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夜の校内に忍び込み、外履きのまま廊下を進む。
こんなことになるなんて、以前の自分なら想像さえ出来かった。

保健室に辿り着くと、救急木箱に消毒液や包帯、傷薬、絆創膏などを十分に詰め込む。

荒くなった呼吸を整える暇なく、三年の寮棟へ向かった。


(薬なんて、頼まれてないけど···)


幸い、途中で人に鉢合わせることは無かった。無事彼の部屋の前まで辿り着き、優介は扉を叩く。

汗ばんだ手の平をシャツで拭う。部屋に入れてもらえないのでは、という心配は、不要だった。

扉を開いた司は、シャワーを浴びた後らしく、腰にタオルを巻いている状態だ。

広い肩幅に、浮き上がった筋肉。黒髪から滴る水が、額から溢れる血と混じり鮮やかな赤を広げた。

優介は慌てて部屋に入り、扉を閉めた。


「手当させてください」


司が不愉快そうに眉を歪める。

思わず押し入ってしまったが、ここは昨日、自分が司に嬲り犯された場所だ。

優介は、不安げに司の様子を伺う。彼は舌打ちを落とし、どっかりとベッドへ腰掛けた。

これは治療を許可されたと見て良いのだろうか。迷っていると、鋭い視線に睨まれた。


「早くしろよ」


優介は慌てて返事をして、その隣に座る。

額から溢れ出る血をティッシュで拭い、コットンに消毒液を染み込ませる。

それを傷口に当て、次に軟膏を塗り込んだ。


「い、痛くないですか?」


返答はない。
傷口を見るに、愚問だった。生々しい傷口をガーゼで覆い、優介はそっと彼から手を離した。


「あそこで、何があったんですか」


ただの喧嘩でないことは、一目瞭然だった。

額の切り傷は刃物によるものだ。

司は優介に、アリーナ裏へ行くなと、メッセージを送った。

仕組まれていた事で、自分に関係のあること。
そして司は、全て知りながらあの場所へ向かった。


「もう帰れ」


優介は首を横に振った。


「教えてください」


「お前には関係ない」


「嘘です!教えてくれるまで、俺──」


言葉は、荒々しい打音に掻き消される。

司の拳が、硬い壁を殴りつけた。


「また痛い目に合いたいのか?」


しんと静まり返った部屋の温度は、数度低くなったように感じる。優介は冷ややかな目を見つめ返した。



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