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「隣、良い?」


思い出に耽っていた優介は、不意に声をかけられ顔を上げる。

優介の隣の椅子を引き、翔は少し顔を傾かせた。

空席ならいくらでもある。翔の提案に、優介は戸惑いつつ頷いた。

翔が腰掛けると香ってきた優しい香りは、何度も盗み嗅いだものだった。

じっと見つめていたのを、気づかれてしまったのかもしれない。あるいは、通りすがりざま、その匂いを吸い込んでいた事がいけなかったのだろうか。

不快だからやめてくれと言う翔を想像し、優介は拳を握りしめた。


「ここ、居心地が良くて好きなんだ」


先に口火を切ったのは翔だった。

優介にとって、この古びた図書室は、何よりも大切な場所だった。

人を好きになることは残酷な事だと思う。
どんなに慕っていても、想いが報われることは愚か、伝わる事さえ安易ではない。

翔に想いを伝える代わりに、優介はペアを申し込もうと思っていた。

きっと断られるに違いない。それで気持ちに区切りをつけようと思っていた。

それさえも叶わなかった。


「優介?」


優介は咄嗟に俯いた。


「泣きそうだ」


囁く声は、あまりにも近い。

優介が振り向いた先に、翔の唇があった。


「あ·····っ!」


椅子ごと後ろへ転びかけ、翔の腕に支えられる。


「あ···りがとう、ございます」


優介は、俯いたまま顔を上げることが出来なかった。

翔の手のひらが、優介の手を覆うように重ねられていた。


「気をつけて」


壊れものを撫でるように、ゆっくりと、彼の指が優介の指の間へと滑り込まれる。 


「·····え?」


これは夢か幻か。優介は口から飛び出しそうな心臓の音を、生唾と一緒に飲み込んだ。


「話したい事があるんだ」


見上げた先で、キャラメルを溶かしたような瞳と視線が絡まり合う。


翔は、真剣な顔で優介を見つめていた。

優介が頷くのと、引き戸式の扉が激しい音を立てて開くのは、同時だった。

続いた荒々しい足音が、穏やかな部屋の雰囲気を壊す。

優介は、目の前に現れた人物に言葉を失った。

思わずというように立ち上がった優介の腕は、無言の司に掴まれる。


「いっ····」


手首が歪みそうなほど強い力だった。

優介の悲鳴を無視して、司は掴んだ腕を引っ張り歩き出す。


「待てよ」


翔が、司を呼び止めた。




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