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re.《118》夕闇と雨雲
しおりを挟む身体が暗闇に沈んでいくみたいだ。
「ね、ここに、いるでしょ?」
ぬいぐるみから温もりを感じとるように、さらに強く抱きしめる。
ルシフェルがくれたものだ。彼の側近は、これに彼のマナが込められていると言った。
コレは、自分のだ。
抱きしめていたら絶対にどこへも行きはしない。
「ずっと一緒にいて·····」
そうしたら、天邪鬼なせいで惜しんだ言葉もいくらでも口にする。
もう何も望まない。
だから·····────。
「本当に哀れなウサギだ」
直接、耳に語りかけるような罵倒だ。
ミチルはそっと腕の中を見下ろす。
埋め込まれた宝石がこちらを見上げていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
蛇口を捻ったみたいに、同じ言葉がこぼれでる。
「ごめんなさい」
赤い目はじっと見つめたままだ。
謝罪はだんだんと寂しさをにじませ、吃逆を引き起こす。
「何がそんなに悲しいんだ?」
問いかけられるまま、自分でもまとまらない言葉を空中に吐き出す。
「悲観的だな」
誰にも言えなかった罪を、ぬいぐるみはそう結論付けた。
「姿形が無くなっても、存在していることに変わりないじゃないか」
「ルシは、怒ってる?」
「神に感情は無い」
考える間も無い返答だ。
溢れた想いをなすり付けるようにして質疑を続ける。
ルシフェルは幸せだったのか。問いかけに一定の怖根は「さあ」とだけ返した。
少し冷えた屋敷の一室に、高い声音だけが音を奏でる。
外は重暗い。
雷雨を告げるように、雨雲が夕闇を誘った。
ミチルが軟禁状態の数日間、ハインツェは酷く憂鬱だった。
玩具を独占できないことや、そのせいで湧き上がる嫉妬や、そもそもアレは自分"達"の物で、他の兄弟に対して妬ましさを抱くことすら無意味だと思い知ること。
理由は様々だが、原因は全部小さい肉の塊にある。
何よりも無視できないのは、されるがままの草食動物が零した、高い鈴の音だ。
『遊ばないで』
「·····」
ピンクの瞳が切なげに輝いて、薄い唇は震えていた。
思わず強い罪悪感を抱くのとともに、こちらをどうしようもなく狂わせるいじらしい表情。
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