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球技大会2日目

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「いっ・・・・・・たたたっ・・・・・・」


 球技大会の二日目、昨日のダイビングキャッチで負傷した腕を擦りながら座っていた。


 骨こそ折れてはいないが、あまりにも強くぶったようで、1日経った今でもズキズキ痛む。 おかげさまで昨日は帰ってからご飯の時や、合間を見て作っている縫い物を作る時も肘のせいでまともに出来なかった。 特にお風呂の時は痛みとお湯が傷口に染み込むのダブルパンチで家の中で悲鳴をあげながら入ったものだ。


「おいおい、そんな腕で参加するのか?」


 あまりにも苦悶の表情をしていたのだろう。 心配になって小舞君が見に来たようだ。


「最悪早々に当たって外野に出るよ。 迷惑はかけられないから。」

「それはいいんだけどよぉ。 別にそこまでする必要もないんじゃないか? 球技大会とはいえ気合い入りすぎだぜ。 昨日のあれといい。」

「あれは取れるボールだと思ってたんだけど、正面まで回ることが出来なかったから仕方なく、ね。」

「仕方なくで自分の体痛め付けんじゃねぇっての。 全く、あまり無茶だけはするなよ。 同じことをしたら本当に腕が使い物にならなくなるぞ?」


 それは確かに困る。 今日は自分を守るために動こう。 まだ使い物にならないわけではないが、酷使だけはしないように考えよう。


 まぁ、そんなことがうまくいく筈もなく・・・ 結局すぐにボールを取れる体勢になってしまう。 そのおかげで狙われにくくなるのは確かなのだが・・・ 肘を曲げるように構えてしまうため多少たりとも痛みは感じる。 そしてなによりボールを持とうとすると、腕にくる衝撃のせいで痛みが増すのだ。 1試合目はなんとか持ちこたえて勝利を取ったが、次からは観戦していたクラスとの対戦となる。 明らかに狙われる確率が高くなる。 せめて自分達が休憩に入っている間に少しでも回復に専念しなければ。


 そんなことをしても結果的には変わらないが、気分だけでも痛みを引かせたいのだ。


「ふぅ・・・・・・」


 僕らのクラスの次の試合は今目の前で行われている試合の後すぐに始まる。 あまり休めないけれど、脱力は大事だと思う。 なにもせずにただただ体をだらけさせるのも、悪くはない。


「次の試合は2組対4組。 コートに集まってください。」


 そして次の試合の合図をされて、みんなゾロゾロとコートに入る。 そして試合が始まって敵チームからのボールに備えて後ろ歩きしていると、後ろで何かにぶつかった。 振り返ると円藤さんがそこにいた。 どうやら後方を注意せずに歩いていた為、円藤さんに当たってしまったようだ。


「ごめん、円藤さん。」

「だ、大丈夫、です。」


 少し距離を置くために前に行こうとしたら、裾を捕まれたようで服が引っ張られてグッとなってしまう。 また後ろを見ると、そこには僕の服の裾を持った円藤さんの姿があった。 そんな彼女は目を瞑りながら横を向いてしまっている。


「え? あ!?」


 ボールが投げられたことに咄嗟に反応できずに、何てことのないボールで当たってしまい、そのまま外野に来てしまった。


 なんだかんだ試合には勝てて、これで2組の優勝は濃厚となっていたが、僕自身はぼんやりと考えていた。 なんであの場面で円藤さんは裾を握ってきたのだろうか? あれでは動きにくいことは承知のはずだったのに、だ。


「えっと・・・館さん。」


 そんな風に虚空を見上げていたら、お声がかかった。 見ると目の前に円藤さんが申し訳なさそうに立っていた。


「円藤さん。 どうしたの?」


 目の前の彼女はモジモジとしていて、言うか言わないかという自問自答に苛まれていたが、やがて決心がついたのか目を見開いてそして


「さっきはごめんなさい!」


 そう頭を下げてきた。 どうやら先程の僕の当たりは自分のせいだと思っているようだ。


「さっきのことなら気にしてないよ。 だけど、どうしてあんなことをしたのかだけは聞いてもいいかな?」

「えっとその、き、昨日、私が当たったボールを、体を張って取ってくれて、それで、館さんに守ってもらおうと、どこかで思っちゃって。 だけど昨日の事で怪我してるのに、そんなことしていいのかって、思って。 でも、手が動いちゃって、それで・・・・・・」


 そこからはどう言葉を出そうか必死になっている彼女の姿を見て僕は、


「大丈夫だよ。 それぐらいで怒ったりなんかしないよ。」

「でも・・・・・・」

「昨日のは僕が取れるかなって思ったから取った。 そう思っておいて。」

「・・・・・・本当に、ごめんなさい。」

「もう謝らないで。 ほら、試合までには気分を取り戻さなきゃ。 スマイルスマイル。 頑張って優勝しよ?」

「・・・! はい!」


 その一声で円藤さんは笑顔を取り戻してくれたようだ。 その笑顔はまさしくマドンナと言われてもおかしくはなかった。


 そこからの試合は、安見さんや矢藤君、濱井さんに小舞君と次々にボールを当てにいくメンバーの他に、坂内君や江ノ島さんを含めて、敵のボールに当たらないようにみんな必死に頑張っていた。 そして僕らのクラスの最後の試合の終了を告げるホイッスルが鳴り、僕たちのクラスは勝利。 そして戦績は9勝5敗。 そしてこの時点で僕らのクラスの優勝は決まった。


 その瞬間、みんな大喜びになっていた。 当然僕も喜んだし、あまり喜ばなさそうな安見さんも今回ばかりは笑顔を見せていた。


「やったね安見さん。 僕らのクラスの優勝だよ。」

「はい。 皆さんの団結の力が深まりましたかね?」

「そうかもね。 それはそうと、今はまだ大丈夫そう?」

「正直なことを言えば今すぐに寝てしまいそうです。」


 やっぱり普段と変わらない安見さんをクスリと笑いながらも


「表彰式が終わるまでは耐えてくれないかな? 明日は休日だからもう少し頑張って。」

「うぅ、いっぱい動いたのと、自分に似つかわしくないテンションになったことへの反動から、半分限界が近いのです。」


 これは表彰式が始まる前に寝てるな。 そんな油断も隙もないような少女を、喜びと共に見守っていたのだった。

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