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しおりを挟む司が挑発的な翔の言葉を遮る。
彼は目いっぱいに両目を開く優介を覗き込み、囁いた。
「諦めんなよ」
昨夜優介が放った言葉だ。黒髪の間から覗いた切れ長の瞳が、涼しげに輝く。
「俺の事が好きなんだろ?」
なんの悪びれもなく堂々と聞いてきた司にぽかんとしてから、優介は2人の提案を整理した。
つまり、どちらかを選ぶまでは 一緒にいてくれと、そういう事だろうか。
そんな事、妄想でだって考えたことがない。前代未聞の提案に、優介は思い浮かばれた心配事を吐き出した。
「馬鹿だし、ただでさえ俺はどっちにも釣り合わないのに、どっちもと付き合うなんて·····」
「俺は優介が好きなんだ」
甘い声が、誰でもなく優介が好きなんだと繰り返す。
不満気な司は、しかし妥協するように静かに先を見守っていた。
憧れで、一目惚れの翔。優しくて頼りになって、そしていつでも自分を想ってくれた。
初めこそ近寄り難く恐ろしいイメージのあった司。不器用な優しさはくすぐったくて、少し意地悪な所だって、嫌いでは無いのだ。
だから、自分は2人を好きになったのだ。
この二人が好きだ。
「俺たちなりの関係を作っていこうよ」
他の誰も決めることの出来ない形に、型などは存在しないのだ。
翔がゆうすけの手のひらをとる。
「もうどこへも逃がさないよ」
美しい顔が優しく微笑む。一瞬謎の悪寒が駆け抜けた。
「セクハラ野郎が·····一々いやらしい触り方してんじゃねえよ」
「自信が無いからって邪魔ばかりするな」
「ふ、2人とも!時間!時間が·····」
時刻は、予鈴のなる約5分前。
3人は校舎へ向かって走り出した。
今年初めて空に飛び立った蝉の鳴き声が、新たな関係の始まりを告げた。
おわり
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