

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結局コロシアムでの戦闘を見ることは叶わなかった。

日が暮れる頃、クレイに手を引かれホテルへ戻る。


「食うか」


途中、やっと話しかけられたと思えば、干し肉を差し出された。
おずおずと受け取る。確かに、腹が減っていた。


「エドワードは、大丈夫だったの?」

あんな意地悪なやつは、戻ってこなくたって構わない。そう思いながらも、やっぱり安否が気になって聞く。


「ああ」


クレイは、なぜか釈然としない顔だった。

ホテルまでつくと、彼はさっさと来た道を戻ってゆく。

シオンも急ぎ足にホテルへはいる。
今日は疲れた。もう一度シャワーを浴びて、あのふかふかのべッドで眠ろう。


「·····あれ?」


エントランスに入ったところで、見覚えのある髪色を見つけた。



























水色がかった白銀の髪からシャープな顔がのぞき、シオンは、うっと目を細めた。

ミオと名乗っていた青年だ。

彼の表情は、クレイのそれとは比べ物にならぬほど無機質にだ。
あんな所でぼうっと突っ立って何をしているのだろう。
気になるが、自分は身分を偽っている身。これ以上関わらない方が良いだろう。

さっさと部屋に戻ろうと踵を返しかけた時、視線の先で、赤いものが光った。

ミオの手元からだ。
ポタリ、ポタリと、赤い雫がこぼれ落ちる。


「·····?」


分厚いエンジの絨毯に溶け込む、それよりも鮮明な赤色。
シオンは目を見開いた。

声をかけるより先に腕を掴む。
生気の無い雰囲気に似合わず、彼の腕は以外にもがっしりとしていた。


「··········。」


振り返った明るい赤の瞳が、キラキラと光を反射する。
シオンは途端に不安になった。


「血、流れてる」


その事実にさえ気づいていなさそうだ。こちらを呆然と眺めていた目だけが、掴んだ腕に流された。


「あ…覚えてる?」


自身を指さして問う。
彼は僅かに頷いた。
シオンはほっと息をつき、すぐに眉間を険しくさせる。


「どこか怪我してるんでしょ?」


早く手当しないと。
───そう小さな唇が動くのを、ロミオはじっと見つめていた。


「ちがう」


真正面から見上げてくる瞳に返答する。
腕に温もりを感じる。
温くて、柔らかい。少し早い動脈の気配がした。

この少年からは、殺気も、恐怖も、侮蔑や憎しみだって感じられない。
だから、こちらを掴んだ非力な手をどう処理すれば良いか分からない。


「じゃあ、なんで血が·····」

「殺したから付いた」


聞かれたものに答えると、1秒後、ぱっと手が離れていった。


「コロシアムの、相手の·····?」











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