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両親

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「ただいま。」


 みんなとのデパート巡りも終わり、散々歩き回って疲れきったそんな声をリビングに響かせる。


「お帰り光輝。 なんだか随分と疲れているようだね。」


 食卓の椅子から聞こえてきたのはそんな男の人の声。 僕はこの声を知っている。 芝生頭で少し垂れ目をしている少しだけ肉付きが良い男性。 なにを隠そう、僕の父親であるからだ。


「うん。 友達といろんな所を歩いたからね。 それよりも父さんも帰ってきてたんだね。」

「父さんはこの時期には帰ってくることは知っているだろう? とはいっても単身赴任も残り僅かなんだけどね。」


 父の仕事は拠点が点々とあり、それに合わせて人事異動もある。 今回は父だったが、また別の人が拠点を変わっていくというシステムだ。 残り僅かという事はしばらくはこちらに戻ってくると言うことだ。


「そうなんだ。 じゃあしばらくは家に帰ってくるってことだよね?」

「光輝ともあまり遊ぶ機会が無いからね。 こういうときくらいは家族水入らずで話し合いたいじゃないか。」

「普通ゆっくり過ごしたいとかじゃないの?」

「父さんは光輝と陽子さんと一緒に過ごしたいという想いの方が大きいよ。」

「やだわぁ昇さん。 今日はしっかりと過ごしたじゃない。」


 そう言ってキッチンから唐揚げのお皿をもって現れた母さんが、笑いながらそう言う。


 ちなみに母さんの名前が「館 陽子たち ようこ」、父さんが「館 昇たち のぼる」である。


「陽子さん。 確かに陽子さんとは過ごせましたよ。 でも僕は光輝とはまだ過ごしていないよ。」

「明日からいくらでも過ごせばいいじゃない。 光輝だって今日は友達と遊んできたんだから疲れてるだろうし。」


 母さんはそう言ってキッチンに戻る。 先に持ってきていた唐揚げの匂いに誘われつつも、すべて揃うまでは食べないようにしている。


「それにしても高校に入って、しっかりと友人と遊べるのは良いことだよ。 部活やら勉強やらで忙しくなるかもしれないけれど、友人と支え合えば、それも乗りきれるさ。」

「それに恋もね。」


 両親からそんなアドバイスをくれる。 父さんの性格は温厚で寛容性が高い、母さんは根はしっかりとしているが、イタズラ心があるといった感じだ。 多分母さんのイタズラも父さんの寛容性の前では無力だったのだろう。 それが2人を引き寄せたのかもしれないと、昔ひょんなことから聞いた2人の馴れ初めの話を聞いて思った。


「恋・・・か。 そういえば母さんから聞いたが、ガールフレンドが出来たそうじゃないか。」

「母さん。 須今さんはガールフレンドじゃないって。 なにを勘違いを加速させるような事言ってるのさ?」

「いいじゃないの。 あなたから女の子の話が出てくるなんて、母さんとしては嬉しいのよ?」


 お盆に白米と味噌汁の入った食器を持ってきながらそう返す母さん。 嬉しいのは分かるかもしれないが、それのせいで勘違いを加速させないで欲しいのだが。


「うんうん。ちゃんと青春をしているようで、父さんとしても安心だよ。 光輝は中学の時はあまり他の子達と一緒にいるのを見たことがないからね。」

「そんなのたまたまでしょ? 中学の時だって友達はいたし。」

「でもそんな友達とも離れ離れになってもあんまり寂しそうにはしてなかったわよね?」

「みんな進路があるんだよ。 そんなことで寂しがってちゃ、きりがないよ。」


 ご飯を咀嚼しながらそう素っ気なく答える。 僕の中学の時の友好関係は広く浅くが多かったためつるんで遊ぶ、みたいなことはしてこなかった。 とはいえ友達が本当にいなかった訳ではないので、複雑ではある。


「ふふ、やっぱり須今さんのおかげかしらね?」

「え?」

「高校に入ってからあなた、随分と明るくなったんだもの。」

「元々暗い性格ではなかったが、どこか一線を離れようとしていたからね。 すこしづつでも変わってくれるなら、それでもいいと思うね。 僕たちは。」


 さすがは両親。 子供の事は良く見ている。 しかしそんなに暗かったかな?


「でも女の子の友達はいるのは男子からでは見れない視点を提供してくれるから、少なからず利益にはなるよ。」

「損得勘定で友人を見たくないんだけど。」

「今のは言い過ぎたが、持っておいて損はないってことだよ。 ガールフレンドがいるなら、尚更ね。」

「本当に信じたの? 父さんそう言うところは甘いよね。」


 子供の頃から見てきたが、どうも父さんは母さんに甘いところがある。 厳しく接しろとは言わないものの、多少なりとも疑ってかかった方がいいのではないかと思う。


 ご飯を食べ終えて、リビングでゆったりしていると、父さんが僕の方へと来た。


「この後2日は予定が無いんだろ? 少し遠出をしてみないか?」

「遠出って・・・どこにいくのさ?」

「そうだなぁ。 遊園地なんてどうだ? 小さい頃にあまり行かせてやれなかったからな。」


 僕は少し考える。 確かに子供の頃から父さんは今の仕事をしていて、なかなか連れていってもらえなかった。 母さんは連れていってくれた事もあったが、そんなに楽しいとも思えなかった記憶がある。 この歳になって家族で遊園地? とも思ったが、せっかく父さんが連れていってくれると言ったので、簡単には無下には出来ない。


「僕は構わないよ。 それでいい。」

「よし。 では決まりだ。 明日の夕方から出発するとしよう。」

「え? 泊まりでいくの?」

「不満か?」

「いや、そう言うことじゃなくて・・・まあいいか。」


 ゴールデンウィーク最後の目的地は遊園地。 確かに華やかしい最終日となることだろう。


 だけどこのときの僕は、こんな形で父さんの知られざる関係があることを知ることはまず無かった。

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