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第五章

《第28話》宣戦布告

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返信がなかったので教室まで来たが、寝ていたので遠慮したという内容のメッセージだった。

わざわざありがとう、また部活で。
簡単に返しスマートフォンを仕舞う。
庵野との関係は、順調すぎるほど順調だ。

出会って2日目であんなことをされて、一昨日は半分同意の上で慰めあった相手なのに、だ。
おまけに、1つ年下の後輩である。

これも、彼の計画なのだろうか。
いや、まさかな。


「荒井、今日部活の後残れる?」


他の生徒と騒いでいる荒井へ声をかける。


「お?いーけどどした?」

「2年にミニゲームで勝負する約束したから、審判頼む」

「まさかの宣戦布告?w」


荒井は興味深そうに目を見開いた。


「姫宮に、バスケで勝てるわけねーじゃんな」

「ただ単に構ってもらいたいだけじゃね?」

「てか生意気だなw」

「え、誰だよ」


話を聞いていた周りのクラスメイトが口々に言う。

バスケ部員からは「俺らが変わりに相手してやるよ」なんて台詞が聞こえてきた。
血の気の多い奴らだ。


「それはともかく、なんでいきなり勝負?賭けでもやってんの?」


荒井がなんとはなしに聞く。
周りのクラスメイトが顔を合わせ笑っている。


「賭けっつーか」


少しの間言葉を選んだ姫宮は、まあ、と、一言置いてから続けた。


「負けた方が相手の言うことを聞くっつーゲームだよ」


荒井を含め、その場にいる全員の表情が固まる。


「·····は?」


こうして『2年のバスケ部員が姫宮みずきにバスケの勝負を申し込み、いかがわしい条件を突きつけた』という話題は、程なくして学校中に広まったのだった。





























翌日ら放課後のアリーナは、沢山の生徒たちで埋め尽くされていた。
彼らはバスケットコートを囲む形で、びっしりと壁に埋まっている。

4月下旬の体育館にあるまじき熱気だ。



「きゃー♡見て庵野くんいるよ、ほら!」

「モデルかなんか?」

「てか、庵野くんって言えばさぁ、あの噂·····」


黄色い声が聞こえる一方で、なんだか不穏な空気も揺れている。
彼らの視線は、バスケットコートに立った更衣月へ、一身に注がれた。


「更衣月絢斗だ」


誰かが呟く。
ざわざわ、ざわざわ、と、ざわめきは大きくなってゆく。
チラホラと教師の姿まで見えてきた。荒井は呆れたように両手を上げてみせた。


「野次馬死ぬほど増えてますケド」


姫宮が更衣月を眺める。
彼はこの上なくやる気があるみたいだった。


「よし」


姫宮がボールをバウンドさせながらコートへ躍り出ると、たちまち歓声がわいた。

更衣月や庵野の時とは違い、女子の叫び声に混ざって、なぜか男共の雄叫びが聞こえてくる。
更衣月は眉を寄せた。

駄目だ。今は集中しなければ。

周りの雑音を振り払う。
彼に勝負を申し出た時、何を望むのかは、まだ決めていなかった。

姫宮は約束を守る男だ。
付き合いたいとか、はたまた狡い欲望を口にしても、彼が約束通り言うことを聞いてくれる可能性は、低くはなかった。

きっと彼は嫌がる。
そんなのは望んでいなかった。
今はまで築いてきた綺麗な思い出を、幻滅させたくなかった。

だから言うのだ。
この戦いに勝ったら────。


「来いよ、更衣月」


練習後の汗を滴らせ、彼は偉そうに笑う。
まゆはキリッとひきしまっているくせに、瞳は熱に滲んでいる。
下半身にまで、一気に血が昇りそうだ。

一体一のゲーム。先に5点入れた方が勝ちだ。
ボールを受け取った更衣月は、目の前の姫宮を見すえた。
部員の声援に笑顔を向けていた相手が、ふいとこちらに視線を流す。


「どーする更衣月?俺は5点、お前は3点入れられたら勝ちでもいーけど?」


周りの歓声が高まってゆく。
試合を盛り上げるショーテクニックだ。

体格差では更衣月が断然有利だが、姫宮はそんなことちっとも気にしていないようだった。


「舐めてられんのも、今のうちっすよ」


いままで姫宮に勝てたことは、1度もなかった。

だいぶ前に、今日こそは勝つと息巻いて勝負をしかけた時があった。
最初に1点決めたが、その時の姫宮は手を抜いていたことが判明した。

というのも、その後彼に転ばされ踊らされ、連続で10点取られた後、降参しますと言わされたのだから当然だ。

アリーナが嘘のように静まりかえる。
素早い笛の音を合図に、更衣月はバウンドをつき始めた。























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