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117.望み
しおりを挟む問いかけに、彼は何故か傷ついたような顔をする。
そういえば今日は寝室に来る日だった。忘れていたわけでは無いが、進んで来るとは思っていなかったので用を聞いたのだ。
両手で袖を握りしめる様は、言わずもがな頼りなかった。
「そんな格好で部屋の外を彷徨くな」
薄いシャツ1枚だけの姿。
暖かい血の匂いが理性を刺激する。
叱りつける口調に、ミチルはますます泣きそうな顔をする。
「ごめんなさい」
「謝罪はいい。何の用だ?」
普段、滅多なことでは苛立たないのに、ミチルが関係すると最早少しの仕草さえ癇に障る。
くだらない事に構っている暇は無いのだ。
相手はもごもごと口をうごかすだけ。
呆れてしまう。
こっちのことを散々振り回してコケにしておきながら、なぜ自分が傷つけられたような顔をするのだろうか。
「あした····ダリアも、一緒に·····」
全く空気の読めない的はずれな発言も、無視すればいいのに。
「どこへでも行けばいい」
安っぽい恋心をあそぶのが面白かった。
だがもう飽きたのだ。
嬲るも躾けるも阿呆らしい。痛めつけることも苦痛で、ただ目に入れることさえ億劫だ。
「もう利用価値すらない」
ルシフェルを選んだなら、そっちに行けばいい。
元から愛だの恋だのくだらなくて陳腐だったのだ。目が覚めて苦しみから解放されるのだから、ミチルはさぞ幸せな気分だろう。
それを望んでいたはずだろう?
こんな風に考えてしまうなど、まるで愚かな人間になったみたいだ。
目を通した書類にペンを挟む。
翻った紙の向こうに、ダリアは動きを止めた。
ミチルは静かに涙を流していた。
「何が悲しいんだ?」
望んでいた言葉をやったはずだ。
伸ばした手は幼い頬へ触れる前に拳をにぎる。
水をたっぷり含んだ身体は熱を増して、止まる気配の無い雫を産んだ。
「泣くな」
我ながら呆れるほど冷たい声が命令する。
ミチルはなぜ涙を流している?
それを見て、なぜ自分は、こんな思いをしなければいけないんだ。
「頭がおかしくなりそうだ」
部屋を飛び出そうとしたミチルを止めたのはダリアだった。
扉はこっちの背では届かない高所で鍵をかけられる。
腕を掴む硬い手のせいで体に湿気がまとわりつく。命令を聞くことは出来なかった。
「退出は許可していないだろう」
想いを踏みにじって壊すのも、そうやってどうしようもなく荒んだ心を簡単に解しほだすのもダリアだ。
彼の操り人形と変わらない。
ダリアは、自分を飼い殺して全て思い通りにしたいのだと思っていた。
けれど利用価値すらなくなった。
そんな理由で、もう、捕えておくことさえ面倒になったのだという。
"ミチルが必要なんだ"
秘密事を教えるみたいにして告げられた言葉。
夢を見せてくれた、堅実で甘い唇が、幾度となく肌を傷つけ、心をも傷物にした。
嘘だと言って、また「嬉しい」と、セクシーで少し潔癖な感じのする目元が微笑むことを望んだ。
そのためならなんだって出来た。
優しくキスをしてくれる妄想をしたりした。
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