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お昼時から夕方へ

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「待って、説明させて。 別に僕は見せつけるためにこんなことをしているわけじゃなくてね?」

「ふふっ、別に怒っている訳ではないのですよ? ちょっと行動が大胆だなって思っただけですので。」


 音理亜さん。 それなんのフォローにもなってません。 にこやかに笑っているのはいいのだが、はっきりとしたことが全く分からない。


「もう、お姉もせっかくの遊園地なのに、寝ちゃってさ。」

「あー、それ僕のせいかもしれないんだよね。」

「ん? どゆこと?」


 味柑ちゃんの疑問に対して答えようとしたが、まずは聞きたいことがあったのでそこから聞いていこう。


「安見さんってもしかして絶頂系がダメだったりします?」

「いいえ。 そんなことはないわ。 ああでも、ジェットコースターの始まる登りの時は目を瞑っちゃうの。 そこも兼ねてのジェットコースターなのに、って思うんだけれど。」


 音理亜さんの証言で、仮定が更に確信に近付いた。 というかこれしかもはや残されていない。


「安見さんってもしかして高所恐怖症なのですか?」

「ええ、そうね。 確かに安見は高いところにいくと気分が悪くなるって言ってたわ。」


 なるほど、だから空中ブランコに乗るときあんなに渋っていたのか。


「ああ、でも安見の場合は少し症状が軽かったりするのですよ。」

「? 症状が軽いってどういうことですか?」

「お姉、私達が乗ったフリーフォールみたいな奴はダメなのに、高層ビルとか、建物の中から見る高さは平気なの。 おかしいと思わない?」


 フリーフォールがダメで高層ビルなら大丈夫? その意味が分からなかったが、二つの特徴を思い出したときに、ある結論に辿り着いた。


「・・・もしかして、遮蔽物か遠くが見えないようなものがある高さなら平気、って事なのかな?」

「正確には違うらしいのですが、概ねあっています。」


 だからあの時内側に行きたがってたのか。 僕という遮蔽物で少しでも軽減しようと・・・・・・そう思っていたら味柑ちゃんがスマホを構えているのに気が付いた。


「ねぇ味柑ちゃん。 なにをしているのかな?」

「ああ、ダメだよお兄さん。 それじゃあお姉が起きちゃう。 ほら、さっきみたいに頭を撫でてて。」


 それよりもなんでスマホを向けているのか聞きたかったが、変に安見さんを起こすわけにもいかないので、先程と同じように安見さんの頭を優しく撫でる。 その心地よさに、僕も少し頬が緩む。 するとその時に「パシャ」という音がした。 やっぱりカメラを構えていたのだと思って味柑ちゃんを睨むと、味柑ちゃんは詫びれる事なく、むしろイタズラっぽく舌を出したのだった。 こ、この小悪魔ちゃんが・・・・・・!


 大人組の母さん達も合流して、音理亜さんや味柑ちゃんと同じ様に、僕の今の状況に暖かい目を向けるのだった。 勘弁してください。



「ん・・・・・・あれ・・・?」


 頭を起こして、眠気眼を擦りながら、状況を確認する安見さん。


「おはよう安見さん。 気分はどう?」

「館君・・・? ああ、そうでした。 私あの後眠ってしまっていたのですね。 もしかしてずっと付き添っていてくれたのですか?」

「うん。 一人にするわけにはいかないからね。」


 本当は安見さんを膝枕していて動けなかっただけなんだけど、別にそこまで言うことはないだろうなって思って敢えて安見さんの話に合わせた。


「あ、そうそう。 母さん達が安見さんが起きたら渡してあげてって。 お昼から寝てたからお腹すいているんじゃないかって」

「そうだったのですか。 でも私今はそんなに」


 くくぅぅ・・・


「空いてるよね?」

「・・・・・・はい。」


 起きて早々にお腹の音がなってしまったことを恥ずかしがるように真っ赤になる安見さん。 それを見て、少しほんわかした表情で見ながらバケットサンドを渡す。 起き抜けのお腹に優しい、野菜たっぷりのサンドだ。


 僕の手からそのバケットサンドを受け取って、モソモソと食べ始める。 もちろんそれだけでは喉が渇くので、僕はもうひとつ、セットで買ってきてくれたオレンジジュースの入った蓋付きのコップも渡す。 僕はもう食べてしまったので、同じ様に炭酸飲料を飲む。


「館君は、どこにも行かなかったのですか?」

「まあ、行こうと思えば行けたけれどね。」


 母さん達に交代を促したが、膝枕の状態だということで、完全に僕がいることになってしまった。 なので、アトラクションにまともに乗れていないのは事実だ。


「それは申し訳無いことをしました。 折角の家族団欒での遊園地を無駄にするようなことをしてしまって。」

「そんなこと気にしてないって。 それにもう夕方だし、今さら何かに乗りたいとは思ってないしさ。」


 そう、安見さんが起きたのは、空の色が茜色に染まっていた時間なのだ。 つまりかれこれ2~3時間は眠っていたことになる。


「そ、それは・・・・・・それでは私の気がすみません! なにか乗りたいものはないのですか!? 今ならまだ間に合いますよ!」

「そうは言ってもなぁ・・・・・・」


 そもそもが朝のうちに回ったアトラクションで大体満足しているので、これ以上乗りたいものと言われても、なにもないというしかないのだ。 母さんや音理亜さんたちのおかげで、大体のアトラクションは回れてるって言ってたし。


「な、なら私に出来ることはありませんか!? 出来ることならして差し上げます!」

「ほほぅ、言ったね? お姉。」

 声の方を見ると、いつの間にか戻ってきていた味柑ちゃんがいた。

「み、味柑!? いや、今のは言葉のあやというかなんというか・・・・・・」

「残念だけどお姉。 言質を取ったのは私の耳だけじゃないんだな。 これが。」


 そう言う味柑ちゃんの後方を見ると、全員集合状態だった。 さっき戻ってきたのだろうか? 本当はどこかで見てたんじゃないの?


「安心しなさいな安見。 変なことは命令しないわ。」


 そうは言っている天祭さんは、どこか楽しそうなものを見つけたような表情をしていた。


「時間も時間だし。 最後はあれに乗って飾ろうと思ってたのよ。」


 そう言って指差された方を見るとそこにあったのは・・・・・・


「「観覧車?」」


 僕と安見さんの疑問が被った瞬間だった。

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