77 / 100
第四章 ファーストプレイ:デットエンド
空色美少女と愛の哲学
しおりを挟む「……」
「……」
両者共に無言。この静かな露天風呂の中、鳥の囀り、鹿威し等の音のみが響き渡る。
そんなこの場に今いるのは俺、チロとカナの二人のみだ。会話は無く、ただ時が過ぎ去るのみ。
……あれだけの事があったのだ、無理は無い。横に座るカナの横顔を覗くと、口元が軽く腫れていた。
「……カナ様?口元が……」
「え?ああ、大丈夫だよ。……いや、ごめんね、チロ。やっぱり私先に出るね?」
「あ、は、はい」
カナは軽く笑顔を浮かべ、そう言う。この状況下でも微笑みを浮かべて接してくれる彼女は本当に何と言うか人が出来ている。人と触れあう優しさ、それが彼女は長けている。
……そんな彼女が何故傷つかねばならなかったのだろうか。そう思うと憤りを感じる。だがそこで怒りを表に出してしまったら俺の負けとなってしまう。俺は必死に怒りの感情を胸の内に仕舞う。
「……先程は派手にやらかしましたね。チロさん」
「あ、レイさん。先程は申し訳ありませんでした」
そんな中、この場にやって来たのは北の国のナンバー2、空色の髪の美少女、レイだった。彼女はそう言うと広い浴槽の中、俺と肩が触れあう程近く、俺の隣に腰かけた。
「別に問題ありませんよ。…あと、敬語も良いです。私まだ20なので」
「いえ、僕もまだ18なんで、全然レイさんの方もタメ口で良いですよ。」
俺が年齢を口にするや否や、レイは驚き目を丸くした。
「え!?チロさんってまだ十代なんですか?お若いですね!……しかもそれであの勇気ある行動を…、流石ですね」
「いえいえ、そんな……」
俺がレイの言葉に首をふるが、レイは更に真面目な面持ちで続ける。
「私からも謝らないといけません。先程の主の不敬と、その従者である私の不手際を、どうかお許し下さい。……あの場は私が何とかするべきでした。しかしながらカナ様に怪我をさせてしまった上に、主の尻拭いを全てチロさんにさせてしまいました。……本当にどう謝罪すればいいのか…」
「いや、本当に大丈夫です。レイさんの責任じゃあないですよ」
「いえ、責任は私にあります。……なのでその責任をどうか取らせて下さい」
そう言うと、レイは立ち上がり、一糸纏わぬその裸体を余すこと無く俺の目前に広げる。
「あ、あの、レイさん?」
「……代償は私の身体で。…チロさん、貴方は実の所は男性でしょう?以前も似たような事がありまして、見抜ける事も容易になったんですよ」
そう言って、レイはその素肌を俺の体に擦り付ける。
「御免なさい。こんな事で許してもらえるとも思ってません。だけどもこれが私に出来る精一杯です。本当に申し訳ないです」
レイは震える声でそう言う。そしてその華奢な体で俺の事を抱き締めようとする。……だが、その手は震えていた。
「レイさん!止めてください!怒りますよ!」
俺は叫ぶ。するとレイは驚いた様な表情を浮かべる。
「今回の件は貴方に一切非はありません!それなのにどうして頑なに自分に罰を与えようとするのですか!もっと自分を大切にして下さい!それに簡単に自分の身体を売るような真似も止して下さい!貴方の身体はそう安い物じゃ無いです!だって、その……可愛いんですから…」
勢いに任せて、ただ俺は叫んだ。何を言ったかは殆ど覚えていない。ずいぶん恥ずかしい事を口走ってしまった様な気もするが……。
「……有難うございます。優しいんですね」
レイから返ってきたのはそんな言葉だった。
「……貴方になら、本当の愛を与えても良いと、そう思いましたよ」
レイが小声でそう呟く。その言葉を聞き逃した俺が、その言葉を再度問おうとした時に……
……破壊音が、この場に響いた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる