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210. ふた
しおりを挟む過ごした時間に感謝していること、これからの幸福を祈っていること。
書くことは予め決めていた。
そして聞かなくていいことは無視することにした。
最後に聞いてしまった話は知らないフリをして、この手紙で思い出に蓋をしよう。
もう彼らには会えないのだから。
どうすることも出来ないのだ。
だからせめて───。
ミチルは慌てて目元を擦った。
両手を使い、袖口を引っ張って一生懸命に擦る。いくらそうしても熱は新しく生まれて、とうとう用紙の上に水滴を落とした。
捨てられたことを思い出したからじゃない。
やっと許すことが出来た。夢にも見なかった、幸せな生涯を送ることを約束された。
今日は素晴らしい日だ。
いま、とても幸せだ。
どうして、未だに自分は、"どうすることも出来ない"なんて考えてしまうのか?
お元気でと締めくくった文は涙に濡れる。それをペンで消して、感情のまま、やっと本音を書き綴る。
会いたい。
このまま一生会うことが出来なくなるなんて、とても耐えられない。今すぐにここから抜け出して、1度でいいから────。
間違いがないようにと、悪魔界の言語でたった数文字を書く。夢中になっていたミチルは、部屋へやってきた人物に気が付かなかった。
頭上に影が落ちてハッとする。
振り返るより先に、甘い香りが肩を抱いた。
咄嗟にペンから手を離した。
「この日を迎えられて幸せだよ」
蜜を含んだ重低音だ。
幸せ。
たった2文字の単語に、胸の辺りが鈍く痛む。
こちらを抱いた長くて男らしい指は、布越しでもしっかりと形を確認することが出来た。
もじもじした後、そっと振り返ってみる。
微笑んだ口元は、見慣れなければ卒倒してしまいそうなほど色気がある。どこもかしこも性的な魅力を持つスタイルが、今日は白いタキシードをまとっていた。
「何をしていたの?」
「あ」
真っ赤な瞳がこちらから机上へ流される。
近くで見ると、恐ろしく美しい。
ミチルは彼の胸元に抱きついた。
手紙と、赤らんだ目元を見られたくなかったからだ。
「ミチル·····」
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