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第五章 キングダムインベードミッション

白髪のマッドサイエンティスト

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 銀髪、もしくは白髪とも言えそうな、積雪の様な色の髪を適当に膝の辺りまで伸ばした、例えるなら若い山姥みたいな少女が、気を失ってぐったりとしているレイの事を抱き抱えていた。

 少女はまるで埃の如く存在感が希薄である。いつの間に俺達の背後を取っていたのか、全くもって分からないほどに。

 戦闘慣れしているミミも俺と同感だったらしく、突然現れた少女を見て目を丸くしていた。

「コイツ、いつの間に……?」

「ついさっきダヨ。二人が仲睦まじく手を繋ぎ合ってた時ダネ」

 少女は気絶しているレイの手を握ってブンブンと上下に振る。力なく倒れているレイはまるで時が止まっているかの様に反応がない。

「……アア、そういえば僕の名前、まだ言ってなかったネェ。僕の名前ハ……」

「王国の近衛兵の兵長の一人、クア。また科学技術班の班長でもある」

 ……少女が自己紹介をする前に、まるで知ってる人物の様にミミは彼女、クアとやらの肩書きを紹介する。された側のクアは隈だらけの薄い目を見開いて驚いていた。

「アレ、君と僕、どこかで合ったことがあるッケ?それとももしかして僕のファン?」

「残念ながら、私は君の事が嫌いだ。そしてここで会ったが初めましてだな」

 あっけらかんと言ってのけるミミに、クアはぽかんとしていたが、すぐに合点がいったかの様に手を合わせると自信満々な笑みを浮かべて言った。

「ああそウカ、君はあレカ、12年前の世界対戦の使い捨ての兵隊の一人カ。記憶を引き継ぐ体質を使ッテ、死んでは時を戻して生き返リ、また死んでは時を戻して生き返ル。トライアンドエラーで形勢を覆しつつあったもノノ、突如現れた一人の少年によって一夜にして戦争は終結シ、結局君らの頑張りは全て無駄になってしまったという可愛そうな兵隊の一人カ!」

「相変わらず煽るのが上手だな。クソヤロウ」

 ……何やら険悪な雰囲気。ただしクアの方はミミの事を知らないようなので、きっと過去のループの中で何かがあったのだろう。

「……だが大口叩いていられるのも今の内だ。こっちにはその世界対戦の英雄がいるんだからな」

 そう言って、ミミは俺の事を指差す。

「……え、俺?」

 英雄?何の事だ。申し訳ないが心当たりが無い。いや、もしかして英雄(えいゆう)じゃなくて英雄(ひでお)かもしれない。でも俺は慎一郎だし、やっぱり心当たりが無い。

「……君ガ、英雄?まさか君があの神林慎一郎だって言うのカイ?」

「え?まあ、はい。俺の名前は神林慎一郎ですけど」

「……もしかして七海様から何も聞いて無いのか?」

 ミミはそう言って肩を落とす。いや、何も聞いてないという事はないが、聞いたのは俺がこの世界に来て一週目の世界の事、この世界がゲームの世界とは別物だということだけだ。

「……まあ、今はその話はいい。まずは目の前にいるマッドサイエンティストを倒すだけだ」

「マッドとは随分酷いじゃなイカ。……だけども今日は許ソウ。何せ気分がいいかラネ。七海、そして慎一郎。懐かしい名前を聞ケテ、僕は嬉しイヨ」

 小躍りしながらクアは続ける。

「慎一郎クン、君の能力は随分と不安定だカラ、次に会うときは片腕くらい失くしてるだろうと思ってたケド、まさかおち○ちんを失くしてるとは思わなかっタヨ。ひゃっはッハ!!」

 ……こいつ、しばいたろかな。

「それにどうやら君は記憶も失っているみたいだネェ。……残念ダヨ。もしかしたら君も僕のように王国近衛兵としての地位を手に入れてたかもしれないノニ。ふっふッフ、不憫だネェ、不憫でならなイヨ!!はっはっはッハ……ぅあ、あァン///」

 舌足らずな語尾にも関わらず饒舌に語るクアが突如喘ぎ声を上げる。彼女は掠れた、どこか不気味な声をしているのだが、喘ぎ声はエロかった。

 何が起こったのかと思えば、クアに捕らえられたレイが、クアの股間をまさぐっていた。

「……クソ、睡眠薬が切れたノカ!!……んっ///、ハ、離セ!この変態!!」

「すいません、無意識で……どうやら私は寝ぼけていると変態になるらしいですから。でも、貴女の喘ぎ声で目が覚めました」

 レイはクアの拘束を振りほどくと、こちらへ向かって両手を広げながら走ってきた。

「……チロさん!」

 俺に抱きつこうとして万歳しながら駆けてくるレイを受け止めようと、俺も両手を広げて腰を落とす。

 勢いに負けて倒れてしまわないように俺はしっかりと足腰に力を入れて、迫ってきたレイを抱き締めようとして……



 ……彼女の華奢な体が、俺の身体をすり抜けた。

「……え?」

 ……一瞬、何が起こったのか理解できなかった。いや、今もまだ理解が追いつかない。俺とレイは互いを見合って、そして自分達の手を見た。

「何で……」

 すると、またも勢い良くレイがこちらへ向かってくる。彼女は俺の手を握ろうとして、……またもやすり抜ける。

「ど、どうしてですか!?」

「……やっと気付いた様ダネ」

 股間を押さえたクアが笑う。

「私の能力、その名も不可侵!!平たく言エバ、各々の干渉、不干渉を操る力サ!今、君と慎一郎は違う領域(エリア)にイル!お互い触れることは出来ないノサ!!」

 悪戯っぽく、クアは舌を出して、

「……サア、空色髪のお嬢チャン、もとい、国王の元売女。さっきはよくもやってくれタネ。悪い子ニハ、お仕置きをしないといけないよネェ……?」






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