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《275》午前0時

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新しいシャツに袖を通し、楽な格好に着替える。
その間も、ノワの怯えた表情が、何度も思い浮かばれた。
忌々しい奴だ。


「·····っ!」


イアードはその場に片膝を着いた。

酷い頭痛に襲われる。
脳がねじれるような痛みだ。


(もう、0時か)


憎らしい聖徒のせいで失念していた。

毎夜零時になると、身体中を耐え難いほどの痛みが襲う。
2時間から、長い時は朝方まで。
イアードは床に寝転んだ。

冷えた大理石のおかげで、多少痛みが和らぐ。

三年前のあの日、聖徒を殺した。
毎夜身体を蝕む激痛は、恐らくその報いだろう。

自分も殺されたはずだが、次に目を覚ました時、切りつけられた傷跡はとても浅かった。

もう一人の聖徒・ノワが、自らの命を犠牲に民を救ったという。
傷が消えたって、記憶にはしっかりと残っている。

フィアンは一度、この自分を殺めた。


(俺は、何のために)


あの時、何が自分を突き動かしたのか、全く思い出せないのだ。
名誉か、はたまた名声か?
違う。あの時、そんなものはどうでも良かった。

復讐のため、あれほど欲しかった権力。
それらはいつしか興味が無くなっていた。

帝国で二番目に偉大な地位を手にしたが、今だって感じるのは、漠然とした虚しさだけだ。

イアードは取り出した鎮静剤を床に投げ捨てた。
鎮痛剤コレは緊急時にしか使えない。
身体が慣れてしまうと効力が薄れ、肝心な時に役に立たないからだ。

強制的に意識をシャットダウンする。

揺すられなければ起きないほど深い眠りにつく。刺客に襲われる危険があるため長くは出来ないが、少しでも痛みを凌ぐことは可能だ。


「ぐ·····っ·····」


まぶたの奥に、白い記憶が浮き上がる。
ケラケラと高い笑い声が聞こえる。なぜだか、全く耳障りではない。

彼が、また、とても親しげに名前を呼ぶ。


(だから、お前は、誰なんだよ·····)


どうしてこんなに、記憶にもない人間に、会いたくてたまらなくなるんだ。

まぶたが閉じる寸前、扉の方から、白い脚が覗いた気がした。























─────────────



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