176 / 342
《172》分からない
しおりを挟む「あの·····」
彼は、気づいているのではないか。
この想いを知っていて、からかっているのでは?
彼はそんな人じゃない。分かっているはずなのに、まるでこちらの考えを見透かされているような錯覚に陥る。
飴と鞭で、上手く飼い慣らされているような気分になる。
まるで、思い通りに操れるように、躾られているような───。
(なのに、嬉しくて·····)
脳みそは、フィアンからの言葉を良いように受け取ってしまう。
彼に喜んで欲しい。ガッカリさせたくない、もっと、構って欲しい。
首輪を付けられた先に待っているものは、果たして褒美だろうか?
「隠さないで、言ってごらん」
フィアンが、ノワの背に手を回す。
爽やかな香りに、鼻の先がツンと痛んだ。
(この胸騒ぎは、なんなんだろう)
眩しい太陽の裏側に隠されたものが、怖い。
「フィアン様の事を·····」
漠然と、誰よりも信用していた。絶対に間違いはないと、信じて疑わなかった。
『信じろ』
血のように赤い瞳を思い出した。
『誰でもなく、お前を助けてやれる俺だけを』
寂しく冷たい夜の匂いと、白い月光。彼は、こちらを真っ直ぐに見つめていた。
あの時、フィアンの名前を紡ごうとした口は、強引に塞がれてしまった。
『どんなに待ったって、あいつは来ねえよ』
傷付けようとして口にした台詞に決まっている。
なのに、あの言葉が、妙に頭から離れない。
(なんで、またリダルを·····)
「ノワ」
フィアンに呼ばれ、思考から逸出する。
信じてもいいか、なんて、フィアン本人に聞いてしまうところだった。
「招待状は受け取ったか?」
現皇帝の即位50周年記念パーティーの招待の事だろう。
「はい·····」
他でもないフィアンからの招待だ。出席しない訳には行かない。
しかし、ノワは迷っていた。
「必ず来て欲しい」
窓際の観葉植物が、そよ風に揺れている。
「お前に話したいことがある」
フィアンは静かに告げた。
「話したい、こと·····?」
真摯な瞳に惹き付けられる。
拒むことなど不可能だ。気が付くと、頷いていた。
「───医務室に運ばれたと聞いて、見舞いに来たんだが」
不意に、もう一人の声が加わる。
ノワは扉の方を振り返った。
「邪魔してしまったかな?」
「ジェダイト様」
碧眼が優雅に微笑む。扉によりかかったユージーンが、ノワを確かめるように一瞥した。
「具合はどう?」
彼が自分の見舞いに来るなんて、どういう風の吹き回しだろう。
「もうすっかり·····」
近づいてきたユージーンが、腕を伸ばす。
ノワの頬に触れようとした手は、フィアンに掴まれた。
48
お気に入りに追加
5,000
あなたにおすすめの小説
悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
【完】悪女と呼ばれた悪役令息〜身代わりの花嫁〜
咲
BL
公爵家の長女、アイリス
国で一番と言われる第一王子の妻で、周りからは“悪女”と呼ばれている
それが「私」……いや、
それが今の「僕」
僕は10年前の事故で行方不明になった姉の代わりに、愛する人の元へ嫁ぐ
前世にプレイしていた乙女ゲームの世界のバグになった僕は、僕の2回目の人生を狂わせた実父である公爵へと復讐を決意する
復讐を遂げるまではなんとか男である事を隠して生き延び、そして、僕の死刑の時には公爵を道連れにする
そう思った矢先に、夫の弟である第二王子に正体がバレてしまい……⁉︎
切なく甘い新感覚転生BL!
下記の内容を含みます
・差別表現
・嘔吐
・座薬
・R-18❇︎
130話少し前のエリーサイド小説も投稿しています。(百合)
《イラスト》黒咲留時(@kurosaki_writer)
※流血表現、死ネタを含みます
※誤字脱字は教えて頂けると嬉しいです
※感想なども頂けると跳んで喜びます!
※恋愛描写は少なめですが、終盤に詰め込む予定です
※若干の百合要素を含みます
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる