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妊婦には優しく

第1回妊婦なう①(Art)

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「おはようございます、マイカ様」

 マリアが私に声をかけてきた。ふわふわした意識がはっきりした私はパチっと目を開けてマリアに目線を向けた。

「あ、おはよう。今日は肉球ペッタン起こしじゃなかった」

「いえ、既に何度も額を…。しかしマイカ様が反応されないので拗ねて隣の部屋に」

「あ、そうなんだ。悪いことしたな…」

「殿下の御子が宿ったと伺いました。大事なお体です。今後は何かあればすぐにお申し付けください」

 私はゆっくり体を起こした。マリアは私が起きるのを手伝ってくれた。すでに…過保護モード?

「ありがとう。今後体調の変化が出るかもだから、その時はよろしくね」

「はい。では身支度をお手伝いいたします」

「はーい」

 マリアに連れられて、ドレスに着替えた。今日はシックなデザインの青色のドレスだった。アートに会う日は青が多い気がする。

 身支度を整えて、隣の部屋に移動するとリチェ様とルーが仲良く話をしていた。

「おはよう。朝から仲良いね」

「おはようございます。マイカ様。お加減はいかがですか?」

「ん?まだそんなに変化はないよ」

『そんなにすぐには症状は出ないと思いますよ。えーっと、一ヶ月半ほどが初期で、それから二ヶ月が中期で、残り二ヶ月半が後期ぐらいでしょうか…』

 2人が座っているソファーの向かい側に座ると、リチェ様がトコトコとやってきて私の膝に乗ると前足でおなかをポンポンっと叩いてきた。

『まぁ、先程行った妊娠段階も予想なので…マイカさんの世界とは勝手が違って戸惑うかもしれません。困ったらすぐ教えてください。私が毎日ちゃんと育ってるか、確認しますからね』

「つまり、リチェ様が産科医…」

『ふふふ!お任せください!』

「さすがです、リチェ様。私の子供の時もよろしくお願いいたします」

『もちろんです!』

 ルーはリチェ様をヨイショっと持ち上げるのが上手い。神官とは、ある意味…神を神輿で担ぐようなモノ…だからかな?っと考えていると朝食の準備ができたとマリアから声がかかって3人で朝食をとった。

 広間でのんびり3人でお茶をしていると、アートが離宮にやってきた。そして広間に入ると、ルーが対面のソファーから立ち上がってアートに場所を譲り私の後ろに控えた。

「おはよう。マイカ。子は…宿ったときいた」

「うん。リチェ様がお医者様みたいに今後見てくれるって。ちゃんと育ってるから心配しないで」

「そうか。いつ頃から腹が膨らむのだ?」

「うーん…二、三ヶ月後には大きくなってると思う。でも、一般的な妊娠期間とは違うから…どう変化するかはまだ未知数なんだよね」

「何かあればすぐに知らせてくれ。迅速に対応しよう」

「ありがとう。アートも毎日は無理でも、子供が動くようになったら話しかけたりしてお腹にいる時から触れ合ってあげてね」

「ああ、なるべく時間を見つけて毎日こよう。では、ルイスあとは頼んだ」

 そう言ってアートはソファーから立ち上がって部屋から出て行った。

 パタンっと扉が閉まった後に、私はルーに目線を向けた。

「まだ不機嫌なのかな。口数というか、前みたいな変態じみた発言がなかった気がする」

「…殿下は…そうですね。侮れない方なので、どこまでが本心なのかは…」

「そっか、まぁいいや。君のお父さんは腹芸が得意なんだってー。あんまり似ちゃだめだよ?」

 私は自分のお腹に右手をあてて話しかけた。その姿をルーは微笑ましそうに見つめていた。




 それから、月日が流れた




 アートの子供は悪阻もなく順調に育っていった。アートも毎日時間は変わるが、顔を見せるという発言通り現れて少し話をして帰っていっていた。

 でも、お腹が大きくなり始めた頃。私が妊娠していることをやっと実感してきたのか、徐々に開いていた距離が縮まった。ただ、前よりは離れてるが滞在時間は長くなっていった。

 安定期に入った頃、アートに誘われて毎日中庭でお茶をするようになった。

 アートはその頃から私のお腹を撫でたそうに見つめてくるようになった。

 ある日、私がその視線に耐えかねて、触るか聞く前にアートの右手をお腹に当てた。アートはびっくりしたような表情になったが、すぐにお腹に目線を向けてしばらく静かになった。

 そしてボソリと呟いた。

「子がいる腹とは、意外と柔らかいのだな」

「それは、私の脂肪も関係してるけどね…。でも、お腹が張ると結構硬くなるんだよ」

「そうか。あまり無理はするなよ」

「うん。お腹ぐらい触っていいよ?」

「…撫でてもいいか?」

「うん。たぶん音も聞こえてるから、話しかけてあげて」

 アートはそっと私のお腹を優しく撫でた。撫でているアートの顔を眺めると、表情は少し硬いが瞳は穏やかだった。

「俺がお前の父上だ。元気に産まれてこい」

 アートはその一言だけ、子供に話しかけた。

 その後はお腹は撫でているが、あまり子供に声をかけようとはしなかった。

 それから、アートは会うたびに私のお腹を撫でた。胎動を感じる頃には蹴るまでお腹に手を当てられて、身動きが取れなくて困ったこともあった。

 子供に愛着がわいたようで、毎回撫でてくるのはいいのだが…。時折少し大きくなってきた胸を見てニヤッと笑うようになったのは…ちょっと…変態だった。
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