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re.《117》本当のこと
しおりを挟む世界の超越者。
絶対的な力を持つ美しい男からの寵愛と甘い誘惑に、どうしようもない恐怖と安堵を与えられた。
彼の前では全てお見通しだ。
だから臆病な心を隠す必要もなく、蕩けさせられてしまうのを待っていた。
『綺麗だよ』
耳元へ落とされた、恍惚と濡れた囁き。
言葉はひとつも見逃せない。彼に全身を支配され、愛された。
『一つだけ、本当のことを教えて』
輝く白銀の髪に赤い月光が透けたのが、2人しか知らない闇へ引き込まれた合図だった。
『俺の事を愛している?』
切なげに輝く、血よりも鮮やかな赤い瞳。
言葉を失った唇に失念したのは、自分だけではない。
狡い質問を深く追求すれば、誰も幸せにはなれないから。
「そう」と呟いた声には、とてもでは無い表し難い感情が滲んでいた。
『それだけが全てだ』
他の男を想う自分を、彼は最後まで知らないフリをして抱いた。
全てお見通しだった。
そう思って、彼に何よりも大切なことを伝えることもなく、彼は還らぬ人となった。
狂いそうなほど甘く耽美な夜。
静かで激しく、妖艶な"愛"。
彼は自分に捧げて消えてしまった。
最も恐れているのは、利用されることでも、嫌われることでも、裏切られることなんかでもない。
欺き、傷つけたまま、愛した者を失うことだった。
そう、失ったのだ。
儚くて甘い記憶は、彼と自分だけの物語だ。
誰にも知られることは無い。
あの幸福が永遠に葬り去られた。
そして彼は、とてつもなく長い時間──半永久的に、あの孤独な暗闇を彷徨うのだ。
体が震え始めた。
ダリアじゃない。
彼を殺したのは自分だ。
彼の心臓にトドメを刺したのだ。
「ぁ、ぅ」
口なんてずっと利けなければよかった。
頷くか、首を振るか、それだけで十分だった。
そうすれば、望む返答を期待されることもなかった。
出会わなければ良かった。
本当に?
分からない。
彼はもういない。
"何も無かったように元通り"なんて、考えることすら、出来るわけない。
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