悪魔皇子達のイケニエ

re.《１２》猛進

ベットに逃げ込んだら、頭上に影ができた。


「ひぅっ」


見えていない時にいきなり素肌を触られるとびっくりする。
膝裏に添えられた手は、指先からそっと腿へ伸びた。


「あれほど申し上げたのに·····私を不安にさせるのですか」

「ン、·····ッ」


熱くなったうなじに吐息がかかる。
変な鳥肌が立ち、耐える間もなく、尻の辺りに身勝手な重量が加わる。
なんと、尻尾が出てしまった。


(どうしよう)


これじゃ、彼に触れられて動揺しているのが丸分かりだ。
もしかしたらいつかのハインツェみたいに、イヤらしい期待をしているからだとか思われるかもしれない。

そうしたら嫌われてしまう。

ミチルはパッと彼を振り返った。

逃げようとなどしていないのだ。
自分は健康そのもので、もう怪我もない。

伸ばした手いっぱいで彼に抱きつく。
硬い身体は、予想よりも温かかった。


「大丈夫、だから」


言いながら、広い背中をさする。
変な感じだ。

責められていたのはこっちだし、体格的に追い詰められる形になっていたのもこっち。
普段は、あれはダメこれもダメと制限され監視されているのに、さっきは、なんでも完璧で大人びた彼が、駄々をこねる大きな子供のようにも見えた。


「········································」


相手は無言だ。
息も浅い。


「·····？ジェロン·····」


落ち着いてくれたなら良かったが、ずっとこの体制は困る。
ベットの上で膝立ちした膝が震えてくる。
そろそろ限界だと思ったら、硬くて丈夫な腕に身を抱きすくめられた。

そしてあろうことか、腰から外腿へ伸びた指先が、ぺろりと背後のスリーパーをめくりあげたでは無いか。


「ニャッ」


フェロモンでバレたのだ。
パニックにおちいるが、相手は無言のまま、やがてため息をついただけだ。

なんだ、その心底深く呆れ切ったようなため息は。


「·····貴方は·····本当に·····」

「·····？·····！」


ヒョイとベットへ仰向けに寝かされ、それに習って彼もこちらに覆いかぶさってくる。
至近距離で見つめられると、思わずギクリとするほど鋭い印象の美形だ。


「ひっ？」


指先へキス。
それを合図に、高い鼻が首筋へうずめられた。