悪魔皇子達のイケニエ

re.《２２３》スパイス

「下僕に噛み付かれたというのに·····それでもなお健気に受け入れてくださるのは」


「·····ぁ·····んぅ·····♡」


(スリスリ、だめ·····)


触れるか触れないかを下着の上から撫でられているだけなのに、じんわり滲む気配がする。
恥ずかしい。
これ以上したら、惨めな姿を晒してしまう。

(けど·····────)


「あぁ·····甘い匂いがしてきた」

「·····ッ♡」


恍惚とした囁きに冷や汗が浮かぶ。
全部彼のせいなのに。


「ミチル様は、本当に·····」


「女神のような方ですね」と、甘くなる語尾は、こちらをからかっているにしては妖しいスパイスを含んでいる。

さっきと、何か違う。
だって彼はうなだれて、どんな罰でも受けると言っていたのだ。
だからこっちは責任を感じて、それで。

(それで·····)


「もしかすると、もっと恥ずかしいこともして下さるのですか？」


男の微笑みは、淑女が見ればたちまちため息を濡らすだろう。
誘惑の悪魔そのものだ。
そんな彼を見て、胸がいたんだ。

本当は、レイモンドが自分にとって大事な人のひとりになっていたから、こんなことも耐えるしかないんだと。
それを、自分が彼を嫌ってると、なんで信じて疑わない物言いをするのだ？

なにかに気がついて、燻りは直ぐに決意に変わった。


「それは、いなくなって欲しくないから」


相手を見ることも出来ずに言う。
わざわざ口にすることでもない。彼はただの召使いで、自分は彼の仕事のひとつ。

けれど「嫌いな男」なんて言わないで欲しい。
全部自分の言動のせいだけど、そんなふうに思われるなんて嫌だ。


「大切だから」


恥ずかしくて悔しい気分だ。

しかし数秒の沈黙から、ミチルはふと相手を見上げた。
かなり経つが、レイモンドは微動だにしない。
そしてミチルも言葉に迷った。

こちらを見つめる瞳は、初めてのものを見るような、そんな顔をしていた。


「·····と、まあこのようにして、何かしらを口実に、ミチル様に愛されようとする高等な手口でございます。純粋で優しく、責任感もお強いミチル様は拒むことが困難でしょう」

「·····へ？」