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130.思いがけない人物
しおりを挟む「·····ミチル·····?」
引き止めるより先に光の向こうにいた男が名前をつぶやく。
聞き覚えのある、しかしいつもより鋭さのある声だ。
近づいてきたのは白銀髪の男。
逆光が無くなると、ミチルはあっと声を上げた。
「·····団長のお知り合いですか?」
「馬車を呼べ」
茜髪の男の質問を無視して、ルシフェルがこちらへ向かってくる。
もう1人は命令を受けて場を後にした。
「こんな服装で·····どうしてここに、1人で?」
落ち着いていて、しかし少し怒っているようにも見える。
金の刺繍が美しい軍服に、美しい顔が際立つ。たじろぐも、相手は返答待ちだ。
「みんなと来た」
「·····」
乱れた服を見下ろし、赤い目は無機質に輝いた。
「あいつを斬首刑にしなければ」
凍てつくような呟きは気のせいじゃない。
ミチルは、ブンブンと首を振った。
「やめて」
目線の先のリボンを、慌てて結び直す。
「なにも、されてない」
「なら、どうして服が乱れているの?」
それは、相手が自分を、生活に困っている女性が身分のある騎士や商人に情けを望む商売女と思ったからだ。
貧困を憐れみ、触れるだけで形式上買ったことにして大金をくれた。
慈善活動だ。
茜髪の騎士は何も悪くない。
ルシフェルもそれは分かっているはずだろう。
しばらくして、路地には騎士団の紋章が記された馬車が到着した。
「城まで止まるな」
操者に告げたルシフェルに待ったをかける。
ハインツェにアヴェル、ヨハネスも来ているのだ。
勝手に帰ったらいけない。告げるが、彼は心配ないと言うだけだった。
いつも優しいのに、今はなぜか威圧的にも感じた。
城以外で初めて会えたのに彼は嬉しくなさそうだ。
こんなつもりじゃなかった。
楽しく街を巡って、他の三人も仲良くなってくれるはずだと思っていた。
まさか自分が原因で揉め事が起こって、仕事中のルシフェルにも迷惑がかかるなんて想像すらしなかった。
1人だけお花畑だったんだ。
目の前がじんわりとぼやけた。
「ミチル」
ルシフェルが驚いたように目を見開く。
次の瞬間、体が宙に浮く。
「団長?!」
「彼女を送っていく」
彼はそう告げ、こっちを抱き抱えたまま馬車に乗り込んだ。
おとぎ話の王子様でもこんなことはしない。
いい香りのする胸の中で鼓動が高まる。
馬車が走り出し、ちょっと覗いた窓の向こうが景色を流してゆく。ミチルは少しずつ落ち着いていった。
「今日は特殊な任務で街にいたんだ」
言いながら、彼の指先が前髪を避ける。
優しい触れ方が心地いい。目を細めていたら、下へ下がって行ったそれが、さっき結んだばかりのリボンをほどいた。
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