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いざ、フィンなんとか王国へ

何故か気になる

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『マイカさーん、マイカさーん。起きてくださーい。マリアきますよー』

 リチェ様が肉球スタンプを押してきてる。起きなきゃ!っと思った私はゆっくり目を開ける。私の顔を覗き込んでいたリチェ様と目があった。

「おはー」

『おはようございます。気分はどうですか?』

「ん?気分?んー…ぐっすり眠れたかなぁって感じ。でも何だか体がだるい」

 それを聞いたリチェ様は私に右前足をかざしてむむむっと唸った。そしてものの数秒でその行為は終わり、前足を下ろしてコテっと首を傾げながら言った。

『むむ。特に体調を崩してる様子はないですねぇ』

「うーん、そうね。風邪とかそういう怠さじゃないかも…」

 ムクっと起き上がった私はベッドから降りようと両足をベッドサイドに下ろした。そして、グッと足に力を入れて立ち上がろうとしたその時、自分の股がぐっしょり濡れていることに気がついた。

「あれれ…生理きたかな…」

 この濡れた感覚に身に覚えがあった私はネグリジェを捲り上げて下着の中を覗き込んだ。すると見えてきたのは予想していた真っ赤なものではなく、透明なものだった。

「え、ええ?なんで…濡れてるんだろ」

 はて?っと首を傾げネグリジェを元に戻した。どうしよう、マリアに新しい下着を貰おうかなっと悩んでいるとリチェ様がベッドから声をかけてきた。

『洗浄魔法を使えばいいと思いますよ。そろそろ魔法を使う練習をしては?』

「おお!魔法!使った事ないものは思いつかなかった。どうやってしたらいい?」

『マイカさんは呪文など唱えなくても。こうなりたーいとかこうしたーいという想像で発動します。でも収納機能のように何か言葉を紡いだ方がやりやすいなら〈洗浄〉っと唱えてからどのように綺麗にするのか考えればその通りになりますよ!』

「わお。何それチートじゃん。使い方自由とか私の使い方次第ってことね。よーし、やってみよう」

 頭の中でお風呂上がりのさっぱりした肌、履いてばかりの下着を思い浮かべる。そして〈洗浄〉と唱えると、体全体が何か膜に覆われシュワっと泡で体を洗ったかのような感覚になる。その感覚は一瞬で膜のような物が消えると体が湯上がりのようにすっきりとした。もちろん下着も濡れていない。

「お、成功した!」

『さすが!これで汚れても綺麗にできますね』

「うん。コレ…現実世界でもほしー。子供が洋服に食べ物こぼしたり、泥だらけになった時に洗濯前に手洗いしなくていいって事だよね。いや、むしろ洗濯すらしなくていい。ほしー」

 そんなことを言っていたら、マリアが扉を開けて中に入ってきた。

「マイカ様、おはようございます」

「おはよー。あ、今日は顔洗わなくて大丈夫そう!洗浄魔法を使ってみたんだ」

「左様でございますか。では早速身支度から行いましょう」

 マリアと共に衣装室に向かう。化粧を施し、髪を結って整えると用意されたドレスに袖を通す。今日はいつもの胸元から布がフワッとしたエンパイアスタイルではなく、体のラインに合わせて薄い青色の布がピッタリとしているマーメイドスタイルであった。胸元はオフショルダーで胸元にレースはない。ほぼ、素肌丸出しであった。足元は膝下からフリルがついて足先が見えるようになっている。

「やだぁ。これ、デブが目立つ。お尻デカイの強調してる!」

「こちらのドレスは殿下がご用意された物でございます。今まで着ていたドレスも王家がご用意した物でございますが、こちらは殿下がマイカ様にお会いしてから急ぎ作らせた物と伺っております」

「ぐっ…あの人何で私のサイズ知ってるの…」

「殿下は何事もそつなくこなす方でございますから」

 淡々とした口調でリチェ様へ同じ布で作られたリボンをつけてマリアは言った。

「あう。ピッタリしすぎて動きにくい」

「大股で歩かずに、少し歩幅を狭められるとよろしいかと」

「なるほど。着物の時と同じか」

 動かせる範囲内で小股でちょこちょこ歩いて隣の部屋へ移動いた。そこには金髪頭がソファーに座ってお茶を楽しんでいる様子が目に入った。その人物に、声をかけるためにソファーに近寄る。私の気配を感じてか、その人物はこちらに目線を向けて私の姿を確認すると、嬉しそうな笑顔を向けた。

「マイカ…おっと。マイカ様おはよう。ドレス似合っている」

「おはようございます、アーサー殿下。ドレス ドウモ アリガトウゴザイマス」

 片言で挨拶を返しながら、向かい側のソファーに座った。リチェ様はテーブルの上にぴょんっと飛び乗ってその場に座って佇んだ。よしよし、今日は朝から仕事をするようだ。リチェ様の様子を見て私は満足した。そんな私にアーサー殿下は様子を伺うように声をかけてきた。

「なんだ。そのドレス嫌だったか?」

「嫌。だって体のライン出るんだもの」

「それがいいだろう?」

「こんな体のラインを出すなんて…」

「なかなか良い体だったじゃないか」

「はへ?」

 アーサー殿下はカップを置いて、私を上から下に目線を向けて眺めた後に何かを思い出したようにニンマリと笑った。いい体と言われても…このドレスを着たのは今が初めてだし、アーサー殿下に裸を見せたわけでもない。何でそんなことを言うのだろうと困惑していると、アーサー殿下は何かに気がついたようにポンっと手を打った。

「ああ、なるほど。俺たちだけなのか。そうかそうか…くくっ。てっきりあれはマイカ様が俺たちを呼んだのかと思ったが」

 ふーむっと言いながら目を細めてアーサー殿下はリチェ様を見つめた。その視線に反応してリチェ様は「ナーオ」っと鳴いて返答した。

「なるほど。リチェ様の仕業か。うん、よくやったぞ。俺は今日朝起きた時、ついに願望が具現化したかと思っていたが、他の男たちから報告が来てただの夢ではないと判断していたのだ。しかし、マイカ様は覚えてないとは…」

 ククッと笑いながらアーサー殿下はテーブルに手を伸ばしてリチェ様の頭を撫でた。私はリチェ様がアーサー殿下に触らせていることに驚きながらも、二人は何か私が知らないことを知っており、その事について話している様子を怪訝そうに見つめた。

「何の話?」

「いや、こちらの話だ。マイカ様は気にしなくていい」

「なによ。気になるじゃない」

 プーっと頬を膨らませてアーサー殿下を見つめると、プっと音を出した後にアハハっと声を出して笑い始めた。私はそれを見て更にプクーっと頬を膨らませて睨むがアーサー殿下は笑い続けている。拗ねてますアピールをしているのにアーサー殿下は何がおかしいのかわからないが笑いが止まらない様子だ。それが何だか面白くなってきて、プハッと口から空気を出すと私もクスクスと声を出して笑い始めた。

「あー、はぁ。腹が捩れるかと思った…。なぁ。もうマイカって呼んでいいか?」

「ええ?!何急に」

「かなり親しくなった気がするんだが?」

 アーサー殿下は首を傾げて見つめてきた。たしかに、何でかはわからないけれど「マイカ」と呼ばれても違和感がない。前にもそう呼ばれたことがあったかのような既視感さえもある。まぁ、アーサー殿下は5人の中でもちょっぴりまともだ。名前を呼ばれるだけで何か変わるわけでもないし、暫く考えた後にコクンっと頷いて返答した。

「うん。まー、いいよ」

「マイカ」

「なに?」

「俺のことはアートって呼んでくれ」

「はぁぁ?恋人や夫婦じゃあるまいし愛称なんてやだよ」

「なんだ、恥ずかしいのか?」

「ちっ、ちがうし!愛称って心を許した親しい相手と呼び合うやつでしょう、」

 私は少し頬が熱くなりながら否定するように首を横に振った。その様子をアーサー殿下はにっこり笑って話しかけてきた。

「大丈夫。俺はマイカを信用信頼してるし、なんなら親しいと思ってる。ああ、俺もマイカを別の呼び名で呼ぼうか?そうだな。抑揚が似た名前は…マーヤとかか?」

 アーサー殿下はいいことを思いついた!とばかりに、大きく頷いている。マーヤとかもう名前変わってるし、私じゃない!否定しようと口を開けるとリチェ様が「ニャーオ」っと返答をして間に割り込んできた。

「リチェ様も愛称呼びに賛成か?」

「ニャー」

「ちょ、何2人で会話進めてるの!」

 慌ててリチェ様を抱き寄せる。

『何会話してるの!?どうゆうこと!?』

『えー?愛称ぐらいいいじゃないですか。仲良くした方がいいですって』

『仲良くするのはそうかもだけど…』

『愛称呼ぶだけで何か変わるわけじゃないのでしょう?』

 リチェ様は私がさっき、呼び捨てにされることを許した時に考えたことをニンマリとした口調で伝えて来る。この猫には私の心の声が筒抜けのようだ。くそー!っと思いながらリチェ様をポイッと乱暴に隣に置いた。

「おいおい。そんなに乱暴にするなよ。可哀想だろ」

「ニャーン」

 リチェ様は庇ってくれたアーサー殿下に近寄って、アーサー殿下のふくらはぎあたりに頭を擦り付けて媚を売り始めた。

「こんなに愛らしい猫はなかなかいないな」

 そう言ってアーサー殿下はリチェ様の両脇に手を入れて持ち上げると、膝の上に置いた。リチェ様も満更ではないようでアーサー殿下に顎の下を指で撫でられてゴロゴロと喉を鳴らしている。

 あの猫め!っと思いながら歯をぎりぎりとしながらその光景を眺めていると、マリアから「朝食のご用意ができました」と声がかかった。やけ食いだ!そう思った私はイチャイチャしてる二人を尻目にソファーから立ち上がって歩き出そうとした瞬間、足元の布に足がもつれて前のめりになってこけそうになった。

「きゃぁ」

「あぶない!」

 咄嗟に叫び声が出た。ぶつかるっと思い目を瞑った瞬間にフワッと何かに包まれて体が倒れる寸前で止まった。恐る恐る目を開くと、空気のような風のような物が体を浮かせるように私の体を支えるように巻きついていた。

「はぁ、ヒヤヒヤさせるな。怪我したらどうするんだ」

 そう言ってアーサー殿下はそれを操って私をアーサー殿下の胸元まで引き寄せ、床に立たせた。そして肩から腰辺りまでぺたぺたと怪我がないか確認するように触ってきた。私はびっくりしたまま固まっていたため、されるがままだったが、殿下の両手がお尻触った瞬間に「エッチ!!!」っと叫んで殿下の左頬を右手で叩いていた。

「あ…」

 助けてもらったのに、殴ってしまった!っとオロオロしているとアーサー殿下は叩かれた頬を左手で押さえながらニヤッと笑った。

「えっち?どんな意味だ?…まーいい。アートって呼ぶなら。助けてやった恩を仇で返したことは不問にしてやる」

「あうっ」

「それとも罰が希望か?」

「そ、そんなの…でも、その」

 言葉がうまく出てこない。パクパクと口を開けたり閉じたりしながら、自分がやったことを思い出して罪悪感を感じる。愛称で呼ぶだけで許してもらえるなら…っと思い、眉尻を下げてアーサー殿下を見上げた。

「ご、ごめんね。あ…アート…」

「ああ。俺も悪かった。さあ、食事に行こう」

 アートは頬を押さえていたときに魔法で治していたようだ。手を離して現れた頬は赤みも腫れもなかった。差し出された手を取って食堂に向かう。

 何だかちょっと恥ずかしい。そんな思いに駆られながらやけ食いをしようとしていた朝食の味がわからない。

 ボーッとしたような感覚のまま、今日はなぜか一階の広間ではなく二階の自室にアートに案内され、朝とは違いお互いに一つのソファーに腰掛けて向かい合った。

「どうした?さっきからずっとボーッとして。熱でもあるのか?」

 そう言って心配そうに少し顔を近づけてアートは右手を私の額に当ててきた。ボーッとしてた私はアートの口元に目線を何気なく向けた。

 あれ?何だか…この唇…知ってる

 そう思った瞬間に目の前に広がる金色と楽しそうに笑う青い瞳、口の中に迎え入れた熱い何か…

 何かの光景を思いして、カーッと体が火照った。

「ん?やっぱ熱あるのか?」

「い、いや…なんでも…ない」

「でもだんだん熱くなって…顔も真っ赤だぞ」

 アートは額に当てていた手を私の頬にそっと当てた。少し冷たい手が気持ちい。そう思った時にまた手の感触に既視感を感じる。

 なんだろ…これ、体が火照って暑い。何だか股の間もドロっとした物が溢れてくる。えっ!?っと思った瞬間には下着を濡らしていた。慌てた私はアートから体を離して、顔を手で仰ぐようにしながら言った。

「な、なんだか…熱があるのかな。今日はここまででいい?」

「ああ。わかった。今日一日大人しく寝てろよ」

「う、うん。心配かけてごめんね、アート」

「気にするな。またな」

 そう言ったアートは私の頬に自分の頬を寄せてくっつけると、チュッと音を鳴らしてチークキスをしてきた。びっくりして頬を押さえてアートを見つめる。

「おやすみ」

 ふっと柔らかく微笑むとアートは立ち上がって部屋から出て行った。

「な、な、な」

『音鳴らしただけで頬にはしてないですよ』

「そんなことはわかってる!!」

『挨拶みたいなものじゃないですかねぇ。深い意味ないですよー』

「あああ!もうっ。なんなの…急に積極的だし、馴れ馴れしいし…しかも私もそれを受け入れちゃってるし!!」

『それじゃぁ、守護石は反応しませんねぇ』

 リチェ様は暢気な声を出している。

 もう何なのだ。今日は朝から何かが変だ!そう思っていると、マリアが心配そうに部屋に入ってきて素早く湯浴みと着替えをさせて、その後は寝室の中にリチェ様と押し込められた。

「明日の朝までおとなしくしててください。昼食や夕食は寝室に運びます。では」

 そう言ってマリアは出て行った。私は重い足取りでベッドの中に潜る。

 本当なんだかおかしい。

 疲れていたのか布団に入ってすぐに眠気がやってきた。

 そのままマリアに昼食のため起こされるまで、私は深い眠りについた。

『マイカさんは夢のこと覚えてないようですが、体は覚えちゃったみたいですねぇ。逆効果だったでしょうか』

 私が寝た後に白い猫が愉快そうな声で話した。



ーー(アーサー視点)ーー

 マイカの部屋から退室して、俺は執務室に戻って仕事を始めた。

 朝食の間ボーッとしていた時から心配していたが、体調は大丈夫だろうか。何かお見舞いに贈ろうかなどと執務室の机に積まれている書類を処理しながら考えていると、いきなり目の前に真っ白な猫が現れた。

「ニャン」

「ああ、リチェ様か。マイカは大丈夫か?」

 コクンっとリチェ様は頷く。それを見て安心した俺はホッと息をついた。

「大丈夫そうならよかった。で、何のようなんだ?」

 こちらの質問に対してリチェ様は周りをキョロっと見渡した後に、俺の側にテクテクと近寄ってきた。そして前足をペンを持つ俺の右手に乗せた。

『聞こえてます?』

 すると若そうな女性の声が頭の中に響いた。

「ああ。聞こえる」

『良かった。早速ですが本題です』

「あの夢の事か?」

『はい。あの夢のことはマイカさんは覚えていません。でも体が記憶しちゃったみたいで…』

「つまりさっきの様子は俺と何をしたかはわかってないが、体が反応したと?」

 うんうんっとリチェ様は頷いた。

 面白い。何でこんなことになったのか気になった俺はリチェ様に質問した。

「どうしてあの夢を見せたんだ?」

『マイカさんはこの世界の男女関係を受け入れることができてないようで。また夫に操を立てて、見目麗しい男性からの好意を嬉しいと思っても素直に受け取れない。そんな気持ちと葛藤しつつも、貴方達に対して少しだけ関心が湧いて、何かを想像してしまうと悩んでましたので…欲求不満だと思った私が夢の中で解消すればいいじゃないかと思ってやったんです』

「なるほど。愉しい事を思いついたな。実際に閨事をしてなければ、操は守られていると考えたんだな」

『はい。なので、夢から覚めてスッキリめでたしめでたしと思ってたのですが、人間というものは複雑で面白いですね。思っていたより単純に終わらなかったようです』

「くくっ。それはそうだ。心と体は繋がっているという。しかも、快楽は心が嫌がっていても、体は素直に反応して悦ぶ場合がある。マイカは今その状態だな」

『どうしたらいいのでしょう』

「そうだな…欲求も昂まり過ぎれば体に悪い。引き続き夢の中でしばらく解消するしかないな」

『えー』

「記憶を消さなければいいじゃないか」

『うーん、それだと更に混乱するような』

「では、俺たちだけ覚えている。マイカは記憶がない。しばらくそれで過ごすしかないな。あいつらには伝えておこう。今日はエリオットあたりにの夢に繋げてやってくれ。あいつは一対一の方が喜ぶ」

『何だかあんまり解決してないような…』

 これで良かったのか?っと首を傾げながらリチェ様は何かを考えている様子だった。ついでに、俺の希望を伝えることにした。

「一つ提案だが、実際には体を重ねなければいいならば、俺たちとの子供も夢の中でというのはどうだ?」

『んん。つまり…実際には性行為をしてないけれど、夢の中では性行為をして起きたら妊娠してると?』

「ああ。夢の中でもいい。俺はマイカをもっと愛したい。二人の子供をちゃんと作りたいんだ」

『うーんうーん。アーサーの希望はわかりました。ちょっと考えてみます』

 そう言ってリチェ様は目の前から消えた。

「本当は夢以外でも…」

 そう呟いた俺の声は部屋の静けさの中に消えた。
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