悪魔皇子達のイケニエ

re.《３７２》お絵描き

プロの彼を観察しても、錆なんて見つけられそうもない。
やっぱり明日、ルビーに会いに行かないと。

指先で唇をなぞって、レイモンドに疑問をぶつける。
悪魔はフレンチ・キスで、どれだけ精力が吸えるのかと。


「うぅん·····例えるならば、喉が枯渇した時に垂らされる水滴程度でしょうか」


つまり、返って辛いということである。
キスをした理由は益々分からない。


「陛下との口付けは、お嫌ですか？」


再びギクリとする。

質問した理由を悟られているようだ。
モジモジしていたら、相手はどこからか色紙とペンを取り出した。デジャヴである。

そこに、目つきの悪いジンジャーマンと、長い耳のついたジンジャーマン。続いて、目つきが悪い方に矢印の付いた吹き出しがいくつか。
彼は、理由は簡単だと云った。


「原則として口付けは愛し合うためにあるものです。つまり───」

「！」


何と、イラストが動き始めたでは無いか。

耳の長い方がもうひとつの方に近づいていって、顔をくっつける。
そうしたら、吹き出しにハートマークが浮かび上がった。


「コウイウコトです」

「·····どういうこと」


キスしたらハートが浮かび上がった。
それは分かる。
その意味もわかる。ただ、これが自分とダリアだと言うのなら、分からない。


「愛されてない」


自ら口にして、ちょっと胸が痛む。
変なの。


「陛下も報われませんね。まぁ、自業自得でしょう」


相手はよく分からないことを言って、またニコリとした。


「理由をつけるならば、そうですね·····私から全てをお伝えすることは出来かねますので───夫婦間の挨拶だとか、思うのは如何でしょうか？」

「·····あいさつ？」


とてもダリアの心情を代弁することは出来ないという。


「行ってきますのキスとか、仲直りのキスとか」


ミチルは益々疑いの眼差しを向けた。

そんな新婚のラブラブ夫婦みたいな風潮は無い。
こちとら二人の間を冷風が通り過ぎるくらいだ。


「ミチル様が陛下に使える魔法だとでも云えば良いでしょうか」


とりあえず、夜更かしは体に悪い。
あぺとぺな話を聞くより寝かせてもらおう。