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《202》デリックのために
しおりを挟む(いや、ラブじゃない。ホラーかサスペンスだ)
頭を抱え込みたくなる。
外に出たいのには、訳があった。
「·····それじゃあ、デリックに手料理を振る舞いたかったけど、出来そうにないや」
こちらに背を向けたデリックが、ピタリと立ち止まる。
「ノワくんが俺に?」
引っかかった。
ノワは内心ニタリとほくそ笑みながら頷く。
「食材を取りに行きたいんだけどな」
「でしたら、他の者に取りに行かせましょう」
「僕が見つけたいんだ、デリックのために」
デリックの目が大きく見開かれる。
チョロ過ぎる。こうして見ると、とてもでは無いが、彼が極悪人とは思えなかった。
庭園には色とりどりの薔薇が美しく咲き誇っていた。
しかし、前に見た時とは雰囲気が違っている。
花々は息を潜め、揺れる草木がザワザワと音を鳴らす。
庭だけではない。城全体に、言い表せぬ不穏な空気が漂っていた。
「·····あった!」
木陰に、蒼い茎を見つける。
ノワは駆け出した。
探していたのは、サンドラという薬草だった。どこにでも生える雑草だが、栄養価が高く香りが良いため、市民の料理に幅広く親しまれている。
しゃがみこみ、2、3本を摘み取る。これだけあれば充分だろう。
「?」
頭上に影が落ちた。
「俺のそばを離れないでください」
危ないですから、と、穏やかな声が言う。
振り返ると、すぐ後ろにデリックがいた。
丘の斜面に関わらず、ノワよりもはるかに体格が大きい。
エメラルドの瞳に映る自分は妙に小さく見えた。
手入れの行き届いた城の庭に危ないものなど存在するわけが無い。
もし存在すると言うなら、それは一人だけだ。
「大丈夫だよ、それに」
ノワは明るい笑顔を作り、彼を宥めるための言葉を続ける。
「何かあったら、聖力で治癒だってできる」
「聖徒は、自分自身を治癒することはできません」
こちらの言うことを予測していたかのように、デリックが告げた。
「聖徒同士の治癒能力も無効です」
二人の間に冷えた風が通り過ぎていった。
「あ·····そうなんだ」
なんでもない事のように相槌を打ちながら、そっと薬草をにぎりしめる。
つまり、デリックも自分自身を治癒することは出来ない。
思わぬ朗報だ。考えを巡らせていると、肩に軽い重みが加わった。
「顔色が悪いですよ」
「!」
デリックが、自身のジャケットをノワに羽織らせる。
先程まで彼が身につけていた上着には、かすかな温もりが残っていた。
「体が冷えたんでしょうか」
心配そうな顔がこちらをのぞきこんでくる。
ノワは顔を背けた。
(馬鹿なヤツ·····)
彼は、目の前の想い人が自分を欺き、殺す方法を模索しているなんて、思いもしないのだろう。
「うん」
形ばかりに口角を上げる。
目を合わせることは出来なかった。
「デミリオン様」
近寄ってきた従者がデリックを呼ぶ。耳打ちを受けたデリックは、彼と何かを話したあと、ノワの元に戻ってきた。
「用事が出来たので、行かなければいけません。また夕食の時にお会いしましょう」
彼としばしの別れを告げたノワは、深くため息をついた。
やっと離れることが出来た。
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