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第五章 キングダムインベードミッション
アズっち!アズっち!アズっち!後編
しおりを挟む「……なるほど。慎一郎は記憶を失ってしまったというわけですね。分かりました。でしたら少々昔話をしましょう。むかーしむかし、そのまたむかし、私がまだ幼稚園児だったころのはるかむかしのお話です」
アズはそう話を切り出すと、咄家のごとく正座で俺と相対し、口元に手を寄せて語りだした。
「そこまで昔じゃないですね」
「黙って聞いてて下さい」
お叱りを受けて、俺は青菜に塩でしゅんとする。
……今から少しばかり時を遡る。突如アズからの包容を受けた俺は驚き口を開けっぱなしにしていた。アズは続けて俺の頬にキスをしようとしたが、流石に俺は断った。
「……慎一郎?どうしたのですか?」
困った顔でアズは言う。……何も覚えていない俺はただただアズに謝った。
「……もしかして、約束を忘れてしまったのですか?」
「……ごめんなさい。何も、分からないんです」
俺は胸が締め付けられる思いでそう言うと、アズももの悲しげな顔をした。
だがアズはすぐさま明るい表情を浮かべると、俺の肩を掴んだ。
「大丈夫ですよ、慎一郎。……私が、分からせてあげますから」
……アズのその台詞に、……俺は少しだけ嫌な予感がしたが、ここからアズの昔話が始まり、話の振り出しに戻るのだった。
※
「前回の世界大戦、それが12年前のことです。一方の国は戦況を有利に進めており、つまりもう一方の国は苦戦を強いられていました。そこで戦況を打破するべく、追い詰められた国、それが現在の王国を統べるレイカ国ですが、レイカ国はとある計画を実行しました。人体実験により、兵士に超能力を与えたのです。それがとても上手くいった例が現在の王国近衛兵達です。お分かりかも知れませんが、全員がとてもまだ若い女の子です。そこでレイカ国は気付きました、大量の犠牲の上に。超能力の実験は失敗が多かったのですが、小さな女の子に対しては驚くほど成功率が高いことを。そうして実験を続けていく内に生まれたのが、王国曰く最高傑作のエドでした。エドは時間を操れます。そうして異次元空間での鍛練を続けた結果、エドは史上最強の戦士となりレイカ国の即戦力になりました。その後もレイカ国は実験を続け、エドが時を戻した後も記憶を継承する超能力を発見しました。今まで失敗と廃棄されてきた中にも同じ能力を持った人がいるかもしれません。それはさておき、エドの能力と記憶の継承能力を組み合わせた所謂ゾンビ戦法が開発されたのもその頃です。時を戻しつつ記憶を継承しつつのトライ&エラーでレイカ国は戦況をひっくり返しつつありました。またその頃、レイカ国はとある発見をします。異世界、慎一郎たちがいたアースのある世界ですね。そこにいる住人、特に日本にいる人達が能力に対してとんでもない適応力を持っていることが明らかになります。そこで実験体として白雪七海ちゃん、私、そして比較対象として慎一郎が連れてこられたのです。やはり三人は脅威的な反応を示し、各々が近衛兵と同じ様に固有の超能力を手に入れました。特に慎一郎の能力は、一夜にして戦争を終わらせました。そして、この世界大戦で活躍した者たちは、王国の近衛兵になったり東西南北中央のそれぞれの国の支配権を得たりと、相当の報酬を与えられました。しかし慎一郎はそれを受け取ることなくアースの世界に帰っていきました。白雪七海と一緒に。そして私は一人東の国に残ったのです」
「……なるほど」
アズに言われた通り、俺は黙って話を聞いていたのだが、ずいぶん長かった上に驚きの連続だ。雑な感想しか口から出せない。
「……アズさん、貴女も俺や七海と同じ異世界の出身だったんですね」
「そうです。私、アズと名乗ってますが、本名は東(あずま)望愛(のあ)って言います。……あと、覚えていないでしょうがその昔、私と慎一郎はとある約束……婚約を、交わしたんですよ?」
「……え?」
……婚約?つまり俺とアズ、東望愛は交際をしていたような関係なのか?いや、流石に子供同士の冗談であろう。だが何となく、なぜ七海が俺にこの話をしなかったのか分かった気がする。
「……ところで、やっぱりアズさんはエドさんのこと知ってたんじゃないですか」
「……あれ?私、今何の話をしていましたっけ?」
「…………」
いや、それはボケすぎですよアズさん。もうちょっと抜けてるどころじゃないよ。記憶が抜けてるよ。
「……ああ!すいません。私またなにか変なこと口走っちゃいましたか?」
「……それは天然が過ぎますよ、アズさん。ほら、世界大戦の話とか、王国の話とか、超能力の話とか……」
「超能力……?あ、そうですね。言い忘れてました」
思い付いたようにアズさんが言うと、舌を出してテヘペロする。許した。
「……超能力、私以外の二人、七海さんは幽体離脱や憑依、読心術。慎一郎は対価に応じた能力を発生させる力をそれぞれ持っていますが、私の能力は大変シンプルで、どれだけ傷付こうが決して死なないんです。……この能力で、戦争では最前線を任されていましたが、ある時脳みそごと吹っ飛ばされてしまいまして、記憶が曖昧だったり変な事を口走ったりするのは……まあ、ご愛嬌ってことでよろしくお願いいたします♪」
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