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re.《377》二人の関係
しおりを挟むレイモンドの呪いを解くよう説得したことや、そのために14日を要したこと。食事の具体的な方法はとても全て告げられなかったから、母乳が出たことまで。
全て話し終わるまで彼はこちらを見つめていた。
たどたどしい説明は、ようやく終わったのだった。
「ダリアには言わないで」
虚をついた。
あの悪魔が知ったら、比喩表現無しに殺される。
いいや、死ぬより怖い思いをするかもしれない。
すがる思いで、気がつけばルシフェルの手を握っていた。
「おねがい」
「·····」
沈黙は時間にすれば数秒。
果たして彼は、美術品みたいな唇を、ほんの少し動かした。
「ダリアには報告しないよ」
もとよりそうするつもりだったのだと言う。
一命は取りとめた。
安堵するミチルだが、離れようとした手は、相手に覆われた。
「俺に知られるのは問題ないと思った?」
「··········へ、」
吸い込まれそうな瞳をしている。
威圧感はない。きっと彼がこんな風に優しく問いかけるのは、自分にだけだ。
何故かそうわかる。
「いいや」と、かるくかぶりを振る様子すら、正統派で、なのに焦るほど色っぽい。
顔を出した変な気分に、ミチルは酷く戸惑った。
「君は公務の、それもとても重要な仕事について虚偽申告した責任を自覚する必要がある」
ルシフェルは確かめるようにそう説いた。
ダリアに言うとか言わないとかを1番に気にしていることが、とても愚かで情けない。
「ご、めんなさ·····」
もしかしなくとも、とんでもないことをしてしまった。
今更、その事実を噛み締めて、声が震える。
「ミチル」
大人っぽい香りが鼻腔をかすめる。
彼が、こちらへ少しかがみこんだのだ。
「何よりも、君の身が大事なんだ」
「·····!」
チクタクと時計がなる。
それが少し遠ざかる。
───こちらの手を覆っているのは、しなやかで角張る大きな手。
それが、何故かとたんに恥ずかしくなって、汗を握る。
「·····俺も屋敷を空けていることが多くて、話しにくい思いをさせてしまっていたよね」
少し親しげになった話し方に、ピクリと耳が反応する。
話しにくい思い。その言葉には、彼と自分の親密度や、または圧倒的な力関係も含まれているのだろう。
やっぱり、触れているところが変な感じだ。
ただの業務の会話。ダリアとしているのと変わらないのに。
「屋敷に戻る日程を予め知らせておくから、その時には必ず話をするようにしよう」
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