61 / 70
妊婦には優しく
第5回妊婦なう③(ルイス視点)
しおりを挟む
マイカ様の側に守護者として仕えることになったとき、屋敷に帰ってリリーと側室達に話をした。
3年間ほぼ屋敷には帰れない事。子供が産まれるのは1番最後である事。次に帰ってくるのはセザール様の子供が産まれてからである事。
リリーと私が和解した事で、妻達は5人で交流を深めていたようだった。私が話したことも特に反対や拒否もなく、5人とも納得した様子だった。
部屋を移るために自室で荷物をまとめて、空間に収納していると、リリーが部屋に訪ねてきた。
「やっと夫婦らしい生活ができるかと思っていたわ」
「そうだな」
「…貴方を…変えたのは、聖女様?」
「……そうだな」
「そう…」
背を向けて話をしていたが、リリーの声は暗かった。
「愛しているの?聖女様を」
「………そうだな」
「そう」
荷物をまとめ終わって振り会えると、涙を浮かべていた。
しかし、私には抱きしめることはできなかった。
どの妻とも義務や求められたから閨を共にしていた。どの妻とも、マイカ様に向けている愛は向けたことがない。
リリーが何を思っていたとしても、その気持ちに応えることはできない。そう思うと抱きしめることはできなかった。
「そう…なのね。守護者というのは…」
「それは、神より神託にて任命された。自演ではない」
「…神からもその関係は祝福されているの?」
リリーは俯きながら話しかけてきた。床には涙の跡が出来ている。
「いや、それはわからない。しかし、守護者として任命されたときに私ならば護れるであろうと言われた」
「神は貴方の愛さえもお見通しという…わけね」
リリーは顔を上げて涙を流しながら微笑んだ。そして袖で涙を拭いて吹っ切れたような顔で話しかけてきた。
「聖女様は…」
「それは…どうだろう。伝わっているかはわからない」
「貴方不器用ですものね。それにとっても一途。わかったわ。私は貴方を応援する。今まで貴方の声を無視してきた…お詫びよ」
「気にしなくていい。終わったことだ」
「ねぇ、聞いて。私は貴方に会った時に一目惚れをしたの。こんな素敵な方と結婚できるなんてって浮かれたわ。でも蓋を開けたら…貴方は私なんてこれっぽっちも見てなかった。神とお義父様に目を向けて…自分の心さえも無視してた。貴方の声に気がついていたけど、私は自分で手が一杯だった。貴方を見るたびに、無視してる自分が嫌になったの。嫌いって言ったのも、つるりと口から出てしまった恨み言。八つ当たりね」
何かを思い出すように遠くを見ながらリリーは話を続けた。
「これから死ぬまでずっとこのままだって諦めてたけど…貴方は一晩で変わったわ。そして自分で変わらねばと動いた。私には出来なかった事を聖女様に会ったことですんなりとやってのけた。貴方が動いたから、私も動こうと思えたの。だから、貴方の心を救って下さった聖女様と幸せになってほしいの」
「聖女様は…3年で元の世界に戻られる」
「それなら、尚更…」
「元の世界に夫も子供もいる」
「あら、貴方は5人も妻がいるわ」
「………だが」
「だめよ。動き出した足は止めてはいけないわ。側室達には話をしてあるの。貴方の様子が変わった事で…おそらく聖女様が変えてくれたことを。彼女達は貴方を盲目的に愛しているから、貴方のことは否定しない。愛されなくてもいいと考えているから…側にいられるなら、今後閨を共にしなくてもいいって話していたわ」
「……そう…か」
「でも、家のことは私に任せてね。子供部屋もしっかり用意しておくわ。肌着もたくさん作らなきゃ。セザール侯爵様の所に産まれたら、一度帰ってきてちょうだいね」
「わかった」
「じゃ、時々連絡はしてね」
リリーは初めて出会った時のように純粋さを秘めた笑顔で手を振って部屋から出て行った。
私は王城の客室で荷物を解きながら、リリーと話した事を考えていた。
応援する…か。夢の事は忘れてしまっているマイカ様。私の気持ちは…おそらく知らない。覚えていないのだから。
3年。己の秘めた気持ちを伝えずにただ側で見守ろうと思っていた。伝えたところで、あの夢のことを思い出さねば…友愛ぐらいにしか思われないだろう。
私は片付けが終わるとシャツとズボンに着替えて、ベッドに入った。ふと、サイドテーブルに置いた花冠を手に取った。
愛おしい、あの笑顔を護ろう。
花冠に口づけを落として、誓いをたてて眠りについた。
3年間ほぼ屋敷には帰れない事。子供が産まれるのは1番最後である事。次に帰ってくるのはセザール様の子供が産まれてからである事。
リリーと私が和解した事で、妻達は5人で交流を深めていたようだった。私が話したことも特に反対や拒否もなく、5人とも納得した様子だった。
部屋を移るために自室で荷物をまとめて、空間に収納していると、リリーが部屋に訪ねてきた。
「やっと夫婦らしい生活ができるかと思っていたわ」
「そうだな」
「…貴方を…変えたのは、聖女様?」
「……そうだな」
「そう…」
背を向けて話をしていたが、リリーの声は暗かった。
「愛しているの?聖女様を」
「………そうだな」
「そう」
荷物をまとめ終わって振り会えると、涙を浮かべていた。
しかし、私には抱きしめることはできなかった。
どの妻とも義務や求められたから閨を共にしていた。どの妻とも、マイカ様に向けている愛は向けたことがない。
リリーが何を思っていたとしても、その気持ちに応えることはできない。そう思うと抱きしめることはできなかった。
「そう…なのね。守護者というのは…」
「それは、神より神託にて任命された。自演ではない」
「…神からもその関係は祝福されているの?」
リリーは俯きながら話しかけてきた。床には涙の跡が出来ている。
「いや、それはわからない。しかし、守護者として任命されたときに私ならば護れるであろうと言われた」
「神は貴方の愛さえもお見通しという…わけね」
リリーは顔を上げて涙を流しながら微笑んだ。そして袖で涙を拭いて吹っ切れたような顔で話しかけてきた。
「聖女様は…」
「それは…どうだろう。伝わっているかはわからない」
「貴方不器用ですものね。それにとっても一途。わかったわ。私は貴方を応援する。今まで貴方の声を無視してきた…お詫びよ」
「気にしなくていい。終わったことだ」
「ねぇ、聞いて。私は貴方に会った時に一目惚れをしたの。こんな素敵な方と結婚できるなんてって浮かれたわ。でも蓋を開けたら…貴方は私なんてこれっぽっちも見てなかった。神とお義父様に目を向けて…自分の心さえも無視してた。貴方の声に気がついていたけど、私は自分で手が一杯だった。貴方を見るたびに、無視してる自分が嫌になったの。嫌いって言ったのも、つるりと口から出てしまった恨み言。八つ当たりね」
何かを思い出すように遠くを見ながらリリーは話を続けた。
「これから死ぬまでずっとこのままだって諦めてたけど…貴方は一晩で変わったわ。そして自分で変わらねばと動いた。私には出来なかった事を聖女様に会ったことですんなりとやってのけた。貴方が動いたから、私も動こうと思えたの。だから、貴方の心を救って下さった聖女様と幸せになってほしいの」
「聖女様は…3年で元の世界に戻られる」
「それなら、尚更…」
「元の世界に夫も子供もいる」
「あら、貴方は5人も妻がいるわ」
「………だが」
「だめよ。動き出した足は止めてはいけないわ。側室達には話をしてあるの。貴方の様子が変わった事で…おそらく聖女様が変えてくれたことを。彼女達は貴方を盲目的に愛しているから、貴方のことは否定しない。愛されなくてもいいと考えているから…側にいられるなら、今後閨を共にしなくてもいいって話していたわ」
「……そう…か」
「でも、家のことは私に任せてね。子供部屋もしっかり用意しておくわ。肌着もたくさん作らなきゃ。セザール侯爵様の所に産まれたら、一度帰ってきてちょうだいね」
「わかった」
「じゃ、時々連絡はしてね」
リリーは初めて出会った時のように純粋さを秘めた笑顔で手を振って部屋から出て行った。
私は王城の客室で荷物を解きながら、リリーと話した事を考えていた。
応援する…か。夢の事は忘れてしまっているマイカ様。私の気持ちは…おそらく知らない。覚えていないのだから。
3年。己の秘めた気持ちを伝えずにただ側で見守ろうと思っていた。伝えたところで、あの夢のことを思い出さねば…友愛ぐらいにしか思われないだろう。
私は片付けが終わるとシャツとズボンに着替えて、ベッドに入った。ふと、サイドテーブルに置いた花冠を手に取った。
愛おしい、あの笑顔を護ろう。
花冠に口づけを落として、誓いをたてて眠りについた。
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
5人の旦那様と365日の蜜日【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる!
そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。
ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。
対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。
※♡が付く話はHシーンです
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる