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これは夢のお話
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「コンコン」
自分の部屋のドアからノックの音が聞こえる。 自分で開けたいところだが、体がうまいこと動かない。 どうやらまた熱がぶり返してきたようだ。
「ごめん・・・自分で開けにいけないから。」
そういうとドアは恐る恐ると言った具合に開けられる。 熱がひどいのか視界がボヤけて見える。 だが、この家にいる人間は母親しかいないだろう。 そう思ったので何も言わない。
ごとごとと音をたてている。 そして「シャリシャリ」という音が聞こえる。
おそらくリンゴかなにかの皮を包丁で剥いでいるのだろ。 そう思うとその音も不快にはならない。
少しした後にボヤけた視界で机の上を見ると、リンゴが食べやすい一口サイズでお皿の上に置かれていた。 なにか喋っているのは分かるが、なにを言っているのか、全く聞こえない。 だけどリンゴは食べたいのでとりあえず頷く。
「・・・まだ体を動かすのが辛いから、食べさせてくれない?」
こう言うときくらい甘えてもいいよね? そう考えるまもなく僕は口を大きく開ける。 口元にリンゴが当たったので、そのままリンゴを口の中で咀嚼する。 冷たいと言うことは分かるが、味までは判別できなかった。
そう思いながらまた横になる。 熱が上がったのか、また息苦しくなってくる。 ハァ、ハァ、と荒い息遣いになってくる。
するとおでこに急に冷たさがやってくる。 その気持ちよさに頬が緩くなっていた。 そういえばこうやって冷やしていなかったなと改めて思った。
そうしてもう一度目を開ける。 さっきよりも視界が晴れているので、僕のベッドに寄り添って座るその人物を見ることが出来た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・安見さん?」
そこで見えた人物は自分の母親ではなく、ここにはいないはずの安見さんだった。 なんでここに安見さんが・・・・・・?
・・・・・・あぁ、今僕は夢の中にいるのかもしれない。
ボヤけた視界と正常に動いていない脳を使って導き出した答えだった。 どうやら僕はまた眠ってしまっているようだ。
「・・・ふふっ、そうですよ。 あなたが見えているのは須今 安見です。 貴方が風邪を引いたと聞いたので、お見舞いに来ましたよ。 なにかしてほしい事があったら、出来る範囲でならやってあげますよ?」
あぁ、やっぱり夢なんだ。 そうだよね。 今は何時か知らないけれど僕の部屋に安見さんが来ているなんて事、有り得ないもんね。
・・・夢なら自分のやってほしいことをやってもらえるのかな?
決して邪な気持ちではないが、夢ならば覚める前に、と、考えてしまう。
「安見さんの手に、触れたいかな。 僕の手に・・・ほっぺにも触って欲しい・・・ 安見さんの手、冷たくて気持ち良さそうだし。」
ちょっとした欲望を口にしてみる。 安見さんが驚いた表情をしていた。 ははっ、さすがに夢でもそこはリアルなんだね。 安見さんらしいや。
働かない頭でそんなことを思っていると、不意に手に感触が伝わった。 どうやら安見さんが僕の手を握っているようだ。 そして安見さんは手を握るのを止めたかと思ったら、僕の方に近付いてきた。 僕と安見さんとの間は距離にして15センチ程だろうか。 とても綺麗な顔が僕のまだボヤけている視界に、しっかりと入ってくる。
それを認識したその瞬間、安見さんの滑らかな左手が僕の右頬に触れた。 とても冷たく、少ししっとりとしていた。 そんな安見さんの手が右頬から離れたと思ったら、
「ひぁ!」
首筋に強烈な冷たさが襲う。 安見さんの手が僕の首を触ったようで、変な声が出てしまった。
「まだ熱があるみたいですね。 タオルを変えましょうか。」
そう言って頭に乗っていたタオルを取って、水の入っている桶にタオルを入れる。
その姿は母親とは違う安心感を持てる。 彼女に任せていれば、それでいいと思えてしまう。 本来ならば自分自身でやらなければいけないのに、それを嫌な顔ひとつせずにやってくれる。
そんな安見さんの姿を見て・・・僕は・・・
「夢なら・・・いいかな?」
そうぼやいた。 これから僕の言う本・音・は、目の前の安見さんには届かないだろう。 だってこれは夢・な・の・だ・か・ら・。 いや、これは僕の中で、しっかりと自分の心と向き合ってから、本人に話したい。 だから、これから話すのはそんな想いの一欠片。 高ぶった感情の処・理・の・た・め・に・言う言葉なんだ。
「安見さん。」
名前を呼ばれて、安見さんがこちらを向く。 キョトンとしているその表情を見て、少しおかしくなる。 でも夢・だ・け・れ・ど・、彼女に伝えたい。
「僕は安見さんの事を、好きになったみたいなんだ。 友達としてじゃなくて1・人・の・女・の・子・と・し・て・。」
返事はない。 当然だよね。 これは夢なんだから。
「最初に会ったときはさ「こんなところでなんで寝てるんだろ?」って感じだったんだけど、安見さんとお話していく内に、「あ、安見さんといると、なんだかいい気分になれるな」って思えてきてさ。 あ、別に今の言葉に深い意味はないよ。 だから好きになったんだ。」
誰にも喋ったことの無いことを、ベラベラと喋りだす僕。 熱で頭がやられてしまったのかとも捉えられるかも知れないけれど、僕の秘めていた想いを吐けるのは、こういった夢の中でしか話せない。
「だけど、これを伝えるのは、まだ早いんだ。 僕の気持ちに、しっかりとした整理が出来ていないから。 その時が来たらちゃんと言うよ。 だから待ってて欲しい。 それだけが、僕の願い。」
そこで僕の話は終わる。 本当に僕はどうしてしまったのだろうか? 夢の中とはいえこんなに饒舌になるなんて。 やっぱりまだ風邪が治りきってないのだろうな。
そして安見さんは水に入れてあったタオルを絞って、僕のおでこに乗せる。 その心地よさに目を瞑る。
その際に頬になにか柔・ら・か・い・ものが当てられたが、それを見ることはなかった。
自分の部屋のドアからノックの音が聞こえる。 自分で開けたいところだが、体がうまいこと動かない。 どうやらまた熱がぶり返してきたようだ。
「ごめん・・・自分で開けにいけないから。」
そういうとドアは恐る恐ると言った具合に開けられる。 熱がひどいのか視界がボヤけて見える。 だが、この家にいる人間は母親しかいないだろう。 そう思ったので何も言わない。
ごとごとと音をたてている。 そして「シャリシャリ」という音が聞こえる。
おそらくリンゴかなにかの皮を包丁で剥いでいるのだろ。 そう思うとその音も不快にはならない。
少しした後にボヤけた視界で机の上を見ると、リンゴが食べやすい一口サイズでお皿の上に置かれていた。 なにか喋っているのは分かるが、なにを言っているのか、全く聞こえない。 だけどリンゴは食べたいのでとりあえず頷く。
「・・・まだ体を動かすのが辛いから、食べさせてくれない?」
こう言うときくらい甘えてもいいよね? そう考えるまもなく僕は口を大きく開ける。 口元にリンゴが当たったので、そのままリンゴを口の中で咀嚼する。 冷たいと言うことは分かるが、味までは判別できなかった。
そう思いながらまた横になる。 熱が上がったのか、また息苦しくなってくる。 ハァ、ハァ、と荒い息遣いになってくる。
するとおでこに急に冷たさがやってくる。 その気持ちよさに頬が緩くなっていた。 そういえばこうやって冷やしていなかったなと改めて思った。
そうしてもう一度目を開ける。 さっきよりも視界が晴れているので、僕のベッドに寄り添って座るその人物を見ることが出来た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・安見さん?」
そこで見えた人物は自分の母親ではなく、ここにはいないはずの安見さんだった。 なんでここに安見さんが・・・・・・?
・・・・・・あぁ、今僕は夢の中にいるのかもしれない。
ボヤけた視界と正常に動いていない脳を使って導き出した答えだった。 どうやら僕はまた眠ってしまっているようだ。
「・・・ふふっ、そうですよ。 あなたが見えているのは須今 安見です。 貴方が風邪を引いたと聞いたので、お見舞いに来ましたよ。 なにかしてほしい事があったら、出来る範囲でならやってあげますよ?」
あぁ、やっぱり夢なんだ。 そうだよね。 今は何時か知らないけれど僕の部屋に安見さんが来ているなんて事、有り得ないもんね。
・・・夢なら自分のやってほしいことをやってもらえるのかな?
決して邪な気持ちではないが、夢ならば覚める前に、と、考えてしまう。
「安見さんの手に、触れたいかな。 僕の手に・・・ほっぺにも触って欲しい・・・ 安見さんの手、冷たくて気持ち良さそうだし。」
ちょっとした欲望を口にしてみる。 安見さんが驚いた表情をしていた。 ははっ、さすがに夢でもそこはリアルなんだね。 安見さんらしいや。
働かない頭でそんなことを思っていると、不意に手に感触が伝わった。 どうやら安見さんが僕の手を握っているようだ。 そして安見さんは手を握るのを止めたかと思ったら、僕の方に近付いてきた。 僕と安見さんとの間は距離にして15センチ程だろうか。 とても綺麗な顔が僕のまだボヤけている視界に、しっかりと入ってくる。
それを認識したその瞬間、安見さんの滑らかな左手が僕の右頬に触れた。 とても冷たく、少ししっとりとしていた。 そんな安見さんの手が右頬から離れたと思ったら、
「ひぁ!」
首筋に強烈な冷たさが襲う。 安見さんの手が僕の首を触ったようで、変な声が出てしまった。
「まだ熱があるみたいですね。 タオルを変えましょうか。」
そう言って頭に乗っていたタオルを取って、水の入っている桶にタオルを入れる。
その姿は母親とは違う安心感を持てる。 彼女に任せていれば、それでいいと思えてしまう。 本来ならば自分自身でやらなければいけないのに、それを嫌な顔ひとつせずにやってくれる。
そんな安見さんの姿を見て・・・僕は・・・
「夢なら・・・いいかな?」
そうぼやいた。 これから僕の言う本・音・は、目の前の安見さんには届かないだろう。 だってこれは夢・な・の・だ・か・ら・。 いや、これは僕の中で、しっかりと自分の心と向き合ってから、本人に話したい。 だから、これから話すのはそんな想いの一欠片。 高ぶった感情の処・理・の・た・め・に・言う言葉なんだ。
「安見さん。」
名前を呼ばれて、安見さんがこちらを向く。 キョトンとしているその表情を見て、少しおかしくなる。 でも夢・だ・け・れ・ど・、彼女に伝えたい。
「僕は安見さんの事を、好きになったみたいなんだ。 友達としてじゃなくて1・人・の・女・の・子・と・し・て・。」
返事はない。 当然だよね。 これは夢なんだから。
「最初に会ったときはさ「こんなところでなんで寝てるんだろ?」って感じだったんだけど、安見さんとお話していく内に、「あ、安見さんといると、なんだかいい気分になれるな」って思えてきてさ。 あ、別に今の言葉に深い意味はないよ。 だから好きになったんだ。」
誰にも喋ったことの無いことを、ベラベラと喋りだす僕。 熱で頭がやられてしまったのかとも捉えられるかも知れないけれど、僕の秘めていた想いを吐けるのは、こういった夢の中でしか話せない。
「だけど、これを伝えるのは、まだ早いんだ。 僕の気持ちに、しっかりとした整理が出来ていないから。 その時が来たらちゃんと言うよ。 だから待ってて欲しい。 それだけが、僕の願い。」
そこで僕の話は終わる。 本当に僕はどうしてしまったのだろうか? 夢の中とはいえこんなに饒舌になるなんて。 やっぱりまだ風邪が治りきってないのだろうな。
そして安見さんは水に入れてあったタオルを絞って、僕のおでこに乗せる。 その心地よさに目を瞑る。
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