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《238》手紙

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宛名はない。
癖のある丸文字が、この自分に対して中途半端に偉そうな言葉遣いを綴っている。
けれど、丁寧に思い出を思い返しては、本当はあの時はこうだったとか、感謝しているなんてことが書かれている。

確かに、こういう場面はあった。不可解なのは、その内容に、全く記憶にない出来事が加えられていることだ。
そこには、自分の知らない"リダル"がいた。

初め、何らかの陰謀を企んだ者の罠かとも思ったが、それにしてはあまりに稚拙で、意図の読めない手紙だった。

この文章を目で追う時、時折感じていた違和感の正体が分かりそうで分からない、おかしな気分になるのだ。
違和感と言うには大袈裟かもしれない。感じているかさえ分からない、そのくらいのものだ。

手紙の最後に、ツノの生えた男子のイラストがあった。それに矢印をのばし、「悪魔リダル」と記されていた。

こんなにも阿呆そうで、無礼で馴れ馴れしく、怖いもの知らずな知り合いはいない。

このふざけた作り話は、一体、誰が書いたのか?


「お前は、誰だ?」


呟いた言葉は静かな部屋に消える。
もちろん返答はない。

見上げた夜空には、数え切れないほどの光がちりばめられていた。
























   正午、ノワの元に可愛らしい客が訪ねてきた。

クララ・ゾイ・ユージーン。
公爵家の末っ子で、ユージーンの四つ違いの妹だ。部屋の前で可愛らしく挨拶をする彼女に微笑みかけ、ノワは手に汗を握った。

ついに、この日がやってきてしまった。


「お部屋に入れていただいてもよろしいですか?お気に入りのお紅茶を持ってきましたの」


天使が微笑む。

逃げられない。
ノワは半ば放心状態で頷いた。


 









「まあ!!!!!!ノワ様!!!!!!素晴らしいですわ!!!!!!!!!」


クララの叫喚が部屋に響き、暫く鼓膜をこだまする。
ノワは眩暈を起こしてから、シー、と、唇の前に人差し指を立てた。


「く、クララ様!誰か来ちゃうから、お静かに·····!」

 
「アアッ?!?!ブフォッ···ゴホッ、ゴホ·····は、反則ですわ、ノワ様そんなサービスは·····ゴホッ!」


どうやらこの仕草はまずかったらしい。ノワはギクシャクしながらソファの上に手を落ち着けた。
先程からこの調子だ。
安易に身動きをとることさえ危ぶまれる。

現在ノワが身につけているのは、レースをふんだんにあしらったドレスに、絹の手袋。
肩まであるウィッグを装着し、クララの侍女に化粧を施してもらえば、いつかも見かけた女装姿の自分が出来上がった。













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