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寮を出たところで、優介は暗闇から伸びてきた腕に引き寄せられた。
あまりの驚きに声を失う。しかし、優しい石けんの匂いには覚えがあった。
「早かったな」
不自然なほど冷静な声が鼓膜を揺らす。優介は彼を見上げた。
先を歩き出した司は、自分を2年寮まで送るつもりらしい。
ずっとここで待っていたのだろうか。ただの暇つぶしのペアのために、何故そこまでしてくれるんだろう。
さっさと前を歩きながら、司は白い月を見上げていた。
裕福な家庭に生まれ、自分の思い通りにならないことは無かった。望めばなんでも手に入り、望まずとも注目を受けた。
全てがバカバカしがった。簡単に手に入るものはどれもガラクタばかりで、なんの価値もなかった。
めちゃくちゃに壊してやろうと反抗し暴れたって、自分は無力だ。
知らなかったのだ。
優介に出会うまでは、こんな感情は知らなかった。
愛情、嫉妬、独占欲、庇護欲───言葉では言い表せないもどかしく切ない想いを知った。
彼の笑顔に、初めて幸福を感じた。
やっと見つけた欲しいものは、力ずくで手に入れようとすれば壊れてしまう。
けれどどんなに恋い焦がれたって、振り返ってはくれなかった。
ただ、優介に求められたならば、自分は何だってできる気がしたのだ。
けれど優介が語ったのは、司の望みとは正反対のものだった。
「····もう、今までみたいなことはやめてください」
「·····」
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