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まだ旅は途中

ギャオオオオン!

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「いーやぁぁぁぁあ!!」 

「ガウッ(オラァッ)」

『ふふふ。なかなか切れ味の良い剣ですね』

 只今、魔道具〈盾ソルくん〉を持って悲鳴を上げている私。久しぶりの魔獣狩りだと張り切って(?)自慢の爪を使うケイレブ。ニコニコの微笑みのまま踊るように剣を振るっているベルナール(人型)が迫り来るゴブリンのような魔獣と対峙中です。

 はい、交戦中ですっ!

「ちょ、血が飛んできてる!」

「ガウッ(濡れてないならいいだろ)」

「よくないよくない!盾ソルくんに血溜まり付くの嫌だぁぁ」

 魔獣(ゴブ野郎)は草むらから飛び出して全方向からやってきている。キィキキキとか変な声を出し涎を垂らして飛び出してくるのだ。臭い、そして臭い。

 もう本当全方向はやめてほしい。私の討伐必須アイテム〈盾ソルくん〉は全方向防御には弱いのだ。何故かって?それは前世の世界にある傘をイメージしてもらえれば分かるでしょう!

 ちなみに盾ソルくんは雨傘、日傘としても使えモードの切り替えで傘の色や素材が変わるのだ。まあ、これも私が作ったらなんか出来ちゃった、量産は出来ません!な魔道具の一つである。

 自分でもその組み合わせでなぜ出来上がったのかさっぱりわからない。幸運だったとしか言えない。

 スパッ、グシャッなどの効果音と共にゴブ野郎達の体の一部が血飛沫と共に飛んでいく。ケイレブは私の前方、ベルナールは後方を守るように奴らと対峙している。

 ケイレブが私の前なのは、彼は引き裂くように倒すため血飛ばし認定一級保持者なためである。つまり後ろに居たら私はベッチャリコースだ。

 2人は慣れた様子で切っては裂いて繰り返し、時折会話もして余裕ぶっている。私は必死に盾ソルくんでカードして攻撃が当たらないようにするのに精一杯だった。血も嫌だが涎アタックも嫌だ。

 そもそも私は戦闘に参加する気はなかったのに、あれよあれよという間に参加が決まった。まあ、私が欲に釣られたのが悪い。

 でもここに私がいるのは悪どい大人3人のせい!

 戦闘が苦手な私に必須な盾ソルくんは、防御モードだと敵がぶつかりに来ると反動で相手を吹っ飛ばす機能がある。次にハンドルにあるボタンを押せば先端の突起(石突き)からビリビリッと雷属性攻撃ができる。しつこい敵には電撃攻撃で麻痺させ動けなくなったところを周りにやっつけてもらうのだ。

 コレがあればある程度戦闘に参加はできるが…。前線ではなく、いつも通り後方にいたかった!しかも悪どいタイチョーズは盾ソルくんの素晴らしさをみて、作戦を少し変更したのだ。

 この作戦も嫌だったのに!なんてひどい大人達!

 戦闘好き(?)な残り2人は顔色も変えずに作業を続けている。2人で時折話している様子から、割と仲良くなっているようだ。

『それにしても思ったより数が多いですね』

「ガウガウ(確かになー。ちょいダル)」

『これは報酬が楽しみですね』

「ガウ!ガウガウ!(確かに!俺生肉が食べたい!)」

『いいですね。沢山稼いで市場の食材を買い占めましょう』

「ワオーン!(イェーイ!)」

「ちょっと!話してないで手を動かしなさいよっ。いやぁぁ!顔が飛んできたぁぁぁ」

 楽しそうな2人に囲まれピィピィと悲鳴をあげている私。

 なぜ、こんなことになったのか。

 それはあの町に立ち寄ったのがもそもそも始まりだった。

ーーー

 砂漠を抜け、隣国のガーバール国に辿り着いた私達は森へ向かうためあまり寄り道せずに進んだ。まず中心部の首都に向かうため、相変わらず街道を使わず険しい道を使って直線最短で向かった。

 首都に着いた際には出店が沢山あって私の涎は滝のように流れた。が、ケイレブに物資の調達以外で寄り道はしないと怒られた。おかしい、ここは観光して特産品を食べるために来たはずなのに!

 ケイレブにこっぴどく怒られ(ベルナールの件で結構不満が溜まってた)、渋々観光は諦めた。

 が、シュシューはどうしてもどうしても食べたいと私が駄々をこね、呆れた顔のケイレブをよそに100個ほど購入。だって、前世のシュークリームそのまんまだったんですもの!甘いのは大事!!

 しっかり収納にぶち込んで、日々の楽しみの一つにした。100個もあれば足りるはず、いや私だけが食べれば足りるはずだ。ケイレブには?あげなくてもいいんです!

 で、買い物を済ませてオーバール国を横断するように進んだ。この国の魔獣の出現は他国より少ない。故に観光国としても有名なのだ。

 険しい道のりでも他の国よりスムーズに進んだ。

 そして何事もなくあと少しで隣国に入る距離まで進んだ。私達は相談し、次は国が小さいため街道沿いではなく、山道を突き進み寄り道せずに進む事に決めた。

 しばらく野宿になるし、少しゆっくりしようか。なんて3人で話し、この国で最後の物資補給のためにニポニテという名前の町に立ち寄った。

 それが2日前だ。


《2日前》


「なんか、辛気臭い町ね。どうしたのかしら。観光客も少ないし…」

『本当ですね。市場も活気がありません』

「ベルナール。私達は買い物してくるから情報収集してきて」

『かしこまりました』

 カラスに擬態しているベルナールは私の肩の上に乗っていた。そこから旅立っていくのを見届けて私は市場の道を歩いた。

 ベルナールは移動中は並走して飛んでいるが、私がケイレブをケージポーチに入れ歩いてる時には肩に乗っている。初めはコイツを肩に乗せるのが嫌だったが、首都でシュシューを買うことが出来たのもベルナールがとりなしてくれたからだった。

 意外と使える奴じゃん!と認識を改めた事で肩のりを許可した。耳元で話されるのはうるさいがシュシューの恩は大きいのだ。

「グルルル(なんか、臭いな)」

「ん?そう?」

 野宿に必要なものを買い足しながら市場を歩いていると、ミニ狼ケイレブが前足で鼻を押さえていた。

「ガルル…(嗅いだ記憶があるような…)」

「私には全くわからないんだけど。とりあえずベルナールが戻るのを待ってからどうするか考えよ」

 ある程度買い出しが終わったら、ベルナールを待つために近くの店に入った。観光国なだけあって観光客が一休みする空間や店が他の国よりも多い。

 軽食と飲み物が出てくるカフェのような店は久しぶりだ。外の景色を眺めながら軽食を楽しめるテラス席に案内してもらうよう頼み、席にたどり着いて椅子に座ると私はメニューも見ずに店で1番甘いケーキと1番人気のお茶を頼んだ。

 ケイレブはケージのまま机の上に置いた。ぬいぐるみ狼なので周りを怖がらせることもないだろう。疲れたなぁと2人でのんびりしながらケーキが届くのを待った。

 この世界のお茶は前世の紅茶によく似た味だ。ただ色は真っ黒だ。まるでコーヒーのよう。コーヒーに似た味の飲み物もあるらしいが、まだ出会ったことはない。

 店員さんがきてテーブルに品物が並べられると、ケイレブはクンクンッと鼻を動かしてからオエッとえずいた。甘いものが苦手なので甘ったるい匂いがするといつもこの反応だ。

 そんなことは気にせずズビビッと音を出してお茶を飲んでいると、ベルナールが帰ってきた。コイツは私の所在を把握しているため何処に居ても帰ってくる。

 パサパサッと音を立てて私の肩に乗ったベルナールは私達だけに聞こえる声で話し始めた。

『どうやら魔獣が頻繁に出没していようです』

「…普段よりどれくらいの多いの?」

『3倍以上かと』

「ガウッ!?(マジかよ!?)」

「討伐隊が討伐するにも手が足りていなさそうね」

 魔獣の討伐は各国が定めた団体が行うのがこの世界の決まりだ。私の国であれば私やケイレブが率いていた戦闘隊。公国の戦闘部隊は治安維持部に分類され、他には警備隊や消防隊など公国民の安全を守る部署がある。

 それも国によっては討伐組織と併用させていたりと、各国の治安については国によって考え方が違うのだ。

 この国は国土も広いため各地域に国が運営している討伐組織から隊員が派遣されている。つまり騎士団のようなものだ。魔獣討伐専門の討伐組織は各地域の魔獣出現率によって派遣される隊員の規模が違うそうだ。

 何故それを知ってるかって?そりゃあ、旅をする上で情報収集は大事なのでね、ふふん。

 さて、話を戻すが二ポニテ所属の全隊員を出動させても追いつかない状態だとすれば、他から応援も来ているはずだ。それでも追いつかないほどであれば相当の数が出現していることになる。

 私がふーむっと顎に手を当てて少し考えていると、ベルナールは片方の羽を広げて毛繕いをする真似をしながら話を続けた。

『出てくるのが人を襲って攫っていくゴブタイプのようです。それで狙われやすい幼い子供や女性が外を出歩けない状態のようですね』

「うわ、ゴブタイプってあのゴブリンよね。ヤダァ」

「ガウガウ(だから臭いんだな)」

 ゴブタイプは前世のおとぎ話やファンタジー物語に出てくるゴブリンとよく似ている。

 大人の人間の膝ほどの背丈。灰色の髪の毛。緑の体。知能は割とある。人間の子供が好物。女は犯す遊びに使う。そして臭い。口も体も臭い。常に涎を垂らしている。とにかく臭い。つまり臭い。

 私が嫌いな魔獣ベスト3に入る奴らだ。

 ゴブタイプの魔法を使う個体出現率は低い。いつも集団で襲ってきてギャーギャーすることが多い。武器は拾った剣や槍や棍棒など。防具も奪ったものを着ている事がある。

 が、魔法を使う個体がいる場合は珍しい魔石が出る可能性が高い。個体の能力によっては何がでてくるかわからないが、希少な〈空間〉〈時間〉の2種類が出る可能性がないわけではないのだ。その2つは収納ポーチに使ってる石だ。

「魔石が出そうな個体はいそう?」

『可能性はあります。かなりの群れのようですし』

「ふーん。ベルナール、アンタは戦える?」

『剣さえ頂ければ』

「よし、よく切れるものを手に入れましょう」

「ガウ…ガウガウ(嫌な予感…もしかしてお前)」

 顔を青ざめているケイレブに目線を向けてニヤッと笑えば、彼はプルルッと体を震わせた。

「やるわよ!!!!アンタらが!!!」

「ギャオオオオン(いやだぁぁぁあ)」

 ケイレブがここまで嫌がるのには理由があった。それは旅に出てからというもの、私が魔石欲しさに群れている魔獣の住処に押し込んで遊ばせたことがあるからだ。

 1匹で討伐するのはかなり疲れるようで、その遊びが終わるたびに涙を流していたケイレブ。少しトラウマになっているようだ。

 扱いが酷い?いいえいいえ、彼の能力を錆びさせないためなのです。あとダラダラして太ってしまうのを防ぐためでございます。ついでに魔石をもらって魔道具を作るためなので、一石二鳥です。


 ちょっとは悪い事したなぁとは思ってはいる。


 が、思っているだけでケイレブの扱いを変える気持ちは正直ない私であった。まあ今回は1匹でやるのではないからいいでしょう!
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