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旅の終わり?

くだら、おっと誰か来たようだ

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 ニポニテを出て、快適な空の旅をしてかなり時間を短縮させた私達は、予定よりも3ヶ月早く森に1番近い国へ辿り着いた。

 母国を旅立ってから9ヶ月ほど経っていた。月日が経つのは早いものだ。

 さっさと呪いを解いてもらおうっとルンルンで入国審査を受けようと国境にやってきたのだが…。


「現在、国民証明がない場合は入国できません」

「え、ええ??」

「申し訳ございません」

 森に1番近い国は現在4つある。

 そのうち私達が進んでいた方向にあった森に1番近い国、イズルンティア帝国に入国しようと国境にやってきたが入国審査が通らなかった。

 国民資格とはなんぞや!?旅人には絶対ないものではないか。入国審査をしている受付のお兄さんに問いただしたところで、ないものはない。

 正直、立ち寄らないなら他の国同様、空を飛んで入国審査なんて飛ばしてもいいのだ。ただ、森に入るためには最寄りの国に一旦入国する必要がある。なぜなら入口がこの国境地帯の反対側にあるはずだからだ。

 私は困った時の印籠、守り手の証を見せるためにベーッと舌を出した。

「なんですか?」

 いきなり舌を出した私を不快そうな顔で見ているお兄さん。口を閉じて説明してもいいが、ちょっとそれもめんどくさい。私は舌を見るように指で指した。

「ん!(これ!)」

 舌に模様が描かれていることに気がついた担当のお兄さんはハッとした顔になるとすぐに青白くなった。そして、ダラダラと冷や汗をかき始めるとガタッと音をたてて立ち上がった。

「し、し、しばらく。お待ち、お待ちください!!!」

 そして彼は慌てて部屋を飛び出して受付から消えてしまった。それを見た肩乗りベルナールはくすくすと笑った。

『守り手の入国を拒否することは難しいでしょうね』

「だよね。でもなんで入国に規制かけてるんだろう」

「犯罪者でも逃げたんじゃねーの」

 認識阻害の布を巻いて人型で私の隣に立っていたケイレブはクンクンッと鼻を動かしながら話すと、ウッと嫌そうな顔になった。

「でも、なんか…。ここ、臭いな」

「え?また?ゴブ再来はちょっと嫌なんだけど」

「いや、そういう意味じゃなくて。焦げ臭いというか、血の匂いがするというか…」

「……ええ……」

 ヒソヒソ話を変なカラスとしている私の様子を見て、入国審査のために列に並んでいた人々は徐々に私の列から離れて別の列へと移動を始めた。

 変な人だと思われることに慣れきっていた私達は、彼らもきっと変なやつだと思って自分達から離れたのだろうと、この時は思っていた。

 ーーーー

 受付のお兄さんが戻ってきて、私達は別室に案内された。そこはベットとシャワー、トイレが備えつけられた簡易宿泊部屋のようで、担当者が来るまでここで待機するように言われた。

 入国するためには仕方ない。私達は2日間その部屋で担当者が来るのを待った。ケイレブは寝る時だけ狼に戻りケージポーチの中に入ってもらった。ベルナールはポーチの取手を宿木にして眠った。私?もちろん1人でベットを使いました!

 ご飯は支給されるし、支給されても足りない食料は収納にある食べ物で賄った。また、頼めばお茶やお菓子ももらえたため、滞在中特に不便はなかった。

 待機して2日目の昼頃。担当者が到着した旨を聞き、私達はやっとかーという顔で椅子に座って待っていると汗だくで、ずんぐりむっくり、頭のてっぺんが薄く、体調の悪そうなハゲおじさんが部屋にやってきた。

「本当に、貴方は次代の守り手様なのか?」

 そして、彼が着席早々にした質問がコレだった。身なりはいいようだが、とても失礼だ。

 私は不快そうな顔をしながら首を傾げて質問に答えた。

「体のどこかに模様がでる。それが守り手の証でなければなんだというのですか?ワザと、しかも舌に模様を施したとでも??」

「い、いや。そうではないのだ…。しかし、選ばれる守り手は1人だけのはず…。そうだろう?」

「いや、そんなことを私に聞かれても…」

 現に私達は2人セットで選ばれている。だが、ケイレブを紹介するのもややこしい。

 目の前のハゲおじさんはとても困ったような顔をしていた。そして、ポツリと呟いた。

「やはり姫様は…」

「え?」

「あっ、いや……その。……そうだな。説明しても問題はないか」

 私が首を傾げて質問をすれば、ハゲおじさんは濁したような返答をした。が、すぐに思い直して現在の状況を語り始めた。


 ハゲおじさんの説明は以下の通りだ。


 まず、この顔色の悪いハゲおじさんはこの帝国の宰相。ジョン・ホープ伯爵。つまりお貴族様だ。心の中でハゲおじさん呼びして失礼な事をしたが、口に出してはいないためセーフだ。

 彼は守り手を名乗る私達が国境に着いたと報告を受けてすぐにお城を出て、早馬を走らせてやってきたそうだ。ずんぐりむっくりのくせに馬に乗るとは、ちょっとすごい。汗だくなのもいたしかたない。臭いが許した。

 ハゲおじさんこと、ホープ伯爵曰く。森に近い4ヶ国のうち、この国から見て右隣にあたるミャティ国と現在ちょっとした争いをしているらしい。

 その火種がこの国の第3皇女キャスリーン・オブ・イズルンティアなのだそうだ。

 彼女は皇女でありながら剣術にたけ、成人前からこの国の国防を担う立場だった。現在20歳。そろそろ婚姻を結ばせようと皇帝陛下と臣下達は皇女殿下の嫁ぎ先を探した。

 が、帝国内では彼女が提示した結婚する条件である【己よりも強い相手】がいなかった。国内の剣術大会で毎年優勝している皇女を負かすことができる人物がいない時点で明らかだったそうだ。

 そのため、国の重鎮達は他国へ目を向けた。同盟を強固にするのもいいだろうと、まずは同盟国へ話を持ちかけたのだ。

 その中に今回争っているミャティ国が含まれていた。

 同盟国と絆を深める大会と称して、皇女殿下の嫁ぎ先を決める剣術大会を開催。

 そこで、初めて皇女殿下を破った人物が現れた。

 それがミャティ国の王太子殿下だった。

 イズルンティア側はそれはもう喜んだ。遠くに嫁がせるよりも近くに嫁がせた方がいいからだ。

 だが、ミャティ国側からしたら問題しかなかった。

 何故なら王太子殿下はすでに婚姻をしていたからだ。彼らは幼い頃から婚約者として付き合い愛を育み、結婚していた。

 しかも2人の間には子供が1人いた。

 ミャティ国としては側妃であればすぐに受け入れると返事をしたが、イズルンティア側はそれを拒否。特に皇帝陛下の《国防を担う姫を外に出したくない気持ち》が強くなり、ただでさえ強い娘をやるならば将来は王妃になるべきだと譲らなかった。

 しかも、今の正妃を側妃にしたら良いじゃないかと言い出したらしい。

 また、皇帝陛下はミャティ側に〈皇女に勝つ可能性がある男で、既婚者を連れてきたのが悪い〉と難癖をつけ始めた。

 が、ミャティ側はそこには激怒。イズルンティア側からの招待には〈同盟国の友好を保つため、お互いに強い戦士を競わせ祭りを催そう〉という内容しか書かれていなかったため、国内の実力者を揃えて参加しただけなのだ。既婚者はダメだなんて記載はなかった。

 お互いにメラメラと火花を散らし、いつ何が起きてもわからない。そんな状況の時にキャスリーン皇女殿下が消えた。

 しかも【守り手に選ばれました。私は森と結婚いたします】と書き置きを残して…。

 これに皇帝陛下はかなり驚いた。なぜなら、皇女殿下も彼方の王太子殿下を見て「いい」と言って夢中になっていたはずだからだ。

 また、消えた当日も彼女の体に模様らしきものは確認できなかったと専属侍女が証言したらしい。

 次代の守り手を偽って、ミャティ国が皇女殿下を攫ったのではないか!?

 と、考えた皇帝陛下はついに彼方に宣戦布告をしてしまった。

 あちらもあちらで、いちゃもんをつけられて頭に来ていた所に冤罪をかけられて領土を攻め込まれれば刃を向けない理由はない。

 こうして、彼らは約5ヶ月ほど前からドンパチをしているそうだ。


 私は話をあきれた顔で聞いていたのだろう。ホープ伯爵はやつれた顔で微笑んだ。

「君が思ってることは、なんとなくわかるよ。でも、その言葉は今は言わないように。不敬罪で捕らえたくはないからね」

「は、はい」

 ちょっと皇帝さんやばいのでは?という言葉をぐっと飲み込んで頷けば、ホープ伯爵はため息をついた。

「入出国を規制しているのは行商人と偽って敵国の間者が入り込む可能性があるからなんだ。しかし、本来の守り手が見つかったとなれば…」

「…皇帝がさらに相手への不信感を高めて攻撃…」

「するかもしれないなー」

 ははははっと乾いた笑いをするホープ伯爵は自身のハゲ山を撫でた。触るたびに細い毛が抜けている様子から、ハゲ山の領土が拡大しているようだ。

(ストレスかなぁ。元々ハゲてたんだろうけど、進んじゃってるのは多分ストレスだよなー)

 哀れみの目を向けてホープ伯爵をみていれば、彼は再びため息をついた。

「申し訳ない。君をこの国から森へ送り出すのは難しい」

「…入国できないなら仕方ないですね…」

「遠回りになるが、残り2カ国であるエリアノ王国又はリンドムン国。どちらかを経由した方が安全だろう。ミャティ国も今は警戒している状況だからね」

「そうですね…」

 エリアノ王国は現在いるイズルンティア国の左隣だ。リンドムン国はその隣。つまり、ミャティ国のお隣さんだ。

「ちなみに、皇女殿下が守り手に選ばれたことを近隣の国は…」

「……我が国から公式発表はしていない。が、伝わっている可能性は高いだろうね。何故なら争いが始まってすぐに出国した商人は多い。話を広めているだろう」

「ってなると、他国の入国審査で旅人として入るのは厳しくないですか?」

「……そうだね。いつ争いに巻き込まれるかわからないと警戒している可能性は……ある」

「ですよねー」

 私の質問に答えたホープ伯爵はまた大きなため息をついた。

「王太子殿下よりも強い男がいれば良かったのだがな…」

「…王太子殿下より…」

「それが独身ならさらに良い。もし、本当に姫様が守り手であるならば婚姻は難しいだろう。が、争いの元になった〈姫よりも強い男で婚姻の資格がある〉男になったミャティ王太子殿下からすると、天の助けになるだろうね。婚姻する理由がなくなるのだから…」

「王太子殿下より強い相手が出てきたとして、ここの皇帝陛下は溜飲をさげますかね…」

「わからん。だが、姫様を嫁がせる相手としての執着はなくなるだろうね。何がなんでも嫁がせてやる!という執着は…」

「なるほど…」

 ホープ伯爵と言葉を交わしながら、肩にとまっているベルナールに目線を向けると彼は目を瞑って首を横に振った。

 次に認識阻害の布をつけた人型のケイレブに目線を向ける。彼は壁にもたれてウトウトとしていた。

 ベルナールにもう一度目線を向けると、彼は私の考えを感じ取ったのかしばらく考えた後に、ウンウンッと小さく頷いた。

「わかりました。遠回りするのも面倒なので、森に入る前にここの争いを鎮めてから行くとします」

「えっ!?」

 私の言葉にホープ伯爵はびっくりした顔になった。私はそんな彼を見てニヤッと笑った。

「王太子殿下より強ければいいんですよね?」

「あ、ああ」

「オスなら良いんですもんね?」

「そ、そうだな」

 ホープ伯爵は私の圧のある笑顔を見つめ、乾いた笑いをしながらウンウンと頷く。私は更に笑みを深めた。

「伯爵様。皇帝陛下にあわせてください。私がこの問題をまるっと解決いたしましょう」

「……え、え……え??」

 この子本当にいい策あるの?大丈夫?っと不安そうな顔になったホープ伯爵は数分ヴーンっと唸りながら考えたのち、仕方ないっといった顔で頷いた。

「わかった。ただ、どうなるか私にもわからない。最悪の場合は国を飛び出して森に逃げてくれ」

「わかりました」

 無事に入国審査が通った私は勿論だと微笑みながら頷いた。

「ちなみに、皇帝陛下って何に弱いんですか?」

「お主、何を言うかと思えば…」

 呆れたような顔でホープ伯爵はため息をついた。

「敢えて言うならば、お主のあるがままだろうな」

 ハッと鼻を鳴らして何かを小馬鹿にするような態度になったホープ伯爵は椅子から立ち上がった。

「馬車の準備が出来次第、首都に向かう。頼んだぞ」

「はい!」

 ホープ伯爵の言葉の意味はよくわからない。が、後でベルナールに相談すればいいだろう。

 そんなことを思いながら部屋から出てゆくずんぐりむっくりの背中を見送った。
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