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第3話 強欲の悪神マドン

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「ーーいやー、そもそもこの田舎町にはさ、若者が少ない訳よ。僕と店長と、ーー店長はそこまで若くもないか?、まあとりあえず結構な限界集落具合なんだよね。君みたいな旅行客も珍しいくらい。だけども美男美女が何故だか多いんだよ、不思議な事に。さっきの女性警察官しかり、山奥の洋館のお嬢様しかり、ーーああ、そうそう、向かいにでっかい山があるじゃん、そこにえらい美人なお嬢様とメイドさんが住んでるんだよね。でもなんせ山奥だから、たまに買い出しにメイドさんがこの店に来るんだよ。その子も凄く可愛くてさぁ、ちょくちょく世間話なんかして、仲良くなっちゃったりしてさーー」

「ーーはあ」

 岩隈さんはペラペラとよくそんなに舌が回るなあと思うくらい饒舌に語る。先程磯城さんと対面してからずっとこんな調子である。

 茶髪でチャラ男で見た目プレイボーイなのにも関わらず意外とウブなんだな、と話し半分で聞きながら岩隈さんに対する印象が田舎で幅を利かせている片思いヤンキーに変わったところで、俺は一つ気になったことを岩隈さんに尋ねる。

「ーーところで店長ってどんな人なんですか?」

 その存在しか知らない店長とやら。岩隈さんの口から店長の話はしばしば出てくるのだが、いまいちどういう人なのかしっくりこない。

「ーーうーん、どんな人ねぇ。ーー強いていうなら怒ると怖い、とかかなぁ」

「ーーあまり参考にならない情報ですね。怒って怖くない人なんて居ないと思うんですけど」

「あー、あと喧嘩はめちゃくちゃ強いよ。この村の、田園地帯の辺りだと最強なんじゃないかな?」

 つまりはここいら一帯で幅を利かせているヤンキーのボスと言ったところか、そして岩隈さんはその手下だと。岩隈さんの印象が田舎で幅を利かせている片思いヤンキーから田舎で幅を利かせているヤンキーの手下と変わったところで、暇そうに欠伸をする岩隈さんから、

「ーーねぇ、暇だから今日はもう店仕舞いしない?多分お客さん来ないよ」

 と、提案された。

「いや、いいんですか勝手に。店長に怒られたりしないんですか?」

 しかも店長は怒ると怖いらしい。指を詰められたり東京湾に沈められたりはしないだろうか。

「大丈夫大丈夫、店長が居ない時は僕が店長代理だから。好き勝ってやってもお咎め無しっ!良い身分だよホント」

 と、嬉々として岩隈さんが語るので、

「ーーそれじゃあ今日はお開きにしますか」

 お言葉に甘えて、俺のコンビニバイト生活一日目は終了したのであった。




 ◇◆◇





 ーー宿に帰ってまず、俺は自分の目を疑い、頭を疑い、現実を疑った。これは何かの見間違いだろうか、それとも俺は盛大な勘違いをしているのか?はたまたこれはやけにリアルな白昼夢か?



 ーー部屋に置いていた俺の私物が一切合財無くなっていた。

 俺が最後に疑ったのは受付の元気な婆さんで、犯人であろうとなかろうとこの宿屋を管理する以上はこの婆さんに責任がある訳で、ドタドタと俺は受付まで駆け出し、婆さんを揺すって責任を追及する。

「おい婆さん!どうなってんだよ!!俺の部屋に置いてあった荷物が消えてるんだが!!」

「ありゃー、それは災難だったね」

「婆さん、なんか不審な行動をしていた人物とか見なかったのかよ?」

「見なかったねー」

「ーーまさかとは思うが、婆さんが犯人じゃないよな?」

「いやいや、まさか」

 とはいうものの、俺は婆さんが何かを隠しているであろう事は半ば確信していた。というかずっと入り口前の受付で陣取っているのに犯人の存在に気付かないってことは無いだろう。たまたま偶然席を外していたとしても、それなりの大荷物を持ったヤツが歩いている気配くらいは感じろよ、と思う。

「じゃあ犯人は一体誰なんだ?」

 俺は大した証拠もないのに犯人を決めつける眠らない毛利小◯郎ばりの迷推理で婆さんの口からの自白を迫る。

「どうなんだよ、婆さん」

「ーー強欲様の仕業じゃよ」

「ーーは?」

 しかし婆さんの口から出たのは自白の言葉じゃなく妙に中学二年生が喜びそうな名前の真犯人だった。て言うか犯人知ってるんじゃねぇか。

「強欲様、強欲の神マドン様はこの地に代々伝わる悪神様で、ふと現れては誰にも気付かれず人の物を盗っては消える、やらしい神様だよ。最も、盗むのは忠誠心の足りない愚か者の所有物で、マドン様を慕えばなんてことは無いんだけどね」

「その強欲様を悪神だのやらしい神様呼ばわりしたのはどこの誰ですか」

「ともかく、しょうがないね。強欲様に盗られた物はもう二度と戻っては来ないよ。残念だったね」

 やれやれといった様子で婆さんは首を振る、が、納得できるか!強欲様なんて急にオカルティックな名前を出されても信じられる筈もない。そもそも婆さんが目を離したのがいけなくて、そうじゃなくても管理者である貴方が責任を取るべきで、強欲様なんて知ったこっちゃあ無いんだよこっちは。

「諦めな」

 それでも婆さんは頭を下げない。そうかい、じゃあこっちだって考えがある。

「ーーとりあえず、警察を呼びますよ」

「そうしな」

 婆さんは完全に開き直って、ーーもういいよ。婆さんがどうしようがこれから先は全てお巡りさんが決める。せいぜい今のうちに澄ました顔をしておくんだな。




 ◇◆◇




「ただいま到着しましたッスーーってあれ?貴方はーー」

「ああ、お久しぶりです」

「てゆーかさっきぶりッスよ。お兄さん事件体質なんスね」

 事件と聞いて駆け付けた警察官は先程コンビニ強盗が起こった際にも事情聴取に訪れていた磯城さんだった。額にかいた汗を拭う動作も妙に色っぽい、汗も滴る良い女である。

「ところで今回の現場っていうのはーー」

「ああ、こっちです」

 俺は美人と行動を共にすることに緊張しつつドキマギしつつ、事件が起こった俺の部屋へと案内する。

 ◆


「ーー何もねーッスね」

 磯城さんは至極単純で非常にシンプルな感想を口にした。実際そうだ。俺の荷物は塵も残さず綺麗さっぱり盗まれてしまったから、見渡す限り何もない。

「こんな事が出来るのは強欲様だけだよ」

「ちょっと黙ってて下さい婆さん」

 この期に及んでオカルト話を持ち込まないで頂きたい。今警察官が調べた結果が出れば、何の変哲もない簡単なトリックが今に浮かび上がるさ。

「ーーそうッスね、犯人は強欲で間違いないと見ていいでしょう」

「ーーえ?」

 ちょっと、どうしたんですか磯城さん。貴方までコレを神様の仕業と申し上げるのですか。ぶっちゃけ言ってあり得ない、神様がこの世に存在するわけが無いでしょう。

 ーーて言うかアレか?よく調べずにこの地に来たが、怪しげな信教宗教を村ぐるみで行っているところなのかここは?でも警察官が国じゃなくて神に従えるのは流石にマズイんじゃなかろうか。

「いえ、私は神様にヘコヘコと頭を下げるようなまねはしないッスよ、流石に。ーー強欲というのは連続盗難事件の犯人の俗称ッス。ソイツを神様と拝む人なんかもいたりするみたいッスけどね」

「ーーいいやマドン様はこの地に代々伝わるーー」

「ちょっと婆さん黙っててもらっていいスか」

 スパッと台詞を切られ、婆さんは伸びた背筋をしゅんと丸まらせる。ーー悲しいほどに哀愁が漂ってるな。涙が出そうだよ。

「ーーところで、えーと、ーー名前は何でしたっけ?」

 磯城さんは困ったように頬をかきながら、薄い笑顔でこちらを見る。

 そんな磯城さんに対して、俺はうー、とかえーとか言ってはぐらかしていたが、じーっと磯城さんがこちらを眺めてくるので、

「ーーヘリオスです。赤井ヘリオス」

 ーー言いたくなかった名前を言わざるを得なくなり、断腸の思いで、口を開いたのだった。




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