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《224》完璧
しおりを挟む意味がわからない。
「あの、ほんとに、自分で·····うわぁっ?!」
彼が地面を蹴る。ノワは思わず、風をきって走る肩に手を回した。
まるで猛進するヒョウだ。
「聖徒様、ありがとうございます」
レハルトは前を見すえたまま言った。
「殿下と出会ってくださって」
「あ·····」
リダル───否、イアードを心から思ってくれている人に、初めて出会った。
そんな彼に感謝されるなんて、変な話だ。
イアードは、自分なんかよりレハルトを信頼しているに違いないのに。
「僕は·····」
この争いが終わったら、今度こそイアードに「ありがとう」を言おう。
そういえば、まだちゃんとした願い事だって聞いてない。本当のことも全て聞かなければいけない。
(そしたら僕達は、今度こそ本当の親友になれるかな?)
ノワは思わず笑みを浮かべ、しかし直ぐ、胸の奥に蟠りを感じた。
(親友·····?)
そっと唇をなぞる。
自分を見つめるとき、冷たい深紅が、熱を帯びて光るのを思い出した。
「聖徒様、着きました」
「!」
はっと我に返る。
最上階は言葉を失う程の惨状だった。
以前に見た豪華絢爛な王宮の姿は跡形もなく、壁はただれ、灰の被った瓦礫が道を埋めている。
一体、ここでどんな戦いが繰り広げられていたのだろうか。
「足場が悪いので、聖徒様はここでお待ちください」
レハルトが丁寧すぎるほど丁寧に、ノワを地面へ降ろす。ノワは地面に足をつくや否や、廊下の先を駆け出した。
「聖徒様!」
レハルトを無視して、瓦礫を飛び越え、最奥の謁見の間へ向かう。
逸る気持ちを抑えることが出来なかった。
扉は跡形もなく取り外されていた。
端の金具がちぎれている。力尽くで壊された証拠だ。
ふと、暗闇に、赤が灯る。
「·····イアード·····?」
ノワの声はしりすぼみに消えた。
砂残りの向こうから現れたのは、金粉を纏ったようなブロンドだ。
「フィアン様!」
「──ノワ」
最後に見た時と変わらないフィアンが、こちらに近づいてくる。
ノワはその場に立ちすくんだ。
彼の手にした聖剣から、赤い糸がすべり落ちる。
何本も、一定の間隔をあけて地面に沈んでゆく。それを鞘にしまった腕が、動けないままのノワを抱きしめた。
「待たせて悪かった、ノワ」
フィアンは仕方なさそうに眉を下げ、笑った。
「もう大丈夫だ」
太陽のように眩しくて、素敵な笑顔だ。
再会を喜ぶように、そして心底心配していたように震えたまつ毛の先まで、全て。
──全てが、この空間において、完璧でいびつだった。
「やっとお前を助けに来れた」
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