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④
しおりを挟む「隣、良い?」
思い出に耽っていた優介は、不意に声をかけられ顔を上げる。
優介の隣の椅子を引き、翔は少し顔を傾かせた。
空席ならいくらでもある。翔の提案に、優介は戸惑いつつ頷いた。
翔が腰掛けると香ってきた優しい香りは、何度も盗み嗅いだものだった。
じっと見つめていたのを、気づかれてしまったのかもしれない。あるいは、通りすがりざま、その匂いを吸い込んでいた事がいけなかったのだろうか。
不快だからやめてくれと言う翔を想像し、優介は拳を握りしめた。
「ここ、居心地が良くて好きなんだ」
先に口火を切ったのは翔だった。
優介にとって、この古びた図書室は、何よりも大切な場所だった。
人を好きになることは残酷な事だと思う。
どんなに慕っていても、想いが報われることは愚か、伝わる事さえ安易ではない。
翔に想いを伝える代わりに、優介はペアを申し込もうと思っていた。
きっと断られるに違いない。それで気持ちに区切りをつけようと思っていた。
それさえも叶わなかった。
「優介?」
優介は咄嗟に俯いた。
「泣きそうだ」
囁く声は、あまりにも近い。
優介が振り向いた先に、翔の唇があった。
「あ·····っ!」
椅子ごと後ろへ転びかけ、翔の腕に支えられる。
「あ···りがとう、ございます」
優介は、俯いたまま顔を上げることが出来なかった。
翔の手のひらが、優介の手を覆うように重ねられていた。
「気をつけて」
壊れものを撫でるように、ゆっくりと、彼の指が優介の指の間へと滑り込まれる。
「·····え?」
これは夢か幻か。優介は口から飛び出しそうな心臓の音を、生唾と一緒に飲み込んだ。
「話したい事があるんだ」
見上げた先で、キャラメルを溶かしたような瞳と視線が絡まり合う。
翔は、真剣な顔で優介を見つめていた。
優介が頷くのと、引き戸式の扉が激しい音を立てて開くのは、同時だった。
続いた荒々しい足音が、穏やかな部屋の雰囲気を壊す。
優介は、目の前に現れた人物に言葉を失った。
思わずというように立ち上がった優介の腕は、無言の司に掴まれる。
「いっ····」
手首が歪みそうなほど強い力だった。
優介の悲鳴を無視して、司は掴んだ腕を引っ張り歩き出す。
「待てよ」
翔が、司を呼び止めた。
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