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《174》年上の人

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時折、こちらを探るような視線を感じる。

談笑の声を響かせているのは、国の行政大臣や、新聞で見たことのある著名人ばかり。現皇帝即位から40周年を迎えた宴の場で、例に違わずノワは萎縮していた。


「ドレスじゃないのが残念だけど、こっちも似合ってるよ」


キースの軽口に言い返す余裕はない。

圧倒的場違い感だ。
例えるなら高級宝石店にガラスのビー玉が紛れ込んでいるようなイメージ。
できることなら、手洗い場に篭もっていたい。


「まさか初めての頼みが、パーティの同伴なんてね」

「嫌なら断っても良かったのに」


自分なんかと一緒にいて、彼の家の名に傷がつくのでは無いだろうか。
つい、思ってもないようなことを言ってしまう。

しかしやはり浮いている連れと一緒なのは嫌だろう。不貞腐れていると、キースは軽い笑い声を上げた。


「素直じゃないね」


彼の言う通りだ。
ノワは少し申し訳なくなって、手元を見下ろした。


「·····ありがとう、キース」

「どういたしまして」


視界の端でアイボニーが揺れる。


「困った時はお互い様さ」


彼はシャンパンの入ったグラスを傾けてみせた。


「でも、女装はもうしないから」

「つれないね」


キースは近寄ってきた女性達を適当にあしらい、ノワの隣に落ち着く。

主人公が現れなくとも、彼が女好きでなくなるのは設定通りのようだ。
ふと、マルコリーネを思い出した。

高飛車な態度に、目元のつり上がった、キツい顔つき。典型的な悪役令嬢顔だが、美しい女性だった。


「キースには、年上の方が似合う気がする」


彼女は確か、キースのひとつ上だ。

マルコリーネはキースを盲目的に愛している。ヒロインが現れなかったのだから、キースに別の女性を勧めたって問題ないだろう。

2人が腕を組みワルツを踊る姿は、安易に想像することが出来た。


「ノワくんじゃないか」

「は?」


切れ長の目元がノワを捉える。
予想しなかった返答だ。ノワはギクリとした。


「僕は同じ歳·····いや、そもそも、選択肢に入ってないから」


生きた年月を数えれば、もちろんキースよりも年上だ。
何か勘づかれたのだろうか。


「遠くを眺めている時の目が、突然大人びたみたいで不思議なんだ」


ストーリーを思い出している時の事だろうか。
それともフィアンで妄想している時だろうか。


「僕と出会ったばかりの頃も·····」


途中まで呟いて、キースは口を閉ざした。

力のこもらない瞳が宙を見つめている。
彼の横顔の方が、よほど大人びて見えた。








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