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第四章 ファーストプレイ:デットエンド

空色美少女と愛の哲学

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「……」

「……」

 両者共に無言。この静かな露天風呂の中、鳥の囀り、鹿威し等の音のみが響き渡る。

 そんなこの場に今いるのは俺、チロとカナの二人のみだ。会話は無く、ただ時が過ぎ去るのみ。

 ……あれだけの事があったのだ、無理は無い。横に座るカナの横顔を覗くと、口元が軽く腫れていた。

「……カナ様?口元が……」

「え?ああ、大丈夫だよ。……いや、ごめんね、チロ。やっぱり私先に出るね?」

「あ、は、はい」

 カナは軽く笑顔を浮かべ、そう言う。この状況下でも微笑みを浮かべて接してくれる彼女は本当に何と言うか人が出来ている。人と触れあう優しさ、それが彼女は長けている。

 ……そんな彼女が何故傷つかねばならなかったのだろうか。そう思うと憤りを感じる。だがそこで怒りを表に出してしまったら俺の負けとなってしまう。俺は必死に怒りの感情を胸の内に仕舞う。

「……先程は派手にやらかしましたね。チロさん」

「あ、レイさん。先程は申し訳ありませんでした」

 そんな中、この場にやって来たのは北の国のナンバー2、空色の髪の美少女、レイだった。彼女はそう言うと広い浴槽の中、俺と肩が触れあう程近く、俺の隣に腰かけた。

「別に問題ありませんよ。…あと、敬語も良いです。私まだ20なので」

「いえ、僕もまだ18なんで、全然レイさんの方もタメ口で良いですよ。」

 俺が年齢を口にするや否や、レイは驚き目を丸くした。

「え!?チロさんってまだ十代なんですか?お若いですね!……しかもそれであの勇気ある行動を…、流石ですね」

「いえいえ、そんな……」

 俺がレイの言葉に首をふるが、レイは更に真面目な面持ちで続ける。

「私からも謝らないといけません。先程の主の不敬と、その従者である私の不手際を、どうかお許し下さい。……あの場は私が何とかするべきでした。しかしながらカナ様に怪我をさせてしまった上に、主の尻拭いを全てチロさんにさせてしまいました。……本当にどう謝罪すればいいのか…」

「いや、本当に大丈夫です。レイさんの責任じゃあないですよ」

「いえ、責任は私にあります。……なのでその責任をどうか取らせて下さい」

 そう言うと、レイは立ち上がり、一糸纏わぬその裸体を余すこと無く俺の目前に広げる。

「あ、あの、レイさん?」

「……代償は私の身体で。…チロさん、貴方は実の所は男性でしょう?以前も似たような事がありまして、見抜ける事も容易になったんですよ」

 そう言って、レイはその素肌を俺の体に擦り付ける。

「御免なさい。こんな事で許してもらえるとも思ってません。だけどもこれが私に出来る精一杯です。本当に申し訳ないです」

 レイは震える声でそう言う。そしてその華奢な体で俺の事を抱き締めようとする。……だが、その手は震えていた。

「レイさん!止めてください!怒りますよ!」

 俺は叫ぶ。するとレイは驚いた様な表情を浮かべる。

「今回の件は貴方に一切非はありません!それなのにどうして頑なに自分に罰を与えようとするのですか!もっと自分を大切にして下さい!それに簡単に自分の身体を売るような真似も止して下さい!貴方の身体はそう安い物じゃ無いです!だって、その……可愛いんですから…」

 勢いに任せて、ただ俺は叫んだ。何を言ったかは殆ど覚えていない。ずいぶん恥ずかしい事を口走ってしまった様な気もするが……。

「……有難うございます。優しいんですね」

 レイから返ってきたのはそんな言葉だった。

「……貴方になら、本当の愛を与えても良いと、そう思いましたよ」

 レイが小声でそう呟く。その言葉を聞き逃した俺が、その言葉を再度問おうとした時に……


 ……破壊音が、この場に響いた。




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