4 / 5
第3話 強欲の悪神マドン
しおりを挟む「ーーいやー、そもそもこの田舎町にはさ、若者が少ない訳よ。僕と店長と、ーー店長はそこまで若くもないか?、まあとりあえず結構な限界集落具合なんだよね。君みたいな旅行客も珍しいくらい。だけども美男美女が何故だか多いんだよ、不思議な事に。さっきの女性警察官しかり、山奥の洋館のお嬢様しかり、ーーああ、そうそう、向かいにでっかい山があるじゃん、そこにえらい美人なお嬢様とメイドさんが住んでるんだよね。でもなんせ山奥だから、たまに買い出しにメイドさんがこの店に来るんだよ。その子も凄く可愛くてさぁ、ちょくちょく世間話なんかして、仲良くなっちゃったりしてさーー」
「ーーはあ」
岩隈さんはペラペラとよくそんなに舌が回るなあと思うくらい饒舌に語る。先程磯城さんと対面してからずっとこんな調子である。
茶髪でチャラ男で見た目プレイボーイなのにも関わらず意外とウブなんだな、と話し半分で聞きながら岩隈さんに対する印象が田舎で幅を利かせている片思いヤンキーに変わったところで、俺は一つ気になったことを岩隈さんに尋ねる。
「ーーところで店長ってどんな人なんですか?」
その存在しか知らない店長とやら。岩隈さんの口から店長の話はしばしば出てくるのだが、いまいちどういう人なのかしっくりこない。
「ーーうーん、どんな人ねぇ。ーー強いていうなら怒ると怖い、とかかなぁ」
「ーーあまり参考にならない情報ですね。怒って怖くない人なんて居ないと思うんですけど」
「あー、あと喧嘩はめちゃくちゃ強いよ。この村の、田園地帯の辺りだと最強なんじゃないかな?」
つまりはここいら一帯で幅を利かせているヤンキーのボスと言ったところか、そして岩隈さんはその手下だと。岩隈さんの印象が田舎で幅を利かせている片思いヤンキーから田舎で幅を利かせているヤンキーの手下と変わったところで、暇そうに欠伸をする岩隈さんから、
「ーーねぇ、暇だから今日はもう店仕舞いしない?多分お客さん来ないよ」
と、提案された。
「いや、いいんですか勝手に。店長に怒られたりしないんですか?」
しかも店長は怒ると怖いらしい。指を詰められたり東京湾に沈められたりはしないだろうか。
「大丈夫大丈夫、店長が居ない時は僕が店長代理だから。好き勝ってやってもお咎め無しっ!良い身分だよホント」
と、嬉々として岩隈さんが語るので、
「ーーそれじゃあ今日はお開きにしますか」
お言葉に甘えて、俺のコンビニバイト生活一日目は終了したのであった。
◇◆◇
ーー宿に帰ってまず、俺は自分の目を疑い、頭を疑い、現実を疑った。これは何かの見間違いだろうか、それとも俺は盛大な勘違いをしているのか?はたまたこれはやけにリアルな白昼夢か?
ーー部屋に置いていた俺の私物が一切合財無くなっていた。
俺が最後に疑ったのは受付の元気な婆さんで、犯人であろうとなかろうとこの宿屋を管理する以上はこの婆さんに責任がある訳で、ドタドタと俺は受付まで駆け出し、婆さんを揺すって責任を追及する。
「おい婆さん!どうなってんだよ!!俺の部屋に置いてあった荷物が消えてるんだが!!」
「ありゃー、それは災難だったね」
「婆さん、なんか不審な行動をしていた人物とか見なかったのかよ?」
「見なかったねー」
「ーーまさかとは思うが、婆さんが犯人じゃないよな?」
「いやいや、まさか」
とはいうものの、俺は婆さんが何かを隠しているであろう事は半ば確信していた。というかずっと入り口前の受付で陣取っているのに犯人の存在に気付かないってことは無いだろう。たまたま偶然席を外していたとしても、それなりの大荷物を持ったヤツが歩いている気配くらいは感じろよ、と思う。
「じゃあ犯人は一体誰なんだ?」
俺は大した証拠もないのに犯人を決めつける眠らない毛利小◯郎ばりの迷推理で婆さんの口からの自白を迫る。
「どうなんだよ、婆さん」
「ーー強欲様の仕業じゃよ」
「ーーは?」
しかし婆さんの口から出たのは自白の言葉じゃなく妙に中学二年生が喜びそうな名前の真犯人だった。て言うか犯人知ってるんじゃねぇか。
「強欲様、強欲の神マドン様はこの地に代々伝わる悪神様で、ふと現れては誰にも気付かれず人の物を盗っては消える、やらしい神様だよ。最も、盗むのは忠誠心の足りない愚か者の所有物で、マドン様を慕えばなんてことは無いんだけどね」
「その強欲様を悪神だのやらしい神様呼ばわりしたのはどこの誰ですか」
「ともかく、しょうがないね。強欲様に盗られた物はもう二度と戻っては来ないよ。残念だったね」
やれやれといった様子で婆さんは首を振る、が、納得できるか!強欲様なんて急にオカルティックな名前を出されても信じられる筈もない。そもそも婆さんが目を離したのがいけなくて、そうじゃなくても管理者である貴方が責任を取るべきで、強欲様なんて知ったこっちゃあ無いんだよこっちは。
「諦めな」
それでも婆さんは頭を下げない。そうかい、じゃあこっちだって考えがある。
「ーーとりあえず、警察を呼びますよ」
「そうしな」
婆さんは完全に開き直って、ーーもういいよ。婆さんがどうしようがこれから先は全てお巡りさんが決める。せいぜい今のうちに澄ました顔をしておくんだな。
◇◆◇
「ただいま到着しましたッスーーってあれ?貴方はーー」
「ああ、お久しぶりです」
「てゆーかさっきぶりッスよ。お兄さん事件体質なんスね」
事件と聞いて駆け付けた警察官は先程コンビニ強盗が起こった際にも事情聴取に訪れていた磯城さんだった。額にかいた汗を拭う動作も妙に色っぽい、汗も滴る良い女である。
「ところで今回の現場っていうのはーー」
「ああ、こっちです」
俺は美人と行動を共にすることに緊張しつつドキマギしつつ、事件が起こった俺の部屋へと案内する。
◆
「ーー何もねーッスね」
磯城さんは至極単純で非常にシンプルな感想を口にした。実際そうだ。俺の荷物は塵も残さず綺麗さっぱり盗まれてしまったから、見渡す限り何もない。
「こんな事が出来るのは強欲様だけだよ」
「ちょっと黙ってて下さい婆さん」
この期に及んでオカルト話を持ち込まないで頂きたい。今警察官が調べた結果が出れば、何の変哲もない簡単なトリックが今に浮かび上がるさ。
「ーーそうッスね、犯人は強欲で間違いないと見ていいでしょう」
「ーーえ?」
ちょっと、どうしたんですか磯城さん。貴方までコレを神様の仕業と申し上げるのですか。ぶっちゃけ言ってあり得ない、神様がこの世に存在するわけが無いでしょう。
ーーて言うかアレか?よく調べずにこの地に来たが、怪しげな信教宗教を村ぐるみで行っているところなのかここは?でも警察官が国じゃなくて神に従えるのは流石にマズイんじゃなかろうか。
「いえ、私は神様にヘコヘコと頭を下げるようなまねはしないッスよ、流石に。ーー強欲というのは連続盗難事件の犯人の俗称ッス。ソイツを神様と拝む人なんかもいたりするみたいッスけどね」
「ーーいいやマドン様はこの地に代々伝わるーー」
「ちょっと婆さん黙っててもらっていいスか」
スパッと台詞を切られ、婆さんは伸びた背筋をしゅんと丸まらせる。ーー悲しいほどに哀愁が漂ってるな。涙が出そうだよ。
「ーーところで、えーと、ーー名前は何でしたっけ?」
磯城さんは困ったように頬をかきながら、薄い笑顔でこちらを見る。
そんな磯城さんに対して、俺はうー、とかえーとか言ってはぐらかしていたが、じーっと磯城さんがこちらを眺めてくるので、
「ーーヘリオスです。赤井ヘリオス」
ーー言いたくなかった名前を言わざるを得なくなり、断腸の思いで、口を開いたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ガールズガーディアンガンガンダッシュ戦記
七井 望月
ファンタジー
至って普通の高校生、神林慎一郎は車に轢かれてゲームの世界にやって来た。そして何故か美少女になった彼は仲間達と共にこの世界を冒険する。
※まだまだ不束者で、わからない事だらけなので感想、批評どんどん下さい。お願いします何でもします。
※お色気要素(R15)、百合展開もあります。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる