悪魔皇子達のイケニエ

亜依流.@.@

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29.食べて

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相手からすれば、勘違いも甚だしいといった所だろう。

使い物にならなくなったら他のと変えられるような、使い捨てのおもちゃか家畜みたいに思われているんだ。
だから彼らは、当たり前のようにひどい仕打ちができる。罪悪感さえ抱かない。当然のことだ。


「はやく、食べてよ」


早く終わらせてしまえばいい。
生きるとか自由とかもうどうでもいい。


「お母さまに会いたい」


寂しくてたまらない。
目頭が熱くなると、せっかく引いてきた頭痛が再開する気がした。
発情周期が少しズレたのかもしれない。
他人事みたいに考えながら、ミチルはスンスンと鼻すすりを繰り返した。


「ずっとそばにいるよ」


静寂に、溶けるような声が呟いた。


「··········?」


呟いた相手を見上げる。
力の入らない瞳を覗き込んでも、冗談を言っているのか、はたまた本気なのかは分からなかった。

一切の濁りがないシアンだ。輝くから、ライトシアンといった方がいいかもしれない。


「うそつき」


一瞬揺らいだ心を隠す。
彼は少し悲しそうに首を傾げた。


「どうしたら信じてくれる?」


(·····どうしたら?)

そんな気など1ミリもないくせに、また騙すつもりなのか?
握りしめた拳が震える。
ミチルはいいことを思いついた。


「眼」

「め?」

「片方くれたら、信じる」



我ながらホラーだけど、ハインツェやアヴェルから言われてきた脅しに比べたら易しい方だろう。

さて、どうやってこの場を切り抜けるだろうか。
それとももう演技はやめて、本性を現すだろうか。

少しいじわるしてやろうと思っただけだった。


「いいよ」



彼の返答は予想のどれにも当てはまらなかった。


「·····え?」


うつ伏せになっていたミチルは、慌てて彼の方を振り返った。
抜き取られたのは短剣だ。
鋭い刃先は光の線を走らせながら、迷いなくヨハネスの顔面へ迫ってゆく。


「やめて!!」


ミチルはベットを飛び出した。


「·····!!!」


目の前で鮮血が飛ぶ。
彼の手を滑り落ちた刃は、ごとりと鈍い音を鳴らし、絨毯の上に落ち着く。

ぐわんぐわんと視界が揺れていた。
抱きしめた胴体はおかしいほど正常に呼吸を繰り返している。見あげようとしたミチルの目元は、相手の手のひらに覆われた。
生ぬるいものが頬に落ちた。

ヨハネスは泣きわめく背を撫でるだけだ。
彼のシャツが濡れて、冷たくなってゆく。ミチルはひとしきり涙を流し続けた。





    静かに泣くミチルを見下ろし、ヨハネスはそっと背中に手を回した。
ひしりとしがみついた手元が震えている。
また、何か間違えてしまったようだ。

一昨日、歯止めが聞かずに行為を続行したせいで、ミチルを怒らせてしまった。自分と話すのも嫌がっていた様子だったので世話係のジェロンを呼んだが、それも良くない選択だったらしい。


『嫌い』


はっきり告げられたのは死刑宣告に等しいものだった。

赦してくれるならどんな事でもする気でいたから、嬉々として言う事に従ったまでだ。
が、おそらく自分のせいで小さな身体はまた熱くなって、瞳はぽろぽろと涙を産んでいる。
もう泣かせたくはなかったのに。

心が張り裂けそうな程痛んで──····そしてなぜか喜びを隠せない自分がいる。


「ヒック···············っ··········ぅぅ·····」


いつの間にかミチルの耳はピンと立ち上がっていた。
そうとう驚かせてしまったのだろう。


「··········」


もう少しだけ、自分のために泣いてはくれないだろうか。

ずるい願いを隠して抱き寄せる。
熱い身体は腕の形に歪んだ。


「うさぎちゃん、ごめんね」


聞こえているのかいないのか分からないが、彼はこくこくと頷いて、またこっちの胸に体を預ける。


「·····許してくれる?」


暖かくて、甘い匂い。
ずっとこうしていたい。
ずっと抱きしめあって、もっと深く····───。


「うさぎちゃん·····」


こんなに小さい温もりを、離したくなくなってしまう。
泣き腫らした顔はこっちを見て、心から安堵したように眉を下げた。










   碧眼は両目とも、相変わらず美しい輝きを放っていた。
良かった。
胸を撫で下ろす一方、ミチルは複雑な気分になった。

彼は本気だった。
止めていなければ、短剣は迷いなくヨハネスの片目を貫いただろう。

(どうして?)


金平糖、クッキー、チョコレート、そして蜂蜜が入ったミルク。
彼からもらった甘味が、変な羅列を作って脳内を独占する。



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