【完結】子供5人産んで下さい！

いざ、フィンなんとか王国へ

ダリオン・セザール②（ダリオン視点）

　俺は基本的に毎日イライラしている。

　理由は簡単だ。満たされないからだ。

　魔力量が多い両親から生まれた俺は、両親に比べてかなり魔力量が少なかった。たまに、突然変異のように親に似ないことがあるらしい。だが、少ないと言ってもそこそこ普通くらいの魔力だ。

　しかし両親からしたら俺は出来損ないだった。魔力量がわかった時点で見放された。

　ある程度教育を受けさせてはくれるが、家にいても2人に会うことはなかった。教師達には魔力が無いわけではないのだから、悲観せずに魔法を使えと言われた。だが、なぜだか生活魔法以外は使う気が起きなかった。覚える気も起きないため、深く学ぶこともしなかった。

　両親は俺以外の子供を作ろうと試みていたが、父親が側室を2人迎えても俺が20歳を超えた頃でもできなかったため諦めたようだ。せっかく迎えた側室は離縁して、正室である母親と仲睦まじい夫婦関係を築いているらしい。

　らしい、というのは聞いただけで15歳で騎士団に入ってから会ってないからだ。騎士団にも、無理くり入れられたようなもので実質家を追い出されたようなものだった。

　俺は物心がついた頃から、ずっと自分に何かが足りない気がしていた。そんな気持ちに変化が起きたのは騎士団に入ってすぐ先輩達に誘われて女を買いに娼館に行った頃だ。

　娼館の女達は金さえ払えば、暴力を振るったりしない限り客の希望通りにしてくれる。

　女を覚えた俺は何かを埋めるかのように、いろんな女を抱きまくった。一晩中抱き続けたり、複数人と戯れたり遊びまくった。女を抱いてる間は、なんとなく何かが満たされているような気になったからだ。

　でもそれは一時的なことで、満たされたいという欲求が強くなり続けた。何かに没頭すれば忘れられるかもと思い、剣を振るうが、訓練が終わった頃には興奮して逆効果だった。

　剣を振り続ければ、終わらなければいいのかもしれないと寝ても覚めても飽きずに剣を振るっていたら。19歳で国一番になってた。

　国一番になっても、20歳で騎士団の団長になっても、何も満たされなかった。

　団長になった頃に両親から結婚するよう命令された。一方的に手紙を送り付けられ、政略的なもので断ることは許さないと書かれていた。結婚すれば何か満たされるかもしれないと思い、正室を娶った。

　初めの頃は、俺が要求した通りに素直に従ってくれた。毎晩朝まで抱き潰しても、何も言われなかった。グッタリした妻を朝出かける1時間ぐらいの間、胸の谷間に顔を埋めて抱きしめて眠るのが日課になった。その間は満たされたからだ。

　だが半年経った頃に、毎晩は嫌だと拒否された。ただ一緒に眠るだけでも、抱きしめれば満たされるかもしれないと思った俺はそれに同意した。何もせずに一晩一緒に寝てみたが、モゾモゾ動くし、少しおさまりが悪くていつもより満たされないことを不満に思った。

「抱けないなら、一緒に寝るのはだりぃ」

　そう、つい口からこぼれた言葉により妻からは指定した日以外は閨を共にしないと宣言された。

　5年ごとに側室が増えた。全て父親からの命令だ。妻が増えれば満たされるまで抱けるかもという期待はあったため受け入れた。

　実際、嫁いですぐは正室に対抗意識もあり俺が邪険にされてることに同情して毎晩抱きつぶしても、喜んでいるような素振りだった。しかし、それも長くて半年。短くて2、3ヶ月で正室と同じことを言うようになった。

「あなたは、私たちを娼婦と勘違いしている」

　三番目の側室はそういって、話しかける事も嫌がるようになった。

　妻が増えれば増えるほど、イライラするだけだった。結婚なんてクソだなとさえ思った。結婚すれば娼館に通うこともままならなくなり、独身の頃のように自分の気分に合わせて発散することができなくなったからだ。

　とにかくイライラした日は訓練で部下達を鍛えまくった。そして、疲れきった部下達を労うといって娼館に連れて行った。建前があれば妻達は特に何も言わないだろうと思ったからだ。実際、俺に興味もないのか文句は言われなかった。

　若い女は部下達に譲って、俺は外れた女を買っていた。そうしてたら体つきがムチッとした、尻と胸がデカい女を抱いた時が一番満たされることに気がついた。あの体に包まれると、隙間なく埋められてるような気分になった。それからは、そんな体型の女ばかりを買った。

　うまくイライラを発散しながら過ごしていたら、両親から子供の催促をされた。孫が見たくなったとかふざけた理由だった。

　子供ができたら、満たされるのだろうか。わからない。だが、子供ができやすい日に妻達は抱いているのだからいつかできるだろうと思っていた。

　だがそれから長い時間が過ぎても子供ができず、ついに王族と上位貴族の子供が生まれない事が問題になった。

　その頃の俺は子供が生まれて満たされるなら欲しい。満たされないなら面倒そうだと思っていた。しかし、妻達に俺の両親から催促されて辛いので何とかできるのならば、何とかしてほしいと不満をぶつけられた。

　仕方なく、王家の指導に従った。

　聖女がくることがわかった時、妻達は4人で喜んでいた。何に喜んでいるのかはわからなかったが、文句を言われないならそれでいいと思った。

　聖女マイカ様が現れた時は、俺もやっと周りのように歓喜し興奮した。なぜなら、体型がものすごく好みだったからだ。

　目の前にいる間はずっと体を舐めるように見た。あの体をどう抱いてやろうと妄想もしまくった。頭の中は〈抱きたい〉で埋め尽くされた。

　だがマイカ様はただで抱けるような女じゃなかった。既婚者で子供がいる、誘惑にもなびかないと宣言、身体的接触は悪手とアーサー殿下に1日目の報告として伝えられた時は、手に入りそうで手に入らない感覚が初めてでものすごくワクワクした。

　特殊な方法での子作り。体には触れ合えるのだろうか。触れられなくても、隙を見て触ったりしたらどんな反応をするのだろう。服の下はどうなってる？過ごす時間の間に肌が触れるときはある？もし押し倒したりしたら？もし抱けることになったら…

　マイカ様という存在が現れたことで、いろんな妄想をしながらニヤニヤ笑うことが多くなった。

　２日目や３日目の報告を聞けば聞くほど、早く会いたくなった。マイカ様が来てからは、イライラも減って家に帰ってから妻達を見てイラついてた気持ちも無くなった。以前より余裕を持って察することができるようになった。

　子供ができたら閨を共にしなくていいかと言われても、不満はあるが怒りは湧かなかった。

　マイカ様にあった日。下から見上げるように黒い瞳で見つめられて、ゾクゾクした。つい、お尻をほんの少し撫でたら手を叩かれたが。それも、すごく…なんだか良かった。

　俺の話を聞いて、ケラケラと笑って時々肩を痛いくらいバシバシ叩いてくるのも良かった。もっと笑わせようといろんな話をした。怒ってくる事もあったが、大半は笑って話を聞いてくれた。

　人生で初めて、自分の意思で人に歩み寄った気がする。

　与えられることはあっても、求めたのは女を抱く以外になかった俺がマイカ様との関係性を深くしたいと求めている。それは恋人だとか夫だとか、そんなものじゃなくて…

　言うなれば、俺を飼って躾けてくれる。いいことをしたときは褒めて、悪いことをしたときは叱って時々のご褒美をくれる飼い主。

　子供が生まれたら、満たされるのだろうかという不安はなくなった。マイカ様から子供任せられたら、全力で護ることができると断言できる。

　飼い主の命令もといお願いは犬には絶対だからだ。だから、ちゃんと育てられたらご褒美をもらえるだろうか…