悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

文字の大きさ
上 下
457 / 715

re.《179》ぬいぐるみと花

しおりを挟む











(どうしたものか·····)

月明かりも沈む頃。
"彼"はそっと首を傾げるだけだった。












抱き潰されたあと、ぬるい湯船に浸かった記憶が朧気だ。

数日間か、数週間か。
流し込まれるような食事、交い、そして意識を飛ばず睡眠を繰り返した。


「───!」


それが何日目なのかも分からない陽の傾きかけ、ミチルは怒号で目を覚ました。

部屋の扉の向こうからだ。
時折言い合う声が聞こえるのは、おそらく今日に始まったことじゃない。
こういう時、とても恐ろしいなにかを思い出す。

錆びた臭いのする部屋と、同族の嘲り。
これは、悲しい過去の記憶だ。

その頃を思い出すと、自分でも抜け出すのが困難になった。
まるで幼い頃に戻ってしまった気分になって苦しくてたまらなくなる。

ここはどこだ?
分からない。
けれど、息を殺して、耐えなければならない。

目眩がするほど強い吐き気がしてかがみ込む。
こうなってしまえばいっそ、訳の分からない快楽を続けられた方が幸せだった。

強くまぶたを閉じていたら───微かな風と共に、甘い匂いが鼻腔を掠めた。


「ほつれを発見しましたので」


目を開けた先に、柔らかな白い物体。


「裁縫の得意な者に修復させておきました」


目の前に差し出されたのはうさぎのぬいぐるみだった。
大切なものだ。

(大切な───·····)

ベットへうずくまっていたミチルは、そっと手を差し出す。

絹手袋をした男の手からそれが受け継がれる。
抱きしめたら、お日様の匂いと、やっぱり甘くて、でも柔軟剤とは違う匂いがした。

くんくん嗅ぎ回ってみるが、あまりにも微かで出処が分からない。


「花束の側へ置いていたので、匂いが移ったのでしょう」


抑揚の少ない朗読が続く。


「北部から献花された季節のイラの鑑賞花です。寒い環境に咲く花ですから、雌しべが大きく鮮やかな色をしています」


無愛想なのに落ち着いて、眠たくなるような低音だ。
その他、匂いの特徴や植息地を語る相手を、ミチルはふと見上げた。

この男は、こんなに話す人物だったっけ?

いつの間にか喧騒が遠のいていることには気が付かない。


「·····──」
















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

処理中です...