悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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67.逢い引き

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当たり前に頬、首を撫で、吐息の漏れるような温もりを与えられる。
吸い付くように、唇どうしが触れた。


「·····っン·····」


引っ込めた舌に舌が絡まって、どうしても唾液が溢れる。上を向いているせいで慌てて飲み込むと、喉奥が痺れた。
 
柔らかな唇が密着する。
ヌルヌルして気持ちいい。行き場の無い両手に、そっと指が伸びてきた。


(気持ちいい)


「·····っ·····」


突然唇が離れていった。
惚けていたミチルはハッとして彼をみあげる。
舌を突き出したままだった。恥ずかしいのに、また傾けられる顔に期待して更に舌を伸ばす。

なんだか変だ。

(いい香り·····)


「もっとしていいの?」

「にァ·····ンぅ·····っ♡」


唇の先からとろけるみたいだ。
2度目の口付けは長かった。
酸欠の頭に時折濡れた吐息が響く。大切なものに触れるみたいに撫でられるから、なかなか手放すことが出来ない。


(なんで、キスなんて·····)


ミチルは慌てて顔を背けた。
下着に湿った感覚がある。イッた後みたいに体がクタクタだ。
こんなの初めてだった。

零れた唾液をすくわれる。
出会って二回目の、よく知りもしない男とこんなキスをするなんて、警戒心がないにも程がある。

視界の先で白銀が光る。
絹みたいな彼の髪だ。


「なんで、だめ」


首を振って精一杯抵抗する。
全く嫌じゃなかったのが問題だ。


「もうしないから·····見せて」


どこかで、望んでいたのかもしれない。
高鳴る胸を押え付ける。

なぜか切なさを思わせる彼の全て。
ずっと手に入らない懐かしさを秘めた瞳が、夢を見させる。





ミチルは一目散に逃げ出した。
手に負えなくなったら逃げる。恥だが、何よりも確実な方法だ。


『パーティの日に、噴水の向こうで』


待っているからと告げられた声は、確実に、わざとこっちを逃がしたものだ。

食用や玩具や利用するためのものではない。
初めて向けられた純粋な好意に、おかしいくらい胸が叫んでいた。

熱い目元を晴らすため、強くまぶたを閉じる。

脳内を占めるのはダリアの残像だ。
全く似ていないのに·····──ルシの微笑みが、いつかの彼に重なる。

(全然違う)

高潔な横顔、自分とは違うところを見据える瞳。
色も形も違う。
向けられた思いも違う。

(最低だ)

彼の好意にたまらなく嬉しくて虚しくなったのだ。


「!?」


次の瞬間、地面を蹴っていた足裏が軽くなった。





















「盗み聞きは良くなかったのでは?」

「───何を企んでる」


最後まで言い終わる前に、鋭い声が問いかけた。

静まり返った部屋にもうひとつの影が伸びる。
残り香に鼻を擽られ、嫌悪の表情を浮かべたのはダリアだ。


「あはは」


ルシフェルは笑みを漏らした。
高い天井をホコリが舞う。穏やかな空気は殺伐より無情だ。

可笑しい以上になかった。


「あんなに幼い子を利用しようとした企んだのは君じゃないか」


あの時、ダリアは小さな手を包み込み、狡く妖しく誑かした。

己の欲望に忠実で、目的の為ならば手段さえ選ばない。
それでいて正当な振りをしている。しかし、そんな彼に初めて関心を持った。

正確には、彼に騙され、それを知っても尚ダリアを愛しむミチルにだ。


「あいつを手駒にして、継承権を取り返そうとでも?」


サタンの土地になど興味はない。
自分にとってはどうでも良いモノばかりに執着するダリアはとてもつまらない兄弟だった。
とりわけ自分は血の繋がりが薄いのだから、尚更だ。


「ああ·····君と俺を一緒にしないで欲しいな」


あの子はどんなに嬉しかっただろうか。
真実を知っても尚、こんな男を思って、豊かな身体を熟し潤すのだろう。
惨めな甘い匂いを思い出せば、たまらなく愛おしさが込み上げた。

人間が。否、ミチルがあんなに愛おしい生き物だと知っていたのなら、他の誰も目に入らないほど───飼い慣らしたのに。

ルシフェルはふとダリアを振り返った。

口角が自ずと引き上がるのと対照的に、相手の表情は硬かった。
普段と同じ無表情だ。

しかし、面白いことに気がついてしまった。


「なら、君が孕ませればいい」


それには時間を要する。
そしてその時間が、彼を苦しめることになるかもしれないということに。


「あの子を」


ミチルが消えた扉を振り返る。
彼はこの自分にダリア想い人を重ねた。


「殺すことになるかもしれないけど」











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